※病気のことを全員に打ち明けた後の話※


チョッパーが船首の方へ行くと、いつもの光景が広がっていた。サニーの上でルフィとフミが座っている。フミが落ちないようにルフィはしっかりと後ろから支えていた。笑い声が聞こえ、楽しそうな2人の後ろ姿は微笑ましい。
チョッパーは声をかけようか迷ったが、薬の時間が迫っているため恐る恐る声をかけた。

「ルフィ、フミー!」

「おう!チョッパー!薬の時間か?」

「うん、あと今日は血液検査だ」

「あーだからフミソワソワしてたのか」

「バレてたの?恥ずかしいなぁ」

採血がいまだに慣れないらしいフミは既に涙目になっていた。ルフィはフミの手を引き、支えながらチョッパーの前に歩いていく。

「頑張るから待っててねルフィ」

「っ、おう!頑張れよ!フミ」

涙目で見上げてくるその顔に赤面しながらも、ルフィはフミの頭をくしゃくしゃと撫でる。そして、小さな2人の背中を見送った。

「はぁ、」

無意識にため息が出るのは、刻一刻とフミの命の終わりが迫っているからだ。毎日を笑顔で過ごそうと思ってはいるものの、フミが離れるとルフィはため息が止まらない。無意識なのでルフィ自身は気づいていないが、他のクルーたちは気づいていた。今も壮大な海を見つめながら考えているのはフミのこと。
フミの笑った顔、泣いている顔、怒っている顔、何かを考えている顔、落ち込んでいる顔、嬉しそうな顔が一気に頭の中を巡り、愛しさが増す。このまま一人でいればずっと考えてしまうため、ルフィは甲板に向かった。
生憎甲板には誰もいない。上を見上げると、ロビンが花に水をやっているのが見え、すぐに腕を伸ばしロビンの横へと飛んだ。

「あら、ルフィ。どうしたの?」

特に驚く様子もなく、横に来たルフィにロビンは笑顔を見せた。目の前の花たちは水に濡れ、太陽の光を反射し輝いている。

「んー、なんとなく。フミが検査するんだってよ」

顔に出していないつもりでも、ルフィは分かりやすい為ロビンはどう声をかけようか考える。悲しんでいるし、泣きたい船長に元気になってもらう最適な言葉とは。
考えた言葉は全てその場しのぎであり、きっとルフィには響かない。そして、ロビンも気持ちはルフィと同じだからだ。

「ルフィ、もうすぐ花が満開になるわ。花束をプレゼントするのはどうかしら」

「貰ってもいいのか?」

「私もフミの喜ぶ顔が見たいの」

「ロビンありがとな!」

ニカッと笑うルフィにロビンも笑顔を返した。
フミはたまにロビンの花壇に遊びに来て眺めていることがある。女部屋やダイニングキッチンにも生花は飾るが、花壇で見るのもフミは好きらしい。

「ルフィは、」

「ん、?」

「…ごめんなさい、何もないわ」

「ししっ、おう!」

ルフィは、フミがいなくなっても海賊王になるのよね?そう聞きたかったが聞けなかった。聞かなくてもルフィが立ち止まらないことは分かっているつもりだが、最近のルフィを見てロビンは少し不安になっていた。
ルフィは麦わら帽子を深くかぶり、下を向く。

「ロビン、心配すんな。大丈夫だ」

「…ふふっ、お見通し?」

「なんとなく」

人が欲しい言葉をストレートに察して伝えてくれる彼に改めてロビンは尊敬の眼差しを向ける。やはり、ルフィと共に夢の果てに行きたいとロビンは感じたと同時にそこにフミもいて欲しいと切ない願いを想う。

「そろそろフミ終わるかなー」

「まだだと思うわ」

下を向いたままのルフィに目線を移し、ロビンは小さく笑う。早く会いたくて仕方がない様子だった。


ーーー


採血が終わり、薬も飲んでチョッパーとフミは少し世間話をする。

「明日は雨が降りそうってナミちゃんが言ってたよ」

「えー!釣りしようってウソップとルフィと約束したのに」

「海が荒れたら難しそうだね」

「じゃあみんなでトランプしよう!」

「それいいね!あとでルフィに伝えとくね」

「そうだ!ルフィ探してるぞきっと!」

「うん、そろそろ行ってくる!チョッパーくん今日もありがとう」

フミはチョッパーの医療室をあとにし、ルフィを探すことにした。騒がしい声が聞こえないので、どこかで寝ているのだろうか。医療室を出るとすぐダイニングキッチンのため、良い匂いに包まれる。

「サンジくん、ルフィきた?」

「来てないよ。そういえば今日は大人しいな」

「ありがとう、探してみるね」

「フミちゃん、今日もありがとう。」

サンジはフミの検査の時間が終わるといつも「ありがとう」と言うようになった。頑張ってくれて薬を飲んでくれて生きてくれてありがとうと意味が込められている。フミはサンジに笑いかけ、ダイニングキッチンをあとにした。
甲板に出るとそこには誰もいなかったが、頭上からルフィの声がした。

「フミー!こっちだー!」

フミが見上げるとルフィとロビンが花壇の方で並んでいた。ぶんぶんと手を振るルフィは嬉しそうだ。すると、フミの目の前にルフィの手が伸びてきて腰を掴んだ瞬間に身体が宙を舞った。ルフィに引き寄せられ、フミは悲鳴を出す暇もなくその胸に飛び込んだ。

「もうっ、ルフィ!心臓に悪い!」

心臓に悪い、という言葉を聞いてルフィは慌ててフミを優しく抱きしめて謝った。

「ごめん。心臓痛くないか?大丈夫か?」

「違うよ、普通に怖いってこと!」

「なんだ、焦った…」

病気が悪化したんじゃないかとルフィは慌てたが恐怖の意味だったらしい。フミは怖いんだからね!と怒っている。その光景を見てロビンは自然と口角が上がった。

「あ、ルフィ!ズボン汚れちゃった!?」

フミを受け止めた時ルフィは座って受け止めた為、土でズボンが汚れてしまっている。

「ウソップがさっき洗濯するって言ってたから今なら間に合うと思うわよ」

「ルフィっ行こ!」

「わ、フミ!?」

フミはルフィの手を取って歩き出す。戦いで汚れるなんて当たり前なルフィは特に気にならないが、フミが言うなら反対する理由もないので大人しくついていった。
戦いの最中ならフミも許せるが、ルフィは汚れたまま他に座ってしまいそうで、もし船内を汚すとナミは確実に怒るし掃除が大変なのだ。

「フミー」

「なにー?」

「そのまま一緒に風呂入ろう」

「えっ、え!?」

前を歩いていたフミが赤い顔で振り返る。ルフィは至って冷静だった。
たまに一緒に入る2人だが、フミはまだ緊張するしドキドキしてしまう。

「私は汚れてないから脱がないよ?」

「入りたくなったから、入ろう!」

「ほんとに?」

「入るぞ!フミの裸みたいし」

「な、なに言ってるの!」

「おれは真剣だ。ほら、早くしねぇとウソップに怒られる」

赤いまま硬直しているフミを追い越し、ルフィが前になって風呂場へと向かう。ルフィは嬉しそうだが、フミは固まったままだ。
目の前に洗濯当番のウソップが、洗濯機に大量の衣類を入れていたころで、間に合ったようだ。

「ウソップー!追加だー!」

「ギリギリセーフだなルフィ!あれ?フミどうした?」

「フミかわいいだろー」

「そこじゃなくてだな。顔赤ェけど……ルフィに何か言われたか?」

「な、何もないの!ウソップくん、ルフィのズボンお願い!」

「おれ達今から風呂入るから全部洗ってくれ!」

「…そういうことか。フミ、お前も大変だなァ。汚ェズボンだけ洗うから他は明日の担当に委ねてくれ!」

「わかった!」

ルフィはその場でズボンを脱ぎ、ウソップへ渡した。そしてフミの手を引いて風呂場へと向かっていく。ウソップにバレてしまい恥ずかしくて下を向いたままフミはルフィの後ろに続いた。ウソップは哀れんだ目をフミに向けて、洗濯へと気持ちを切り替えた。

「フミー?大丈夫か?」

「…むり、恥ずかしい」

「ウソップに言っちまったのは悪かった!けどもういいだろ?早く風呂入ろう」

脱衣所で赤面したまま固まっているフミに既に裸のルフィが声をかけ続けるが動こうとしない。

「昔は一緒に入ったじゃねェか」

「今と昔は違うよ!もう子供じゃない、それに…」

「それに?」

鍛え上げられたルフィの胸板を見て、フミはより顔を赤くさせた。

「無理っ、お願いだから電気消して」

「んー……わかった。それで入ってくれるのか?」

「うん、入る。でも先入ってて?」

「おれが脱がす!」

「だめ!だめ!!」

もう見慣れてるからいいじゃん、とルフィは言いたかったがフミが本気で拒否してきそうなので従うことにした。先に風呂場へと入り、お湯が溜まった浴槽へ女性陣愛用の泡風呂の液体を入れる。シャワーをかけるとブクブクと泡が出てきた。ルフィは先に浸かって待つ。

「フミー?」

「は、入るね」

ガチャリ、と風呂場の扉が開きフミが入ってきた。薄暗い方がエロいだろ、とルフィは言いそうになる。これを言うときっとフミは出て行ってしまうので飲み込み、手を引いて浴槽へ誘導した。

「わ、泡風呂だ」

「フミ好きだろ?」

「うん、ありがと!」

向かい合わせで座り、手は握ったまま。フミは泡を息で吹いたりして楽しんでいる。その無邪気な姿に、ルフィはたまらなくなった。フミと一緒にいる時は考えないはずだったのに、不意にこの姿をいつまで見れるのかと考えてしまった。

「ルフィっ、?」

ぎゅっと強く小さな体を抱きしめる。肌と肌が触れ合い、フミの心臓はドキドキと煩いがルフィが全く話さないので、気づいてしまった。

「ルフィ。泣かないで」

「、泣いてねェ。泣き虫嫌いだし」

「そうだね。これからはお風呂もっと一緒に入る?」

「毎日。」

「毎日…うん、いいよ。」

その言葉を聞いて、ルフィは顔を上げてニヤリと笑った。

「もしかして、騙したの?」

「毎日入ってくれるんだなー」

「ルフィ!もう!」

騙されたってことにしてあげる、フミはそう心の中で思った。だってルフィの黒い瞳から涙が一筋垂れていたからだ。

「ししっ、おれフミ好きだなー」

「私も、好き!」

改めて、今日も好きだなと感じた。明日も明後日も毎日そうやって実感するのだろう。フミが笑顔を浮かべるだけで、そう思えるのだ。

「あ。明日はトランプしようってチョッパーくんが言ってたよ」

「あれ?釣りじゃなかったっけ?」

「ナミちゃんが明日は雨だって言ってたの」

「雨かァ。トランプしたあとは一緒に風呂だな!」

「そう言うところは覚えてるよねルフィって」

「失敬だぞ、おれはフミのことだけ絶対に忘れねェんだ」

「嬉しいけど私だけじゃダメだよ!」

こうやって他愛もない話を毎日しているはずなのに2人の話は尽きることがなかった。今日も風呂のお湯が冷めてしまうまで話し続けるだろう。その一瞬一瞬の時間を大切にしながら、2人の愛はより深くなっていく。
そして、いつかくるその時のため。後悔しないために、2人は愛を深めるのだった。




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