過去編

ルフィの祖父ガープがフーシャ村にルフィを預けたことを失敗だと思ったのは、ルフィがシャンクスに憧れを抱き「海賊王になる」と宣言したからだ。平和なあの村で暮らせば、将来は祖父に憧れ海兵を目指すはずだった。
そのため、ガープはルフィを険しい環境に置くことを決めた。その事をまだ知らなかったフミは、初めてコラボ山を訪れた時隣に居なかった。
ルフィが待ち合わせ場所に来ない事をおかしく思い、母やマキノに尋ね回り、最初は危険だと大人達は教えなかった。だか、しつこく聞き回り毎日泣いているフミを見るに堪えない両親は、ルフィの居場所を教えるしかなかった。コルボ山にいることを知ったのは3ヶ月後。ルフィがエースとサボと仲良くなってからだった。
ルフィもフミに会いに行きたかったが、山から出られるとも思えなかった。
フミは母と父の反対を押し切り、初めて親に反抗を見せ、コルボ山のルフィの元へと向かったのだ。娘が、初めて自分の意思で海賊になると両親に告げたのはその時だった。ルフィに海賊になろうと誘われてからというもの、自分も海に出るべきか迷っていたが、やはりルフィを失いたくないという思いはシャンクスの一件からより強くなっていた。
そんなフミをガープが黙って見ているはずもなく、山賊ダダンの元へフミを預けることも躊躇しない。

「女の子ォ!?」

「ルフィの幼馴染じゃ。」

「ルフィとエース……サボってガキと3人で参ってんのに、それに加えて…こんな普通の女のガキを……」

「…何じゃい」

「お預かりします!!!」

その時、フミはダダンに向かい頭を深々と下げた。常識ある行動に、感動して涙したのはダダンとガープの2人だった。
フミがついた頃、3人はダダンの家にいなかったがすぐに帰ってきたようだ。

「フミ!?…フミー!!!!」

ルフィは山小屋にいるフミを見つけた瞬間に抱きついた。その行動にエースとサボは驚く。

「会いたかったぞ!そろそろ迎えに行こうと思ってた!」

「遅いから来ちゃったよ…」

ルフィの後ろから2人を見つめるエースはフミをギロリと睨みつけている。サボは微笑んでいた。

「フミ!紹介する!エースとサボだ!10歳だぞ!」

「は、はじめまして……フミです」

「よろしくな!フミ!」

サボは笑いかけたが、エースと呼ばれた少年は目を合わせることがなかった。フミみたいなタイプがエースは嫌いである。エースは不貞腐れたように蚊帳の中へ入っていった。

「エースのことは気にしないでくれ!フミとルフィはどういう関係なんだ?」

「んーーーーフミは大切だ!」

「ルフィとは6歳から一緒です」

「幼馴染ってやつか!」

サボとはすぐに仲良くなれそうだが、エースとは難しそうだとフミは小さなため息をついた。
それからフミもともに暮らすことになったが、3人の遊びにフミはついていけなかったのでダダンの手伝いをすることが多かった。エースと話すことが少ないので、打ち解けるにも時間がかかる。

そんなある日、帰ってきたルフィ達を出迎えたフミはあることに気がついた。

「………それ、破れてる。」

エースのシャツが破れていることに気がついて、フミは恐る恐る伝えてみた。

「お前、しゃべれるんだな。」

「………え?」

「ずっとルフィから離れずに、なにも話さねェから。」

「は、話すよ。」

エースと目も合わせられずに、フミは破れたシャツを見据えていた。エースの目つきは怖いが、破れたままのシャツがどうしても気になる。

「それ、私…直せるよ。」

「え!?これを……?」

じゃあ頼むよ、と目の前でシャツを脱ぎ捨てた彼はフミに投げるように渡した。それを受け取ったフミは近くの木の陰に腰掛ける。
木の陰は心地良く、なにもかも忘れてただ縫うことだけに集中できた。エースがじっと見ていてもフミは気がつかない。

「うわ、すげェ。」

「………わっ!いたの……?」

大きく頷いた彼は、はやくしろと言いながらフミを見つめる。ルフィに見られ続けるのは慣れているが、恐怖心を抱いているエースに見られるのとはまた違った。フミは緊張しながらも手早い手つきで縫っていく。それでも、いつもより時間がかかった。

「…………できたよ。」

「お前!すげェ!!ありがとな!」

塞がった穴をみて、嬉しそうに笑うエースにフミも自然と笑みがこぼれる。フミが初めて笑う姿を見て、エースは罪悪感が生まれた。

「その…睨みつけて悪かったな……」

「え?」

「友達になってやる!」

「……うん!よろしく!エース!」

やっとエースと友達になることができ、フミは心の底からエースの前で笑うことができた。その笑みに、女の子に慣れていないエースは顔を赤くする。

「もっと笑えよ!……その、いいと思うぞ。」

「なにが?」

「おま…………フミの笑顔。」

友達が増えたことの嬉しさから、フミはもう一度エースの名を呼ぶ。エースはフミの隣に腰掛け、話しはじめた。ルフィとの出会い、ゴミ山と呼ばれるグレイターミナルでなにがあったのか、海に出るためにお金を貯めている話。知らないことばかりだった。
そんなとき、ふいにフミは誰かに引き寄せられ、視界が揺れる。急な出来事に悲鳴をあげた。

「ひっ!」

「なに楽しそうにしてんだ?」

「ルフィ、なんだ妬いてんのか?」

「昨日までフミ、エースのこと避けてたのに!なんでだよ!」

「ルフィ、なに怒ってるの?」

「エースと喋んな!」

ルフィはフミに怒ってしまった。ルフィにもなぜこんなにイライラするのかは分からない。エースとフミが笑い合っているだけで腹が立った。
せっかく出来た友達と話すなと言われれば、フミも腹が立って当然だろう。立ち上がり、ルフィの頬を叩く。

「ルフィのバカ!知らない!」

掴まれた腕を振り払い、離れた瞬間フミは駆け出した。くまのぬいぐるみは置いてきてしまったが、振り返ることはしなかった。胸が苦しくなり、泣けてくる。なんで?どうして?と疑問ばかりが浮かんだ。
下を向いているルフィにエースは困ったように口を開く。

「ルフィ、どうした?」

「………なんかフミとエースが話してるの見てたら、イヤになって。気づいたら、フミの腕掴んでた……フミ怒ったよな」

「ルフィ、お前フミのこと好きなのか!?」

「?、……フミのことは好きだぞ。」

「ちげェよ。その……あれだよ!わかるだろ?」

「恋愛のことだろ?」

エースが照れて言えないでいると、一部始終を見ていたサボが参加した。エースは力強く二度頷き、ルフィを見据える。

「れんあい?」

恋のことをわかっていないらしいルフィは、サボに向かって首を傾げた。
エースは呆れたように笑うと、恋について自分が知る限り教えてやろうと思うが、どうしても照れてしまい吃る。察したサボが口を開いた。

「フミをみてドキドキするか?ずっとそばに居たい、他の男と話してたら腹が立つ。それを好きって言うんだよ。わかるか?」

「……なんとなく。」

確かに、フミとはずっとこの先も一緒にいたいし、エースとサボでも話されるとモヤモヤした。ルフィは少し考えて、これが恋なのだろうと察する。

「へーサボ恋したことあんのか?」

「エース。今はルフィの話だろ?」

「後で聞かせろよ!?……ルフィ。もしフミもお前のこと好きだったら嬉しいか?」

「……もし、フミが………、おう!嬉しい!」

「そうやって二人ともが好きだったら、恋人同士になるんだ。」

「恋人………」

「よし、とりあえず謝ってこい。それから自分の気持ちを伝えろ。」

「好き、って言うのか?」

頷くエースとサボを見てルフィも頷き、フミが走っていった方向へと駆けだした。はやく伝えたくてワクワクしてる分、少し緊張しているのが分かった。
フミの大切なくまのぬいぐるみを拾いに戻り、また駆け出した。





「フミ〜〜〜〜〜〜!!」

ルフィの呼ぶ声が聞こえて、思わずフミは振り返ってしまう。このままだと追いつかれるため咄嗟に、木の陰に隠れることにした。怒っているので、出るに出られない。

「はぁ、はぁ。いねェ。」

ルフィは息を整えながら、微かにフミの気配を感じた。近くにいる気がする。だとしたら、自分の気持ちをぶつけてしまえばいい。

「フミ、ごめんな。おれ、フミのことが好きだ!だからエースと喋らねェでほしかったんだ!友達でもなくて家族でもなくて、恋なんだ。おれはフミが女として好きだ!」

ドキンッとフミの胸が大きく高鳴って、なぜか瞳から涙が溢れる。
嬉しいのだろう、こんなにも胸がドキドキしてルフィを失うのが怖くて、ルフィの笑顔を見ているだけで幸せで……ずっと待ってたのかもしれない。フミの母が言っていた『いつか、出会う素敵な人』を。
恋という言葉は知っていたが、これがそうなのだとフミはルフィに教えられた。

「ル、フィ……」

「フミ、やっぱりいた。」

「え……?」

「なんとなくフミがいる気がした。」

まだ小さな身体で、それよりも小さなフミをルフィは強く抱きしめた。

「好きだ。」

「うん。」

「フミ……」

「好き。ルフィが好き。」

ルフィの黒い瞳を見つめながら、フミは笑いかける。その笑顔が、声が、ルフィには堪らなく愛おしく感じられた。感じたことがない感情。でも、これが人を好きになることなのだと2人が同時に理解した。

「大好き。」

「フミ…離したくない離れたくない」

ルフィが海賊になっても、海賊王になっても、変わらずフミはどこまでもついていくとこの時心の中で誓った。
そしてルフィは、フミと必ず海賊になって、自分が海賊王になるのを見届けて欲しいとこの時強く思ったのだった。

それからというもの、ルフィはもっともっと強くなるための努力をした。それも全てフミを守りたかったからだ。だが、フミは家で待つことしかできない。 3人は朝から晩まで山の中へ行ってしまう。
フミは寂しくなって、ダダンの腕に抱きついた。素直で可愛いフミをダダンはすぐに気に入った。特に男共しかいないこの山ではこんなに可愛くて素直な子は珍しい。

「フミ、どうした?」

「寂しくて……ダダンさんは何してたの?」

「新聞を読んでたのさ。何でも"天竜人"とかいう連中がやってくるらしい。」

「ふーん。」

天竜人という言葉を初めて聞くフミは、それがどういう人たちなのか考えすらしなかった。





**






それから数日が経った。フミはといえば毎日一人で何かを縫っていた。まだ簡単なものしか縫えなかったが、日々上達していく。
ルフィ、エース、サボは毎日出掛けては大きな獣を狩って帰ってくる。楽しそうな彼らの姿を見て、フミは寂しさが増すばかりだった。
寝る時だけ、四人全員そろって川の字の様な形で眠る。その時だけが、フミの唯一の楽しみだったが、限界が近づいていたのだ。

「ルフィ、エース、サボ」

「なんだ?」

「どうした?」

「私、帰る。」

「どこに!?」

「お家に。」

フミの言葉を聞いた瞬間に、布団に寝転んでいたはずの三人がバッと起き上がった。そして寝転ぶフミを驚いた顔で見下ろしている。

「なっ、なんで帰るんだよ!」

「そうだ!なんで帰るんだ!」

「フミ、理由を教えてくれ。」

エース、ルフィ、サボが順に呟いた後、フミはゆっくりと起き上がり、目に涙を浮かべた。
その表情にルフィだけでなく、エースとサボでさえ赤面してしまった。女の子の涙というのはずるいものだ。

「………しい。」

「え?」

「…………寂しいんだもん。」

くまのぬいぐるみで顔を隠しながら、フミは小さな声で呟いた。隠さないと涙が溢れたのが三人にバレてしまいそうだったから。少しの沈黙のあと、口を開いたのはルフィだった。

「フミ!ごめん!フミを怪我させたくなかったんだ!」

「けど、それがフミを一人にしてたんだよな……」

「おれ達三人で守れば、一緒にいたって大丈夫なはずだ」

三人の言葉が嬉しくてフミは顔を上げる。垂れている涙に三人は大慌てだった。

「な、泣かないでないくれ!」

「そんなに寂しかったんだな。」

急いでフミは涙を拭うが、ルフィ達は正座して頭を下げていた。

「「「ごめん。」」」

「いいの!だってこれからは三人が守ってくれるんでしょ?」

三人は顔を見合わせて、頷き合った。
守るものができると、人はより成長できるのだから、これから三人はすぐに成長するだろう。それくらい、フミが大切だった。
もしも、この四人で海に出ることができるのなら、どんなに楽しいだろうか。フミはこれからもずっと四人でいられると信じていた。


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