過去編

夜になり、ブルージャムから打ち明けられた言葉に三人、いや四人は衝撃を受けた。

「このゴミ山を燃やす!?何でそんな事すんだよ!」

「バカ野郎、大きな声出すんじゃねェ……ゴミ山の連中に聞こえちまうだろ」

「大変だ!ゴミ山のおっさん達に知らせねェと!コイツやっぱ悪ィ奴だ」

「私たちも危ない……」

今にも暴れ出しそうな二人を見て、ブルージャムの一味がルフィとエースを押さえた。フミはすぐに仲良くなった男に視線を移す。男も知らなかったのか、驚いた顔を浮かべていた。フミは少し安心した。裏切られたのではと思ってしまったのだ。

「…別に黒幕はおれじゃねェ。おめェらが昨日今日と運んだのは油と爆薬、人間が逃げきれねェ程の火事が起きる。流石の悪ガキ共も腰が引けたか。だが作戦を知っちまったんだ。おめェらを解放するわけにゃあいかねェ。」

フミも暴れていなかったが、突然腕を掴まれる。ブルージャムは鋭い目つきで子供達を見下ろした。

「火事の前に一つ聞きてェ事があるんだが…なァ、おめェら…どこかに財宝を貯め込んでやしねェか?」

その問いに、フミたちは沈黙を貫く。
何も話さないと分かったのか、フミ達を縄で縛り付けるようにブルージャムは指示を出した。早く逃げなければ、ここにも火事が起きる。
そしてとうとう、グレイターミナルに火が広がり始めた。海岸も森の入り口も、全てフミたちが爆薬を置いたおかげで逃げ場なく広がっていく。グレイターミナルはパニック陥った。
ーーーーブルージャムたちも貴族達に裏切られているなんて誰が想像しただろうか。

「よし!切れたぞ!」

エースは縄を落ちていた瓶の破片で何とか切ることに成功した。が、すでに一面赤色に染まっているし、とにかく熱い。

「ゲホ……息が苦しいよ…」

「何とかなる!おれがついてる。」

「フミ!おれも付いてるぞ!ゲホッ」

黒い煙と赤い炎が周りを囲んでいる。熱い、苦しい、弱音を吐いている暇などない。とにかく三人は走り続けるしかなかった。

「大丈夫か!お前ら!」

「あっ!くまさん!!」

炎の中から出てきたのはブルージャムの一味で下っ端の、フミが仲良くなった彼だった。くまのぬいぐるみも手にあった。

「ありがとう!!」

「お前……あいつらの仲間だろ?逃げなかったのかよ」

「ゴミ山を燃やすなんて聞いてなかった。おれは海賊だが、関係のない奴らを殺したくない。貴族達の命令ってのも気に食わない。それに、結局裏切られたんだよブルージャムも。この火事の責任を全てブルージャムに押しつけ、ゴミを綺麗にするんだと。この国は腐ってる」

「そうなんだ…本当にありがとう。えっと……」

「ジャックだ。」

ジャックにフミは泣いて抱きついた。ルフィの怒る声が聞こえたけど今は仕方ない。くまのぬいぐるみは見つかったし、ジャックという「大人」が来てくれたことが嬉しかった。

「お前ら、はやく逃げるぞ。焼かれちまったら元も子もない。」

「うん!あ、私はフミ。」

「知ってる。で、エースとルフィだろ」

「どうして?」

「お前らが呼び合ってるのを聞いた。」

ジャックはフミ達の先頭に立ち、火を掻き分けながら進んで行った。ここがどこなのかもわからない状況の中、必死に走って、助かるとどこかで信じていた。

「誰が逃げていいと言った悪ガキ共がァ!!!……お前はジャックじゃねェか!!何してんだァ!?」

逃げたはずのブルージャムがフミ達の目の前に立ち塞がった。

「共に仕事をした仲間じゃねェか、おれ達は。死ぬ時ァ一緒に死のうぜェ!」

ブルージャムは嫌な笑みを浮かべている。その後ろには部下達もいるようだ。誰も逃げることができなかったのだ。

「貯め込んだ財宝の場所をまだ吐いてくれてなかったな。この火で燃えちまう前におれ達が貰ってやるから。さァ場所を言え!!」

「命が危ねェこんな時に財宝!?」

エースが驚いて声をあげる。ジャックも隣で頷いていた。

「じゃあ教えてくれるんだな?」

狂ってる。ジャックはブルージャムを見て恐怖を覚えた。この後に及んで財宝とは正気の沙汰ではない。

「お前らが取りに行かねぇんならムダになる。」

「バカいえ!あの宝はなァ!エースとサボが!!」

「分かった。教える」

ジャックはエースの決断に感激した。自分よりもずっと年下の彼は、ルフィとフミを守るために命のために、財宝を売るのだ。
エースはしっかりと財宝の場所を口にした。その瞬間に、部下がエース達を抑え込んだ。
ーーーーーああ、こいつらはどこまで。

「何すんだ!今場所は教えたじゃねェか!!!」

「ウソという可能性もある。お前らもついて来い」

「フザけんな!!そんな事やってる内に逃げ場がなくなる!!お前ら勝手に行けよ!!」

ルフィとフミと逃げるために、何もかも捨てて言ったというのに。エースは怒りでどうにかなりそうだった。だが、ブルージャムは銃口をエースに向ける。

「今のおれをこれ以上怒らせるな!!ガキの集めた財宝を頼りにしてでも、おれは再び返り咲いて貴族共に復讐すると誓ったんだ。おめェらの"兄弟"もそうだろう。あいつらは己を特別な人間だと思ってやがる。その他の人間はゴミとしか見てねェ!」

「サボはそんな事思ってねェ!」

「同じだ、バカ野郎!お前らとつるんで、優越感に浸ってただけだ!親が大金持ちのあいつに本来なんの危機感がある!?貴族の道楽に付き合わされたのさ!腹の中じゃお前らを見下して鼻をつまんで笑ってたのさ!!」

「サボを悪く言わないで!!」

そうフミが叫べば、フミを抑えていた男が頬を殴った。息ができなくて、何かが込み上げてくる。口の中が酸っぱくて、血の味もした。

「フミ!!!!!」

そんなフミを見て、ルフィが黙っているはずもなく、抑えられている腕に噛み付く。ルフィを抑えていた男は剣を抜いた。そしてその剣先をルフィ目掛けてーーーーー

「ルフィとフミに手を出すなァ!!!!!」

エースの叫び声と共に、気絶してしまいそうなすごい衝撃が襲いかかった。フミを含め、ブルージャムの部下達はその場で気絶してしまう。ブルージャム、ジャック、ルフィとと数人だけが不思議そうな顔を浮かべる。
これが覇王色の覇気だと知るのは、まだ数年後だ。

「何をしやがった!胡散臭ェガキめ!」

「ウォッ!」

エースはブルージャムに押さえられ、銃を突き付けられた。ルフィが必死に駆け寄ろうとするが間に合わないーーーーー

「やめねェか、海坊主!エースを放しなァ!」

「ダダン!!!」

「何でお前らここに!」

ダダンの息は荒い。その背中には山賊達がいた。必死にフミ達を探したのだろう。

「女のガキにまで手出すとは、卑怯な奴らだね」

ダダンは気絶しているフミを見たあと、ブルージャムを睨みつける。

「てめェ…コルボ山のボス猿だな…」

「山賊ダダンだ!何の因果かこのガキ共の仮親登録されててね。さァて……逃げるぞ!!!」

ダダンはフミを担ぎ、ブルージャムに背を向ける。ルフィも他の男に担がれていた。エースはといえば、その場から動こうとしない。

「おれは逃げない!!」

「何言ってんだエース!おミー!そいつはヤミとけ!ブルージャムのヤバさはハッタリじゃニーぞ!子供が粋がっていいレベルじゃニーんだよ!」

じゃあおれも、とルフィは暴れるが体力の限界だ。抜け出すことができない。

「お前ら、ルフィとフミ連れて先に行ってな」

「お頭!?」

「エースはあたしが責任持って連れて帰る!」

「お頭……」

ダダンの背中に手下達は感動で泣きそうになる。そこに近づいたのはジャックだった。

「フミはおれが預かろう。」

「誰だてめェ」

「ジャック!ダダン!ジャックは大丈夫だ!」

ジャックはいい人だとルフィが言うので、肩に担いでいたフミをダダンはジャックの腕に下ろす。

「さァ、行け!!」

ダダンの言葉に山賊達は一気に駆け出す。ルフィはエースを置いていくことに納得いかずずっと暴れていたが、エースからどんどん離れていった。


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