過去編

それからルフィとフミはずっと一緒にすごした。お互い6歳で、他に友達もいなかったので、毎日のようにマキノの酒場で待ち合わせし遊んだ。

2人が7歳になる日が近づいていたある日。海賊がフーシャ村にやってきた。初めて見る「海賊」にフミは恐怖を感じたがルフィは違った。
赤髪海賊団船長シャンクスはフーシャ村が気に入り、長い間いることになった。1年ほどすぎた時には、フミも海賊たちに恐怖を感じることなく、村民たちもそうだった。

「おい、ルフィなにする気だ」

「ふん」

今日も今日とて、ルフィは海賊船に向かい、その船首に立ってシャンクスたちを困らせていた。

「おれは遊び半分なんかじゃない!もうあったまきた!!証拠を見せてやる!」

「ルフィっ、危ないよ!」

フミは心配して声をかけるが、ルフィは答えようとしない。シャンクスは声に出して笑う。

「だっはっは!おう!やってみろ。何するか知らねェがな!」

「またルフィが面白ェ事やってるよ」

「ふん!!!!」

「ル、ルフィ!?!?」

フミの悲鳴に似た声が響く中、ルフィは手に持っていたナイフで自信の左目の下を刺した。赤い血が噴き出る。
海賊たちも度肝を抜かれ、瞬時に言葉が出なかった。

「いっっってェーー!!!!!!」

「バ、バカ野郎!!何やってんだァ!?」

「いてーーよーーーっ!!!」

大慌てで、船員たちがルフィに駆け寄る。すぐに手当てしなければ。シャンクスに関しては大笑いしながら、倒れかけのフミの小さな体を支えていた。気絶寸前である。

「だっはっは!!フミ!大丈夫か?宴するぞー!」

シャンクスは真っ青なフミを抱えて、船員たちと船から降りる。向かうは、いつもの酒場。
マキノはルフィを見て、悲鳴を上げたがそれを見てもシャンクスは笑った。

「野郎共乾杯だ!ルフィの根性とおれ達の大いなる旅に!」

船員たちはジョッキを天に掲げ、シャンクスの合図とともにそれを飲み干した。

「あーーーいたくなかった」

「うそつけ!バカな事すんじゃねェ!!」

涙を浮かべながら、ルフィは強がるのでシャンクスは呆れたように言った。フミはといえば、涙で腫れた目をこすりながらカウンター席に大人しく座っている。

「おれはケガだってぜんぜん恐くないんだ!連れてってくれよ次の航海!おれだって海賊になりたいんだよ!」

「だっはっはっは!!お前なんかが海賊になれるか!カナヅチは海賊にとって致命的だぜ!」

「カナヅチでも船から落ちなきゃいいじゃないか!それに戦ってもおれは強いんだ!ちゃんと鍛えてるからおれのパンチはピストルのように強いんだ!」

「ピストル?へーそう」

「なんだその言い方はァ!!」

シャンクスは目を逸らしながら、呆れ顔だ。
鍛えてると言っても、空気に向かってパンチを何度もしているだけである。フミはいつもそれを近くで縫い物をしながら見ていた。

「おうおうルフィ!なんだかごきげんナナメだな」

「楽しくいこうぜ何事も!」

「そう!海賊は楽しいぜェ!」

「海は広いし大きいし!いろんな島を冒険するんだ!」

「何より自由っ!!」

船員たちは肩を組みながら、ルフィに向かって口々に言い放った。それを聞いて、ルフィはより憧れてしまう。

「お前達。バカな事を吹き込むなよ」

「だって本当の事だもんなー」

「なー」

「お頭いいじゃねェか。一度くらい連れてってやっても」

「おれもそう思うぜ」

船長のシャンクス以外はルフィの船出について賛成の様子だった。ここまで憧れているのだ、経験くらいいいだろう。

「じゃあかわりに誰か船を下りろ」

「「さぁ話は終わりだ飲もう!!」」

「味方じゃないのかよ!!」

船員たちはルフィの近くから離れていく。そんな姿にルフィは腹が立ち、声を荒げる。

「要するにお前はガキすぎるんだ。せめてあと10歳年とったら考えてやるよ」

「このケチシャンクスめ!言わせておけば!!おれはガキじゃない!!」

「まァ怒るな。ジュースでも飲め」

「うわ!ありがとう!!」

「ほらガキだおもしれえ!だっはっはっ!」

「きたねェぞ!!!」

ルフィが怒れば怒るほど、シャンクスは笑いが止まらない。無邪気な子供がかわいいのだ。

「フミは止めねェのか?」

シャンクスはずっと隣で大人しくしていたフミの頭を撫でる。目が腫れているし、拗ねているのが理解できた。

「わたしは知らない!ルフィなんて海でもどこでも行っちゃえばいいんだよ」

「寂しいのかー?」

「違うもん!シャンクスのバカ!!」

「だっはっはっ!フミもガキだなぁ!お前もあと10歳年とればおれが連れてってやるよ。フミは顔がいいし…」

「お頭きもいぞー!」

「うっせェ!!」

不貞腐れたフミにシャンクスはジュースを差し出す。それを大人しく飲むフミはルフィと同じまだまだ子供だった。

「相変わらず楽しそうですね船長さん」

「ああ、こいつらをからかうのはおれの楽しみなんだ」

マキノは楽しそうなルフィとフミを見て、楽しい気分になる。シャンクス達が来るたびにマキノは嬉しかった。

「ルフィとフミちゃん何か食べてく?」

「ああ、じゃあ"宝払い"で食う!フミの分も!」

「でたな宝払い!お前そりゃサギだぜ」

「違う!!ちゃんとおれは海賊になって宝を見つけたら金を払いに来るんだ!!」

「ふふふ!期待して待ってるわ」

「しししっ!」

宝払いとはよくルフィが口にする言葉で、子供のフミもそれを信用して、いつも一緒に食べていた。
きちんと、あとでフミの母がお金を渡しているが知る由もない。

「シャンクス」

「なんだ」

「あとどれくらいこの村にいるの?」

「そうだなァこの村を拠点に旅をしてもう1年以上経つからな。あと2.3回航海したらこの村を離れてずっと北へ向かおうと思ってる」

「ふーん。あと2.3回かァ」

「寂しい…」

寂しそうなルフィとフミを見て、マキノは小さくため息をついた。

「おれそれまでに泳ぎの練習するよ!」

「そりゃいい事だな!勝手にがんばれ」

泳げればシャンクスが連れて行ってくれるとルフィは信じている。フミはいつも海賊になろうとするルフィに何も言えなかった。寂しさや、心細さ、応援したい気持ち、いろんな感情が混ざっていた。

ーーーーバキッ!!!!

突然、酒場の扉が破壊された。しんっと静まり返る酒場にぞろぞろと入ってくる男たち。

「ほほう…これが海賊って輩かい…初めて見たぜ間抜けた顔をしてやがる」

そう言いながら、強面の男は歩いていきシャンクスのカウンター席に近づいた。マキノは数歩後ずさる。

「おれ達は山賊だ。が、別に店を荒らしにきた訳じゃねェ。酒を売ってくれ。樽で10個ほど」

「ごめんなさい。お酒は今ちょうど切らしてるんです」

「んん?おかしな話だな。海賊共が何か飲んでる様だが…ありゃ水か?」

「ですから、今出てるお酒で全部なので」

マキノが申し訳なそうに山賊へ告げた。強面の男は隣座っているシャンクスを見下ろす。シャンクスは苦笑いを浮かべた。

「これは悪い事したなァ。おれ達が店の酒飲み尽くしちまったみたいで、すまん!!これでよかったらやるよ。まだ栓もあけてない」

シャンクスは瓶を男へ差し出す。
少しの間のあと、男はその瓶を突然殴った。バリィンッと瓶が割れる。全員が息を呑んだ瞬間だった。
ルフィはすぐにカウンター席から離れていた。フミも助けないといけないが、ルフィにはまだその余裕がない。目の前の男を見上げるのに精一杯という様子。

「おい貴様。このおれを誰だと思ってる。ナメたマネすんじゃねェ…瓶1本じゃ寝酒にもなりゃしねェぜ」

シャンクスの顔が酒に濡れ、水滴が滴り落ちる。服も濡れてシャンクスの肌に貼り付いていた。

「あーあー床がびしょびしょだ」

「これを見ろ。八百万ベリーがおれの首にかかってる。第一級のおたずね者ってわけだ。56人殺したのさ。てめェのように生意気な奴をな。わかったら…今後気をつけろ。もっとも山と海じゃもう遭う事もなかろうがな」

男は立ったまま、自身の手配書を見せつけ自慢げに言ったが、シャンクスはそれを無視するかのように、地面に散らばった瓶の破片を拾う。

「悪かったなァ、マキノさん。ぞうきんあるか?」

「あ………いえ、私がやりますそれは」

そんなシャンクスの態度に腹が立ったのだろう。山賊の男は剣を抜き、机の上にあった料理に斬りつけた。
ガシャァンッ!と食器や料理が飛び散る。マキノとフミは小さな悲鳴を上げた。
シャンクスは間一髪で席に座っていたフミを引き寄せ、その胸に抱え込む。おかげでフミに食器の破片が飛ぶことはなかった。

「掃除が好きらしいな。これくらいの方がやりがいがあるだろう」

シャンクスの麦わら帽子にも飛び散った料理が乗っている。その姿を見て満足した男は仲間達と共に出口へ向かった。

「じゃあな、腰ヌケ共」

そう、捨て台詞を吐いて出ていく。
すぐにシャンクスはフミの顔を覗き込んだ。幸い怪我はないが、涙で顔がぐしゃぐしゃだ。

「フミちゃん!船長さん!大丈夫ですか!?ケガは!?」

マキノが慌てて駆け寄ると、フミはすぐにマキノに抱きついた。シャンクスは笑みを浮かべる。

「あー大丈夫問題ない……ぷっ!!」

シャンクスが吹き出したと同時に、黙っていた船員達も声に出して笑い始めた。フミはそれが信じられず、動揺を隠せない。

「はっはっはっ!!」

「お頭はでにやられたなァ!!」

「なんで笑ってんだよ!!」

「ん?」

ルフィが叫びにも似た声をあげた。シャンクスはルフィを見据える。

「あんなのかっこ悪いじゃないか!何で戦わないんだよ!いくらあいつらが大勢で強そうでも!あんな事されて笑ってるなんて男じゃないぞ!海賊じゃないっっ」

「………気持ちは分からんでもないが、ただ酒をかけられただけだ。怒るほどのことじゃないだろう?…おい、まてよルフィ…」

「しるかっ!もう知らん!!弱虫がうつる!フミいくぞ!」

ルフィはずかずかと歩いて行こうとするが、シャンクスはルフィの手首を掴んだまま。だが、ルフィの距離はどんどん離れて、腕が伸びて伸びてーーーーー

「ん?」

「な……!?」

「手がのびた…!?こりゃあ!」

「まさかお前!」

「ないっ!敵船から奪ったゴムゴムの実が!!」

「何だこれあああーーっ!!!」

ルフィの目は驚きで飛び出し、シャンクスも固唾を飲む。

「ルフィ!お前まさかこんな実食ったんじゃ…!?」

船員の1人が変な模様の実の絵をルフィに見せた。それには見覚えがある。山賊が乗り込んできた時に、デザートとして食べた、ような。

「うん、まずかったけど……」

「ゴムゴムの実はな!!悪魔の実と呼ばれる海の秘宝なんだ!食えば全身ゴム人間!そして一生泳げない体になっちまうんだ!」

「えーーーーーっ!うそーーーーーー!」

「バカ野郎ォーーーー!!!」

ルフィとシャンクスの声はフーシャ村の端まで聞こえたらしい。

その一件以来、ルフィはフーシャ村でゴムの体を自慢するようになった。フミはルフィの性格が変わることはないため、気にもとめなかった。たまにその体で遊ぶこともあるくらい。
村の人たちもゴム人間になったことをそこまで何も思わない。シャンクス達も食べてしまったことは仕方ないため、それ以上何も言わなかった。

その後、シャンクス達はフーシャ村を出た。また近辺を航海して戻ってくるだろう。拠点はまだフーシャ村だからだ。
ルフィとフミはシャンクス達が航海に出ても、酒場には通っていた。

「もう船長さん達が航海に出て長いわね。そろそろ寂しくなってきたんじゃない?ルフィ」

「ぜんぜん!おれはまだ許してないんだ!あの山賊の一件!」

「かっこよかったけどなぁ。」

「フミは分かってないんだ!シャンクス達をかいかぶってたよ。もっとかっこいい海賊だと思ってたんだ。げんめつしたね」

「そうかしら。私もフミちゃんと同じく、あんな事されても平気で笑ってられる方がかっこいいと思うわ」

「マキノもわかってねェからな!男にはやらなきゃいけねェ時があるんだ!」

「そう…ダメね私は」

「うん、ダメだ!」

ルフィはジュースを飲み干しながら呆れた顔を浮かべる。フミとマキノなら分かってくれると思ったのに。
そんな時。酒場に客が入ってきた。その顔を見てルフィとフミは驚く。あの時の山賊達だったからだ。

「今日は海賊共はいねェんだな。静かでいい。また通りかかったんで立ち寄ってやったぞ。」

山賊の男はそう言いながら、席に堂々と座り机を叩いた。部下達もそれに続き席に着く。

「何ぼーっとしてやがる。おれ達ァ客だぜ!酒だ!」

マキノはフミ達に危害を与えられないように、慌てて酒を山賊達に提供していく。ルフィはイライラしていた。

「あの時の海賊共の顔見たかよ?」

「酒ぶっかけられても文句一つ言えねェで!情けねェ奴らだ!はっはっはっ」

「おれァ、ああいう腰ヌケ見るとムカムカしてくんだ。よっぽど殺してやろうかと思ったぜ!海賊なんてあんなもんだ。カッコばっかで」

その態度を見て、黙っていない子供が1人。海賊に憧れ、かっこいい男になりたい、ルフィだ。

「やめろ!!」

「ああ!?」

「シャンクス達をバカにするなよ!!腰ヌケなんかじゃないぞ!」

「やめなさいルフィ!」

「シャンクス達をバカにするなよ!!」

マキノの静止は聞かず、ルフィは山賊の男に近寄り、 小さな体で掴みかかる。腹が立った男はルフィの服を掴んで酒場から引きずり出した。

「ルフィっ!!………フミちゃん、村長さんを呼んでくるから、隠れててね」

涙を浮かべたフミにそう言った後、マキノは慌ててフーシャ村村長の元へと走った。
山賊の男はルフィの体を触り、驚く。ゴムのように伸びるその腕は初めて見るものだった。

「殴っても蹴っても効いてないらしい。」

「くそォ!!おれに謝れ!この野郎!」

「ゴム人間とは…なんておかしな生き物がいるんだろうなァ」

ルフィは男に殴りかかるが、すぐに腕を掴まれて投げ飛ばされる。痛くはないが、プライドは傷ついた。

「ちくしょう!!」

「見せ物小屋にでも売り飛ばしゃあ、けっこうな金になりそうだ」

「うわああああー!!!!」

ルフィは近くにあった木の棒を持って、諦めずに男に斬りかかる。向かってくるルフィを男は、足で地面に叩きつけた。ルフィの頬を踏みつけながら男は満足げに見下ろす。

「人が気持ちよく酒飲んで語らってたってのにこのおれが何かお前の気に触ることでも言ったかい」

「言った!!!あやまれ!ちくしょう!」

暴れるルフィを足で押さえつけたまま男は笑う。フミは酒場で震えていた。ルフィが叫んでいるのに、動けなかった。

「その子を放してくれ!頼む!」

村長とマキノが酒場前に着いた。
村長が男に向かって叫ぶ。そしてすぐに膝を地面に突き、頭を下げたのだ。所謂土下座というもの。

「ルフィが何をやったかは知らんし、あんた達と争う気もない!失礼でなければ金は払う!その子を助けてくれ!」

「村長っ!」

「さすがは年寄りだな。世の中の渡り方を知ってる。だがダメだ!もうこいつは助からねェ。なんせこのおれを怒らせたんだからな!こんな文字通り軟弱なゴム小僧にたてつかれたとあっちゃあ、不愉快極まりねェぜ。おれは!」

「悪いのはお前らだ!この山ざる!!」

ルフィは顔面を押さえつけられながらも、叫ぶ。男の眉間に皺がよると、剣を抜いた。

「よし、売り飛ばすのはやめだ。やっぱり殺しちまおうここで。」

その言葉に、酒場にいたフミも飛び出してルフィの名を泣きながら呼ぶ。マキノも村長もルフィを呼んだ。その声に男は止める事なく、剣を構える。

「港に誰も迎えがないんで、何事かと思えば…いつかの山賊じゃないか」

「船長さん!」

マキノと村長の後ろから歩いてきたのは、麦わら帽子をかぶったシャンクスだった。今しがた航海から帰ってきたのだ。

「ルフィ!お前のパンチはピストルのように強いんじゃなかったのか?」

「…っ!うるせェ!」

「海賊ゥまだ居たのかこの村に。ずっと村の拭き掃除でもしてたのか?何しにきたか知らんがケガせんうちに逃げ出しな。それ以上近づくと撃ち殺すぜ腰ヌケ」

男はそう言うが、シャンクスの歩みは止まらない。山賊の男の部下が銃をシャンクスに突きつける。

「てめぇ聞こえなかったのか!?それ以上近づくな。頭吹き飛ばすぞハハハハ!」

「銃を抜いたからには命を賭けろよ」

「あァ?何言ってやがる」

「そいつは脅しの道具じゃねェって言ったんだ」

シャンクスが言った瞬間に、船員「ラッキー・ルウ」が山賊の部下を撃ち抜いた。片手には肉が握られている。
血が噴き出し、倒れたのを見ると死んでいるだろう。

「や…やりやがったなてめェ!」

「なんて事…なんて卑怯な奴らだ!」

山賊達の言葉にタバコに火をつけながら、赤髪海賊団副船長の「ベン・ベックマン」は呆れた。

「卑怯?甘ェ事言ってんじゃねェ。聖者でも相手にしてるつもりか」

「お前らの目の前にいるのは海賊だぜ」

シャンクスが剣に手をかけながら、言い放つ。山賊達は明らかに動揺の色を見せた。

「うるせェ!だいたいおれ達はてめェらに用はねェぞ」

「いいか山賊…おれは酒や食い物を頭からぶっかけられようが、つばを吐きかけられようが、たいていの事は笑って見過ごしてやる。だがな!どんな理由があろうと!おれは友達を傷つける奴は許さない!!」

シャンクスの黒い瞳が真っ直ぐに山賊達を見据えていた。その瞳にルフィは強い衝撃を受ける。

「はっはっはっはっ!許さねェだと!?海にプカプカ浮いてヘラヘラやってる海賊が山賊様にたてつくとは笑わせる!ぶっ殺しちまえ!野郎共!」

男の言葉を合図に部下達はシャンクスに斬りかかろうとする。そこで前に出たのはベン・ベックマンだ。一人で充分だと言わんばかりに、誰の手も借りる事なく1人で全員を倒してしまった。
そして銃口を、ルフィを敷いたままの男に向けた。残るは山賊のリーダーその1人のみ。

「うぬぼれるなよ山賊…ウチと一戦やりたきゃ軍艦でも引っ張ってくるんだな」

「…つええ……」

「や、待てよ…仕掛けてきたのはこのガキだぜ!」

「どの道賞金首だろう」

山賊の男は顔を歪める。ここで殺されるわけにはいかない。小さく舌打ちが漏れ、懐に忍ばせておいた煙玉を地面に叩きつけた。
モクモクと煙が山賊とルフィを覆い隠す。

「来いガキ!」

「うわ!くそ!離せ!」

「ルフィ!!」

煙が晴れた頃には、ルフィと山賊の姿はなく、シャンクスは動揺を隠せない。フミも泣きながらルフィの名前を呼んだ。

「し!し!しまった!!油断してた!ルフィが!どうしよう!みんな!」

「うろたえんじゃねェ!お頭この野郎!みんなで探しゃあすぐ見つかる!」

大慌てのシャンクスを怒ったのは、ラッキー・ルウだ。フミは転びそうになりながら、シャンクスに抱きつきに行った。

「おう、フミは無事だったか!」

「シャンクスーーーーーっ」

「わかったわかった!ルフィを探しにいくぞ!」

泣いているフミを抱きかかえ、すぐにルフィを探し始める。そう遠くには行ってないはずだ。
海の方に近づいていくと彼らはすぐ見つかった。小舟に乗った山賊とルフィが見えた。男はすぐにルフィを海へと投げ捨てたのだ。泳げないルフィが海に落ちたとなれば、死んでしまう。フミは泣きながらシャンクスを見た。

「シャ、シャンクスっルフィがっっお願い、助けてっシャンクス」

「待ってろ!!」

シャンクスは走り、海へと飛び込んだ。
ルフィは海の中で暴れ、溺れているのがわかる。そこに、小舟よりも大きな魚が現れた。魚は問答無用で、山賊が乗る小舟ごと飲み込む。
フミの足は震え、その怪物のような魚がルフィに向かっていくのを見ることしかできない。

「お願い……ルフィを助けて……!!」

大きな牙が見える口がルフィに迫る。そこでルフィの体を支えたのはシャンクスだった。ギロリと魚を睨みつけーーー

「失せろ」

ビクッと魚は身体を震わせて、逃げていく。シャンクスの迫力に負けたのだろうか。
ルフィの瞳からは涙が溢れ出し、息ができない。

「恩にきるよルフィ。マキノさんから聞いたぞ」

「ひっく!えく…っ」

「おれ達のために戦ってくれたんだな。おい泣くな男だろ?」

「…だってよ…ジャングズッ…!腕が!!!!」

シャンクスの左腕は、先程の巨大魚の犠牲となっていた。ルフィは必死にシャンクスにしがみ付いたまま、泣いた。

「安いもんだ。腕の一本くらい…無事でよかった」

「……う…ううっ……うわああああああ」

ルフィは叫ぶように泣いた。
シャンクスが航海に連れて行かない理由を目の当たりにした。海の過酷さ、己の非力さ、なによりシャンクスという男の偉大さをルフィは知った。こんな男にいつかなりたいと心から思った。
そしてフミは、ルフィの大切さを改めて実感したのだった。大切なルフィを失いたくない。ずっと一緒にいたい。それが恋愛感情だと気づかなくても、フミは心から思った。






「この船出でもうこの町へは帰ってこないって本当!?」

「ああ。随分長い拠点だった。ついにお別れだな、悲しいだろ」

船出の準備をしている赤髪海賊団。
ルフィとフミはシャンクス達の見送りにきていた。

「うん、まあ悲しいけどね。もう連れてけなんて言わねェよ!自分でなることにしたんだ海賊には」

「どうせ連れてってやんねーよー」

「お前なんかが海賊になれるか!」

「なる!!!おれはいつかこの一味にも負けない仲間を集めて!世界一の財宝を見つけて!海賊王になってやる!!!!」

「ほう…おれ達を越えるのか」

シャンクスはルフィの姿に笑みを浮かべる。可能性をかけたくなったのだ。この小さな少年に。

「じゃあ…」

シャンクスは自身の麦わら帽子を手に取り、少し屈む。ルフィの頭にそれをかぶせて、笑ってみせた。ルフィは泣いていたが、それを隠すように深く。

「この帽子をお前に預ける。おれの大切な帽子だ」

シャンクスは背を向ける。どこに向かうのかまた会えるのか、そんな野暮なことは聞かない。

「いつかきっと返しに来い。立派な海賊になってな」

2人の少年少女の目からは大量の雫がこぼれ落ちる。
その大きな背中はぼやけて見えなかったが、大きく手を振って憧れの人とはそこで別れた。



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