過去編

火事があった日の夜、ダダンとエースは帰ってこなかった。
朝、フミはすぐに目覚め、二人のことが心配でウロウロと室内を歩き回っていた。ルフィはすぐにグレイターミナルへ向かおうとする。

「まーまー待てルフィ!そんな体でどこ行くんだ」

「エースとダダンを探しに行く!」

「無茶言うな!傷が深いまーまー安静にしてろ!」

「今ゴミ山の方は火事の後処理で軍隊が大勢ディ回ってる。後処理っチーのは焼けたゴミの一掃と生き残りの処理も含まりてるんだ、今行けば殺さりるぞ!」

ゴア王国の目的は、国の汚点であるゴミ=そこにいる人間たちの排除だった。
怪我を負ったフミとルフィはすぐ布団に寝かされた。不思議な口癖のドグラと「まーまー」が口癖のマグラ、そして新しくダダン一家に入りたいらしいジャックがフミ達を看てくれていた。もちろん、頭であるダダンが心配でないかと言われれば嘘になるが子供たちの前でそんな姿は見せられない。

「でも…エースに会いたい……きっとサボも心配してる…」

そう言いながらルフィの瞳からは涙が零れた。そんな彼の隣で、傷の治りが遅いフミは少し熱が出ているのか助けに行こうとも身体が重く感じた。




***



ダダンとエースが帰らないまま、数日が過ぎた。
動けないフミ達の代わりにドグラがエースとダダンを探しに行ってくれるそうだ。彼の背中を見送り、また布団へと寝転ぶ。ルフィはといえば、もうほとんど治っていて自分も探しに行くと必死だった。

「ルフィは?」

「拗ねてるな、ありゃァ」

フミの布団の隣に腰掛けたジャックに話しかける。ずっとフミの看病をしてくれているジャックは罪滅ぼしのつもりだった。フミと、フミに似た故郷の幼馴染みに。

「私も治ったら探しに行きたい。サボに会いたい……」

「お前は女の子なんだから身体大事にしろよな」

「子供扱い……」

「子供だろ……おれは大人だ。」

「何歳…?」

「………16」

「子供じゃない!」

10歳ほど離れているからもちろんフミからしたら大人なのだが世間から見ればまだまだ子供だ。だが、フミにはジャックがとても大人に見えた。それがなんだか悔しくて唇を尖らせる。

「お前がもう少し大人だったら……おれは……」

「フミ〜〜〜!!!」

ルフィがジャックの言葉を遮るように、走ってきた。ジャックは口元を押さえて自分の行動に驚く。今、おれは一体何を。

「お前!フミから離れろ!おれがかんびょーする!」

「看病な。お前に出来るのか?」

「できる!!」

睨み合う2人をフミはみて、ジャックも子供みたいって思ったことは口に出さないでおいた。

「おい!みんな!2人が帰ってきたぞ!!」

勢いよく玄関の扉が開き、ルフィが慌ててフミの寝ている部屋から出て行った。フミもすぐジャックの顔を見る。

「ジャック、抱っこして!」

「だから女の子の自覚もてよな……」

「はやく!」

エースとダダンには早く会いたいがために、フミはジャックに抱きかかえられ部屋から出た。その時ルフィはエースに殴られていて理由は考えなくてもわかる、男なのに泣いていたからだった。
全身傷だらけで重症のダダンはフミの隣に布団を敷き、傷の手当てをした。その間にエースが火事の夜に起きたことを話し始める。

「火事の夜、ブルージャムには何とか勝ったんだ。でもその時にはもう道が火に塞がれてて……ダダンが全身にひどい火傷を負っちまった。何とか火の届かねェ中間の森の川縁に身を隠して町に薬品を盗みに行ったり…必死にダダンの命を取り留めた。」

誰かがふぅと息をついた。安心したのだろう。エースも傷はあったので、治療してもらった。

「まーまー…そうかとにかく2人共命があってよかった。」

「お頭ァ、ゆっくり療養しましょうね」

「悪ィなァ…心配かけて」

「ゴミ山があんな事になるなんて…サボは心配してねェかな…」

ルフィはボソッとそう呟いて、小屋から出て行った。二人が帰ってきて安心したのだろう。

「エースおめェあの時、なぜ逃げなかった」

ダダンがそう問いかけた。今となっては二人とも無事だったが、もしエースを失っていたかと思うと怖い。

「時々カッと血が上るんだ…逃げたら何か…大きな物を失いそうで恐くなる…あの時は…おれの後ろにルフィとフミがいた。わからねェけど、たぶんそのせいだ」

守らなけば、エースはその思いに支配されたのだ。エースの言葉でダダンは昔のことを思い出した。まだ赤ん坊だったエースをガープが預けにきた時のこと。海賊王「ゴール・D・ロジャー」の息子だと聞いたときはどんなに驚いたことか。

「ロジャーは逃げずに立ち止まる。」

「死にたがりなのかい?逃げる事も戦いだ」

「そうじゃが逃げない。背後に愛する者がおるからじゃ。共に逃げれば仲間達も危険にさらすことになる。正確に言うならば「逃げない」んではない。目の前の敵達が仲間を追わん様に「敵を逃さない」その時のロジャーはまさに「鬼」。」

何故こうも、目の前のこの男はロジャーが敵だというのに楽しそうに話すのだろうか。ダダンには分からない。

「仲間の悪口を言われたと一国の軍隊を滅ぼした事もある。確かに怒らせりゃあ凶暴・短気でわがまま。しかしその行動はいつも子供のように単純でまっすぐじゃった。今のエースにも似た生い立ちのせいじゃろう。愛する者を失う事を極度に嫌っておった。あんな無茶な生き方をしても運よく生き延びた結果が「海賊王」世間の評判は最悪でも仲間からの信頼は絶大。海兵のわしでさえ、あいつを嫌いになれんかった…だからエースを引き受けたんじゃ…」

「引き受けてんのあたしらだよ!!」

この時は、そんな男もいるもんだとどこか他人事だったが。恨んでも血は争えないってことだとダダンは理解した。
フミはルフィのことが気になり、またジャックを見る。今度こそ察したジャックはフミを抱えて小屋から出た。エースは面白くなく、ついて行きたかったが生憎治療の途中だ。
ルフィは小屋のすぐ側でカメレオンを見つけて、眺めていた。フミはすぐ側の木の陰に入りソーイングセットを取り出す。ジャックもすぐ隣に腰掛けた。

「なに作るんだー?フミー」

「針危ないから気をつけて、ルフィ。なに作ろうか迷ってるの。」

ルフィはフミを見つけるとすぐに駆け寄ってきた。ジャックとは反対側のフミの隣に腰掛ける。ルフィはフミが縫っているのを見るのが好きだった。

「…………ん?ドグラ!」

ルフィの声で手元から視線を上に向けると、エース達を探しに行ったドグラが帰ってきていた。入れ違いになっていたらしい。

「エース達はもう帰ってきたよ!」

「怪我はしてるけど無事だ!」

「あ……そうなのか…それは本当によかった……」

無事だと伝えたのに、ドグラの表情は暗いまま。ゆっくりとした足取りで家の中に入った。その後ろを三人はついていき、ダダンが寝転ぶ布団の周りに集まる。
ドグラは大きく息を吸った後、自分が見てしまったことを話し始めた。
ーーーーそれはあまりにも衝撃的で、誰も最初は信じられなかった。

「ウソつけてめェ!!冗談でも許さねェぞ!!」

エースがドグラを床へ叩きつけた。嘘だと、言ってほしかった。

「冗談でもウソでもニーんだ!おりにとっても唐突すぎて……この目を疑った!夢か幻を見たんじゃニーかと!」

ドグラが見たものは、サボの死。
町民たちが止める中、小舟で一人。小さな海賊旗をかかげてサボは出航したのだ。そこに、新聞でも大騒ぎになっていた「天竜人」の船が通りかかり、そして、サボに銃口を向けた。
そこからドグラはその場に数分立ち尽くした。町民達も何も言えなかった。

「サボは貴族の両親に連れて帰らりたって…ルフィ言っティたなァ。おり達みティーなゴロツキにはわかる。帰りたくニー場所もある!あいつが幸せだったなら!海へ出る事があったろうか!!海賊旗を掲げて一人で海へ出る事があったろうか!!?」

ドグラは膝をついてその場に崩れ落ちる。サボは両親だと思っていないと、言っていたはずなのに両親といることがサボの幸せかもしれないと三人は願って。

「サボ…幸せじゃなかったんだ…!!」

「サボ……ごめんなさい、っ」

「何で奪い返しにいかなかったんだ!おれ達は!!」

ルフィ、フミの瞳からは涙が溢れ、エースは自分の非力さを恥じた。

「サボを殺した奴はどこにいる!おれがそいつをぶっ殺してやる!あいつの仇を取ってやる!!」

「やめねェかクソガキが!!!!」

「どけてめェ!!!!!」

今にも飛び出して行きそうなエースをダダンが暴力を振るってでも止めさせた。暴れるエースをダダンは必死に押さえ込む。

「ろくな力もねェクセに、威勢ばかり張り上げやがって!行ってお前に何ができんだァ?死ぬだけさ、死んで明日にゃ忘れられる!それくらいの人間だ、お前はまだ!」

そうだ、エースはまだ小さすぎる。10歳という子供にいったい何ができるというのだ。「天竜人」とは、所謂世界の象徴。世界を敵に回せるわけがない。

「サボを殺したのはこの国だ!世界だ!お前なんかに何ができる、お前の親父は死んで時代を変えた!それくらいの男になってから死ぬも生きるも好きにしやがれ!おい!このバカを縛り付けときな!」

ダダンの命令で手下達はエースを縛る。ルフィはその場で立ち尽くし、天を仰いで泣いた。

「サボ〜〜〜〜〜〜〜!!!」

サボの名を呼び、泣き続けるルフィ。その隣でフミは手元にある小さな人形を見つめた。
ーーーーこれは、サボに渡すものだった。
フミが初めて人形作りに挑戦し、家族のもとに行ってしまったサボへ自分を思い出してもらえるようにと。でも、それはもう。

「うるせェな!男がめそめそ泣くんじゃねェ!!ルフィ!!!!」

エースの怒鳴る声。ルフィの叫ぶ声。フミの啜り泣く声。その音だけが小屋中に響いていた。



***





次の日、エースは頭も冷え暴れることはなくなった。
ルフィは夜通し泣いていたため疲れて眠っている。フミはパンパンに腫れた目を冷やしながら、なんとか朝食を胃に流し込もうとしていた。だが、吐きそうになる。食べられない。

「お頭!今、手紙が……サボからです!あいつ海に出る前に手紙を出してたんだ。」

ドグラが今届いたばかりの手紙をダダンに渡そうとする。だが、エースがすぐに奪い取り、フミの手を無理やり引っ張った。フミはされるがまま、小屋から出て山に入っていくエースの後を追う。
エースはビリビリと手紙を開け、中身を読み始めた。無意識に足は、夢を語り合ったあの崖へ向いていた。

____
エース ルフィ フミ
火事でケガをしてないか?心配だけど無事だと信じてる。お前達には悪いけど三人が手紙を読む頃はおれはもう、海の上にいる。
色々あって一足先に出向する事にした。行き先は…この国じゃないどこかだ…そこでおれは強くなって海賊になる。誰よりも自由な海賊になってまた兄弟三人どこかで会おう。広くて自由な海のどこかで必ず!!
それからフミ!ルフィを支えることができるのはフミくらいだと思うんだ。ルフィに相応しい女はフミだ。けど、たまにはエースとおれにも甘えてやってくれ可愛いし嬉しいんだ。
それからルフィ!男ならフミを死ぬまで守ってやれよ。おれとエースの大切な妹だ。頼んだぞ。
それからエース!おれとお前はどっちが兄貴かな。長男二人。弟一人。妹一人。変だけどこの絆はおれの宝だ。けどさ、エース。フミへの気持ちは我慢するだけじゃダメだぞ。
ルフィの奴はまだまだ弱くて泣き虫だけど、おれたちの弟だ。よろしく頼む。」

手紙を読み終えたエースの瞳からはボロボロと涙が溢れていた。フミがエースの涙を初めて見た瞬間だった。フミの手を握るエースの手がとても弱々しく、フミは共に泣くことしかできない。

「今だけ…………今だけだ!」

フミもぎゅっと手を握り返し、エースと同じように大号泣した。涙を流して叫んで名前を呼んで。明日は泣かないから今だけは許して欲しい、そう誰かに言い訳をして思う存分二人は泣いた。



戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -