人形姫・14




「俺も、先生になることになったよ」

ナルトの卒業が決まってすぐの事だった。

「わぁ!すごい!って、私先生じゃないですよ」
「いやいや、名前先生って慕われてるじゃない。肩書より大切なことだ。ま、俺は先生と言うより上司だけどね。部下にはあのナルトもいるよ。サスケ、サクラもね」
「すごいメンバーですね!」
「そうなんだ。と言っても、俺の部下になれるかどうかは試験次第何だけど」

また、試験があるのか……。忍の世界は大変だ。
これから顔合わせだから、夕方には帰るよ。そう言ってカカシは家を出た。




「ただいま」
「おかえりなさい。ナルトくん達は、どうでした?」
「んー、あいつらの第一印象は嫌いだ。ま、大丈夫でしょ」

きっと、ナルトが何かイタズラでもしたんだろう。それが可愛い所でもあるんだけど。自分の上司にするなんて、大した肝っ玉だと名前はある意味感心した。

「そうですか…。あ、試験は受かりましたか?」
「試験は明日。それでお願いがあるんだけどね、明日、弁当を2つ作ってくれない?」
「2つだけで良いんですか?」
「うん。2つがいい」
「分かりました」
「ありがとう。感謝するよ」

カカシは戯けながら、名前をギュウギュウと抱き締める。息出来ないです、と名前は照れながら笑っていた。一昨日の事で、二人の距離はかなり縮まった気がした。友達とは違う、もっと親密な雰囲気を2人は感じていた。だからって、それが何かは名前は分からなかったが。

翌日、カカシにお弁当を渡し、名前は依頼所に出勤した。
依頼所が空いていたため、手の空いた名前は待機所の掃除をする、忍者学校と違って、周りは上忍だらけ。里の中でもトップの人達なのだ。少し緊張する。

「今年もカカシは落とすのかな?」

聞き慣れた名前。手を止めず、耳を澄ます。なんか悪意が含まれた声だったから。

「あぁ、あいつは部下を作る気が無いんだろうな。下忍と仕事したら、レベルの低い任務ばかりだ。天才には見合わないしな。やりたくないんだろうな」
「そうだな」

カカシは、レベルとかそんなのを気にする人間じゃない。何も分かってない上忍達に腹が立つ。顔を見るのも憚られて、さっさと掃除を終わらせると、名前は依頼所に戻った。
受付の椅子に座った所で、アスマが依頼所に姿を現す。

「アスマさん!おつかれさまです!」
「よ、名前。相変わらず頑張ってるな」
「お陰様で。あ、アスマさんに任務出てますね。ん、アスマさんなのにDランク?」
「あぁ、俺も部下が出来たからよ」
「アスマさんも!わぁ、頑張って下さい!」

名前が笑顔で依頼書を手渡す。アスマは、くわえたタバコを少し上下に揺らして、名前を上から下まで眺めたあとに紙を受け取った。

「ふーん。通りでカカシも頑張る訳だ」

名前の頭にハテナが浮かぶ。アスマは独り言、と含み笑いをするだけだった。

「名前さん、こんにちは」
「まぁ、こんにちは。ライドウさん。あれ、今日はお仕事でしたっけ?」
「いえ、先日貸してくれたハンカチ、洗ったので返します。近くに用があったもので」

ライドウは、花が刺繍されたハンカチを差し出す。
報告書を出しに来たライドウの汚れた顔を、名前がハンカチで拭いてあげたのだった。
一緒に可愛い包装のチョコレートも差し出した。この里にも、こんな素敵なものがあるんだと名前は嬉しくなる。

「そんな、丁寧にありがとうございます!」
「俺こそ、先日はありがとうございました。あの、今度良かったら、お礼でもさせて下さい」

頬を赤らめながら、ライドウは頬をカリカリと掻いた。

「お気持ちだけで嬉しいです。大したことはしていませんし。最近、大変な任務立て込んでいるんですから、ゆっくりお休みなさって下さい」
「そ、そうですね」
「また、会えるの楽しみにしてますね」

名前が微笑んで、ライドウは自分の中の時が止まるのを感じた。いつもと違うライドウの様子を、アスマはニヤニヤと見ていた。

「カカシ、ライバル出現だぜ……」

そう小さく呟くいてタバコの煙を吐くと、アスマは依頼所を出発した。
定時になり、名前は帰路につく。考えるのはナルト達のこと。きっともう試験は終わっているんだろう。

「ナルト達、大丈夫だったかな」

玄関を開けると、もうカカシの靴があった。名前より早く帰ってくるなんて珍しい。名前は、早く顔が見たくて急いで靴を脱いだ。

「今日は早いんですね」
「ん、試験も終わったしね」
「えーと、結果はどうでした?」
「アイツラは、ダメだ」
「え!?じゃあ……」
「まだまだダメだけど、仲間を大切にする奴等だった。今日から、晴れて下忍としてスタートだよ」
「受かったんですね!すごい!」

安堵と喜びが溢れ出る。

「名前の大事な子供達だしね。大切に育てるよ」
「カカシさん、頑張って下さい。私も頑張ります!」
「お祝いはないの?」
「え?えーと」

何も用意していないことに焦る名前。と言うか、冷静に考えてお祝いするのはナルト達であって、カカシではないと思ったが言わずにいた。でも、そんな考えはすぐにカカシにバレてしまったらしい。

「冗談だよ。美味しいご飯食べたいな」
「はい!待ってて下さいね」

名前は、エプロンを掛けるとすぐに料理を始めた。
カカシは手伝うよと言ったが、お仕事大変なんですから休んで下さい!と、無理矢理ソファに座らされてしまった。ソファに体を沈めながら、カカシは名前を眺める事にした。
鼻歌を歌いながら、料理を作る後ろ姿。なんの歌か分からないが、何だか新婚夫婦の生活の様でカカシは背中が痒くなる。名前と結婚したら、きっとこんな感じなのだろう。

「カカシさん、お味噌汁は茄子とカボチャならどっちが良いですか?」
「茄子…かな」
「はーい」

名前は、茄子をアク抜きしながら目線を感じてカカシの方を見た。名前は、鼻歌を止めて気不味そうにしている。

「もしかして、歌、下手でした?」
「え?」
「すっごく見てるから、何か変な事してたかなって思いまして」
「名前が可愛いから見てただけ」

舞妓の時には、浴びるように言われた褒め言葉も、カカシの口から言われると耳が熱くなるほど照れくさい。
名前は、どうして良いか分からなくなって、黙って作業に戻った。恥ずかしそうにしている名前の姿が可愛くて、カカシはソファから立ち上がった。気配を消して、名前の背後に立つ。全然気付かない名前。本当に無防備な彼女にカカシはフフッと微笑む。
料理が完成し、名前は鍋の火を止めた。

「ふー、わぁ!」

カカシが名前を後ろから抱き締める。薄い肩を両腕で包み込んだ。

「驚かしちゃったね」
「カカシさん?」
「名前が可愛くて、抱きしめたくなった」
「……や、え?そんな」

名前は、真っ赤になった顔を両手で隠した。カカシは、その両手を優しく握り顔を露わにする。下から見上げて来る困った顔が可愛くて、カカシはニヤニヤとしてしまう。きっと自分の今の顔は気持ち悪いだろう、口布をしてて良かったと思った。
なんて幸せな言葉をくれるのだろう。名前は甘い気持ちになる。でも、こんな素敵なカカシが私を可愛いだなんて信じられない。

「あんまり…私をからかわないで下さい」

名前が少しシュンとして、俯きながら言うものだからカカシはしまった!と思った。

「からかってなんか無いよ」
「はい……」
「俺は、本気だよ?」
「……えっと」

名前が困惑する様子を見て、自分の口から出た言葉に気付く。自然に本心が出てしまった。カカシは、名前の体を自分に向き合わせた。名前は恥ずかしそうに目を伏せ、睫毛を揺らしている。

「名前は、俺のこと」
「私は……」

パクパクと言葉を紡ごうとしている唇が可愛くて、カカシは辛抱堪らない。

「名前、こっち見て」

カカシは、見上げてきた名前の頬を両手で優しく包む。

「名前の事が、愛しくて愛しくて堪らないよ」

その瞬間、名前の顔が耳も頬もすべて真っ赤に染まる。カカシの吐息の混じった言葉は、名前の時間を止めるのに造作もなかった。固まる名前の頬に口付け、そのまま唇にも口付けした。口布越しに伝わる名前の柔らかさが、カカシの心を満たす。ずっと触れたくて触れたくてたまらなかった。

「あ……」

目を見開いて、ポカンとしている名前に気付きカカシは口付けをやめた。

「ずっと触れたくて堪らなかった。ずっと我慢してた」

驚き過ぎて名前の思考回路は、停止してしまった。目の前のカカシが、自分の事を愛しいと思ってくれ、さらにはキスまでしてくるなんて。まるで…

「夢みたい……」

名前がカカシの体に抱き着く。名前から抱き着いてくれるなんて初めてのこと。カカシは胸がバクバクと暴走するのを感じる。

「好きだよ、名前」
「私も……カカシさんのこと好き……です」
「名前……」

カカシは口布を下げて、今度は直接唇に触れる。
お互いの唇に雷が走ったように、ビリビリとした衝撃が走る。あまりの気持ちよさに、カカシは何度も名前の唇にキスをする。

「カカシさん……」
「……名前」

強く抱き締めれば壊れてしまいそうな体を、カカシは体いっぱい抱き締める。名前の小さな手が、カカシの服を掴む。

この手を守りたい。カカシはそう心から誓った。


ー15ー

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