人形姫・03


「大丈夫だった?」
「ちょっと怖かったけど、大丈夫です……」

花風はニコっと微笑む。カカシの胸がトクンっと脈打つ。忍なのにこんな簡単に胸を高鳴らせるなんて、まだまだ修行が足りないんだ。自分を戒めながら執務室と書かれたドアを指差す。

「えっと、無理させて悪いね。ここに火影様がいる」

カカシはドアノブに手を掛ける前に、ふと花風の方を振り向く。予想しない動きに、花風は体をビクリと震わせた。

「準備は良い?」
「はい。ご迷惑お掛けして申し訳ありません」
「そーだ、君の本当の名前は?」
「苗字名前です」
「名前ちゃんね。じゃ、開けるよ」
「あの、あなたは」
「俺?はたけカカシ」

変な名前だと思った。きっと芸名か何かだと思った。
そんな事よりも、今は火影様と言う方に会わなければならない。名前が小さく深呼吸する。それに合わせるように、カカシはノックをして扉を開けた。たくさんの書類に囲まれて老齢の男性が一人判をひたすら押していた。書類から目を離すこともなく、しかしこちらをちゃんと見ているような感じで口を開く。

「カカシか、突然なんの用じゃ?その女の子は?」

こちらを一瞥せずとも、名前がいる事を問う男性に驚きを隠せずにいた。監視カメラでずっと見ていたのだろうか。名前は思わずカメラを探す。カカシに背中をトンと軽く添えられ、名前は男性が座る机におずおずと歩みを進めた。

「森にいるところを保護しました」
「苗字名前と申します」
「まぁ、お人形さん。こりゃ綺麗だな」

名前がどぎまぎしていると、男性がフフフっと優しく笑いかける。全てを受け入れてくれるような、優しくて強い笑顔だった。仕事柄、年上の男性は沢山見てきたが、こんな笑顔が出来る人は初めて見た。それだけで、きっと物凄い経験をして来たんだろうと感じた。

「ワシは、三代目火影をしている。ちょっと詳しくあなたの事教えてくれ」
「はい」

カカシは、事の顛末を三代目に伝える。
空から降ってきたこと、知らない土地から来たこと、舞妓と言う知らない職業をしていること。その他にも色んな事を言っていたが、特殊な言葉が多くて何を言っているか分からなかった。

「色んな国には行ったが、まだまだ知らない街があるなんてね。それに彼女から、チャクラを感じませんでした」
「ほう……。チャクラがないとは驚きじゃ」

名前もはじめは真面目に聞いていたが、何やら色んな知らない単語が飛び交いすぎて、日本語のはずなのに何言ってるか全くわからなかった。やっぱり夢の世界にまだいるんだと思った。これは、変な夢ベスト3に入ると思った。

「名前さん。悪いが、すぐには元の場所へ返せない。しばらくはカカシの監視の元、過ごしてもらうことになる」
「は?」

突然のことに反応したのはカカシ。

「カカシが見つけたんじゃから、面倒をみろ。家と費用は用意してやる。その間の長期任務は他のやつに回すから安心しろ。これは任務だ」
「んー、仕方ないか……」

名前は、困ったようなカカシに申し訳無さを感じる。

「あの、私、ご迷惑お掛けしてますか……」
「名前さん、心配するでない。元の場所に戻るのが第一だ。ただ場所がわからないから調べる時間をくれ。それまでの短い時間だけだ。な、カカシ」
「慣れてるからだいじょうぶ」
「お二人共、ありがとうございます」
「気にするな。悪くないようにする」

優しくニカッと笑う三代目。名前は、少しホッとした。なんかこの人は信頼できる気がする。そんな気がした。

「そういうわけだ。名前さん、念のため体の検査をしていけ。その間に家を用意する」





全身くまなく検査され、少しグッタリした。
病院の設備は、日本とあまり変わらなくて不思議だった。天国にもレントゲンってあるんだとビックリした。ただ、お医者さんの手から見た事もない光が出ているのを時には、やっぱりここは天国なんだと理解した。
だとしたら、あのカカシと言う男は嘘をついているのかもしれない。
病院のロビーに行くと、椅子に座ってカカシが待ってくれていた。名前の姿を見つけると、読んでいた本を腰につけたポーチに仕舞い、長い足をゆったりと進ませて側に来てくれた。

「体は大丈夫だった?」
「はい、何もないそうです」
「そりゃ、良かった。火影様が仮の家を用意してくれたから、今からそこに行くよ」

家は、比較的すぐ近くにあった。とても賑やかな通りを歩きながら、カカシはここら辺が里の中心街だと教えてくれた。

三代目は、名前が高貴な方なのかも知れないと思ったようだ。2部屋居室があり、広々としたリビングとキッチン。リビングからは広いベランダに出ることができる。充実した機能のお風呂。
すぐにでも生活が始められるよう、最低限の家具や消耗品が用意されていた。

「まぁ、こんな立派なお家を」

置屋では、自室は6畳間しかなかった為、その広さに戸惑っていた。

「火影様が用意したんだ。気にしないで」
「優しいお方なのですね」
「そうだな……。名前ちゃん、着替える?その格好では苦しいでしょ」

これもまた三代目から配慮された段使いできる着物を、名前に渡す。薄紅色の花柄がとても可愛らしい。

「こんな可愛いお着物、ありがとうございます」

名前は頭を下げてお礼を言う。

「俺じゃなくて、三代目に言ってね。俺みたいなオッサンより、可愛い女の子に言われた方が嬉しいでしょ?」
「カカシさんにも感謝してますから。えっと、体も濡れてしまったので、ちょっとシャワーを浴びてきますね」

名前は、着物を持って風呂場に向かった。

「濡れた?」

名前が現れた時から濡れてなどいないのに、何が濡れてしまったのか、不思議だった。

ー4ー

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