過去編

「お母さん!マキノさん!」

フミの母とマキノがルフィとフミを心配してダダンの家にやってきた。山賊の男達は美人な2人がきて大喜び。フミはすぐ母に抱きついた。話したことは山ほどあったが、久しぶりの匂いに泣きそうになる。

「前に言った通り、私ルフィと海賊になる!あと、結婚する!!」

「フミの母ちゃん!フミくれ!」

「コラ!ルフィ!ちゃんと教えただろ?フミを下さい、だ」

サボはルフィの頭を優しく叩いた。

「ふふふ、ルフィくん。」

フミの母は微笑み、ルフィを抱き寄せた。

「フミをよろしくね。この子弱虫で、泣き虫で甘えん坊だけど……強い子よ。フミ
もルフィくんも必ず手紙を送ること。あと、死なないこと。わかった?」

「うん、うん!!ありがとうお母さん!!」

「あと、2人でお父さんのところにも挨拶に来るのよ?」

「「わかった!!」」

海賊になりたい、とフミが両親に告げて、ダダンの家に預けられている間。何度も話し合いは行われた。何度も泣いて、止めたい気持ちを必死に抑えてフミを送り出すことを両親は決めていた。
フーシャ村にいて、誰かと結婚して、フーシャ村で一生を終える。それもいいのかもしれない。でも、母の母、フミの祖母もかつて海賊船に乗っていたと聞いていたし、母も小さい頃は憧れていたのだ。だが、勇気がでず結婚した今、自分の娘が自分の夢を叶えてくれるような気がした。
涙が溢れるのを必死に堪え、フミとルフィを優しく抱きしめる。

「フミの母ちゃん!フミはおれが守るから安心してくれ!」

「ルフィくん、フミをよろしくね!」

「おう!任せろ!おれはもっと強くなるんだ!」

「ルフィが結婚なんて…フミちゃんでよかった」

マキノも入ってきて四人で話していると、少し戸惑っているエースとサボがフミの視界に入る。

「お母さん!マキノさん!サボとエースって言うの。ルフィのお兄ちゃんだから私のお兄ちゃん!」

「フミがいつもお世話になってます。フミのお兄ちゃんってことは私の子供にもなるわね!いつの間に立派な息子が2人も」

「あっ……その…いえ!!」

あたふたする2人をフミの母は手招きして、優しく抱きしめた。初めての温もりに、エースとサボでさえ泣きそうになった。
それから日が暮れるまでみんなで話し続けた。これが家族なんだ、とエースとサボの胸は温かくなる。

「お母さん!また来てね!お父さんにも伝えておいてね!」

「ふふっ、わかったわ。楽しそうでよかった。」

「うん、すごく楽しいよ!」

もう一度フミと母は抱きしめ合い、2人の背中を子供達は見送った。寂しい気持ちはもちろんある。夜に家族が恋しいくなることもあった。けれど、3人と離れたくない方がフミには大きかった。



***




次の来客は、ルフィの祖父ガープだった。突然、やってきては「海賊になる」と言い張り続ける四人に鉄拳を落とした。もちろんフミには手加減したが、痛いものは痛かった。
エース、サボ、ルフィは何度も殴られ怒られたが決して海への想いは覆ることはない。

「フミ…ルフィ達を止めてくれぬか」

ガープはフミだけにそう言った。止めれるとすれば彼女だけだとガープは知っていた。

「海は本当に危険なんじゃ。立派な海兵に育ってほしい、ただそれだけのことが…どうして…」

「ガープおじちゃん、ごめんなさい。……悪い子で」

ーーーー悪い子。

その言葉で、ガープはこれ以上何も言うことが出来なかった。全員、悪い子ではないことをガープが一番分かっていたし、海兵である自分と敵なだけだ。理不尽な殺戮や盗みを四人がしないことくらい、一番ーーーーーー

「泣かないで、ガープおじいちゃん」

フミの小さな手がガープの頭に伸びた。優しく頭を撫でられて、ガープは泣くことしか出来ない。どうして、誰も言う事を聞いてくれないのだろう。一緒に海兵をやれたらどれだけ幸せだろう。そして、もし、子供達と争うことがあったのなら、自分は。





***




どくりつする、と書かれた紙を置いてフミ達はダダンの家を出た。木の上に家を作り、四人で暮らす。毎日が冒険で、危険だったけど楽しくて仕方がなかった。四人で起きて、寝て、食べて、暮らして。その時がどれだけ幸せだったが、後になって知った。

ある日。ブルージャムという男が率いる海賊団とサボの父が手を組み、サボを捕らえたのだった。

「サボを返せよ!ブルージャム!」

「返せ、とは意味のわからない事を。サボはウチの子だ!子供が生んで貰った親の言いなりに生きるのは当然の義務。よくも貴様らサボをそそのかし家出させたな!ゴミクズ共め、ウチの財産でも狙ってるのか!?」

「何だと!?」

エースが反抗しようとするが、ブルージャムの手下に殴られ地面に倒れる。先ほどからこれを繰り返しエースとルフィはすでにボロボロだった。

「コラ海賊!子供を殴るにも気をつけたまえ!ゴミ山の子供の血がついてしまった。汚らわしい。消毒せねば」

「やめてくれよ!おれはそそのかされてなんかいねェ!自分の意志で家を出たんだ!」

「お前は黙っていろ!」

サボが何を言っても、父は聞く耳をもたない。自身に飛びついたエースの血を拭きながら、父は悪態を続けた。

「後は頼んだぞ海賊共。」

「勿論だ、ダンナ。もう代金は貰ってるんでね、この三人が二度と坊っちゃんに近づかねェ様に始末しときます。」

始末ということは、殺すのだろう。貴族達にとって人の命などグレイターミナルのゴミと変わらない。察したサボは慌てる。兄弟達を失うわけにはいかなかった。

「ちょっと待て!ブルージャム!……お父さんもういいよ、わかった!」

「何がわかったんだ、サボ。」

「やめろよサボ!!」

エースもサボが何を言うのかわかっていた。だからこそやめさせたかった。

「何でも言う通りにするよ…言う通りに生きるから!この三人を傷つけるのだけは……やめてくれ!お願いします……大切な兄弟なんだ!」

サボは涙を見せない為に背を向け、フミ達から離れていく。名前を何度呼んでも振り向くことはない。

「おい!?行くなよ!!振り切れ!おれ達なら大丈夫だ!一緒に自由になるんだろ!?これで終わる気か、サボ!」

エースが何を言っても、サボがこちらに顔を向ける事はなかった。

それから、ブルージャムに殺されはしなかった。サボの事を忘れる代わりに、人手不足らしく仕事を手伝えとのことだ。
まだ殺されるわけにいかないルフィたちは、大人しくグレイターミナルの地図を貰い、印のある所に荷物を置いて行くという簡単な作業をすることになった。

「何が入ってるんですか?」

「言う訳ねェだろ。」

ブルージャムの一味の下っ端らしい男とフミは共に例の荷物を置いて行くことになった。エースとルフィは別の所を回れとブルージャムの命令だ。三人一緒だと逃げる可能性を考慮していた。

「待ってください……重くて……」

「まだ女の餓鬼には無理か……」

「……ごめんなさい。」

「おい、泣くなよ?」

泣きそうになったが、男は優しく微笑んだ。どこか、故郷にいる幼馴染に似ている気がした。海賊になって幼い頃の姿しか知らないが、今頃成長しているだろう。男は故郷の幼馴染とフミを重ねてしまったのだ。

「………おれが運んでやるよ」

「ありがとう」

「船長には言うなよ?」

「言わないよ……優しいんですね」

「さっさと行くぞ!」

褒められて恥ずかしいのか、男は乱暴にフミの頭を撫でた。ブルージャムも殺さないと言ったし、この男も優しいため、フミはシャンクスと同じようにかっこいい海賊なのかもしれないとこの時は感じていた。
フミは先に歩いていく紫髪で金色の瞳をした彼のあとを慌てて追いかけた。
その日の夜、自分たちの家に帰ることが許され、いつもの木の上の家でフミたちは集合した。

「フミ大丈夫だったか!?」

「うん!優しい人だったよ」

ルフィは安心したように息をついた。

「サボのことはどうするの?」

「本当のサボの幸せが何なのか、おれはわからねェ。だから様子を見よう。あいつは強い、本当に嫌ならまた必ず戻って来るさ。」

「うん……そうだね。サボの幸せは貴族の生活なのかもしれないし。」

と言いながらも、フミの本心は今すぐにでもサボに会いたかった。
出会った頃は人見知りで中々話せなかったが、今となっては四人をまとめる長男のような頼もしい存在だ。
フミは泣いてしまうので考えるのをやめて、明日またブルージャムの仕事を手伝うのに備えて眠ることにした。


次の日。

「よう、来たなチビ共…大仕事は今夜だ。内容は後で教える。」

夕方まで昨日の続きをしろ、とのことでフミは優しい彼を探した。すると視界の隅に紫色の髪が見え、駆け寄った。

「おはよう!」

「なんだ、お前か。おはよう。」

「今夜なにするんだろう。」

「さぁな、おれも知らねェ。」

彼が下っ端だからか、内容を知らないなんておかしな話だ。けれどフミは特に触れることもなく、荷物の置き場所に向かった。

「へェ、縫い物が得意なんだな」

「うん、すっごく楽しいよ!」

「ちまちました作業は苦手だ」

「今度なにか作ってあげるね!」

「そりゃあ楽しみだ」

フミと男が笑いあっていると、両腕を誰かに掴まれてた。フミは驚いて小さな悲鳴を上げた。男も驚いたが、すぐに理解した。

「ルフィ、エース」

ルフィはフミの右腕を、エースは左腕を掴んでいた。なに?とフミが首を傾げると、二人とも不貞腐れた顔をする。

「「誰だこいつ」」

「こいつとはなんだ、お前ら。ははーん、まさかお前ら嫉妬か?」

「嫉妬じゃねェ!!」

「?、なァエース嫉妬って何だ?」

「うるせェ!黙ってろ!」

エースがルフィの頭を殴ってゴツンッと鈍い音がした。痛くないのに、痛い気がしてルフィは頭を押さえる。男はこの状況が面白いので、ニヤニヤと笑っていた。

「ルフィ、嫉妬してくれたの?」

「しっと?」

「胸がモヤモヤした?」

「モヤモヤした!」

「それが嫉妬だよ」

「モヤモヤして気持ち悪ィからやだ。」

お互い両想いになったものの、恋人の知識などなかったがルフィは感情に素直だ。イライラすればフミをそばに置きたくなった。

「お前はいいのか?」

「別に………」

なぜかずっと胸がモヤモヤしているエースの眉間に皺が寄っている。男はそれがなんなのか勿論わかっているが、言うような野暮なことはしない。

「ふーん、餓鬼なんだから素直になれよなァ」

「ガキじゃねェし、素直ってなんだよ。」

「諦めんなよ!」

そんなエースと男の会話など耳に入っていないフミは嬉しそうに笑っていた。もうすぐ日が暮れようとしている。ブルージャムの元へ向かわなければならない。




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