過去編 「ゴムゴムの〜〜銃!」 そう叫びながら伸ばした腕が土へと衝突し、反射してルフィの元に返って来て、それは顔面へと直撃した。 そんなルフィに呆れながら、エースはルフィの顔面に蹴りを入れる。 ここで勝敗が決まり、フミは木に今の結果を書き込んで自分の役割を全うする。 「一本だ、エースの勝ち。」 「お前その能力意味あんのか?」 「くっそーうまくいかねェ。おれの考える通りになればお前らなんかケチョンケチョンだからな。もっかいだ!」 「ダメだ。一人一日100戦まで。また明日な。」 ルフィはエースとサボに勝てたことがない。歳の差もあるが、ルフィは悪魔の実の能力をうまく使いこなせていない。そんなルフィの怪我を診るためにフミは駆け出す。 「ルフィ、怪我は?」 「大丈夫だ!それよりあんま見んなよ。負けるとこなんて見せたくねェ。」 「おい、ルフィ。フミを一人にしたくねェって言ったのは誰だ?」 「エースとサボだ!おれもだけど。」 フミが家に帰ると言った日から、三人はフミを連れ出すようになった。危険な場面もあったが、彼らがきちんと守り通した。 フミはその状況が嬉しくて、頬が緩んでしまう。 「何笑ってんだ?」 「ううん、笑ってない。」 「笑ってた!」 「おい、夕飯の調達に行くぞ。」 三人の顔つきが変わる。夕飯の調達は危険が付き物で、凶暴な猛獣達に襲われるかもしれないのだ。 エース、ルフィ、フミ、サボの順で一列に並んで歩く。結局ルフィはフミ隣に並んで歩くのだが。 早速、夕飯の材料になるワニを捕まえ、山賊の家へと帰る。そんな日々を過ごしているうちに彼らはどんどん強くなった。 そんなある日、フミたち四人は小綺麗な中心街に来ていた。 コルボ山の北にあるのが、グレイターミナル通称ゴミ山。その更に北にこの町があるのだが、町にには簡単に出られない。強固な石壁があり通れないので、唯一の通路「大門」と呼ばれる門を通らなければならない。一日二度、国中から集まった大量のゴミがグレイターミナルに運ばれてくる。ゴミ山の人々は時々町へ行き再生物資を売り暮らしていた。 大門をくぐると通行人を見渡せる歩道が広がり、まだ少し悪臭の届く「端町」へ出る。端町は町の不良やチンピラたちが屯する場所。もっと進むとフミたちが今いる中心街。更にその中心にまた高い石壁がそびえ、その中には「王族」と「貴族」の暮らす「高町」がある。この国の名は「ゴア王国」ゴミ一つなく「東の海(イーストブルー)」で最も美しい国だと言われてはいる。要らぬものを綺麗に排除したこの国は「隔離社会」の成功例とも言える。 フミとルフィの生まれた「フーシャ村」もこの国に属してはいるが、海側なのでグレイターミナルからコルボ山を越えなければ辿り着けない。貴族など存在すら知らなかった。 そして、高町の近くの中心街で四人は高そうなレストランで食事を楽しんでいた。 「よし、窓から行くからな。」 「私はどうしたらいいの?」 「おれが抱えてやる!」 「ルフィじゃ危険だ、おれが抱えてやる。」 「いや、エースでも危険だ。おれが……」 「ルフィがいい。」 ガクッとエースとサボは項垂れたが、ルフィは上機嫌だった。3人は合図をとり、4階に位置するレストランの窓から飛び出す。ルフィは「たからばらい」と書かれたメモを置いて行った。 「食い逃げだァー!誰か捕まえてくれー!」 そんな声が聞こえるものの、四人は無視だ。 食い逃げなんて胸が痛むが、宝払いを信じているフミは何も言わない。 「またあの四人組か!常習犯だ!」 「逃がすな!そこの子供四人を誰か取り押さえてくれー!」 沢山の人に追いかけられるも、これが初めてではない。食い逃げは慣れていた。するりと人を交わし、コルボ山へと向かって走る。 「……サボ!?サボじゃないか!待ちなさい!お前生きてたのか。家へ帰るんだ!」 一人の男性ががサボに話しかけた。サボは振り返りもせず、走り続ける。平民が着ないような堅い格好をした男。サボと同じような帽子をかぶり首に巻いたスカーフもそっくりだ。男はサボが見えなくなるまで呼び続けた。 「……?、おいサボ!お前の事呼んでるぞ」 「誰だ!?あれ」 「!、人違いだろ。行くぞ!」 人違いなわけがない、フミとエースはそう思ったはずだ。何故なら、本人の名前を呼んでいたからだ。 ルフィは特に何も疑問に思わないのか、そのままフミを抱えて逃げた。 コルボ山に帰ってきた時、エースがサボに詰め寄った。ここまで迫られれば、黙っているわけにもいかない。 ーーーー自分が「貴族」だということを。 「誰が!?」 「おれだよ!」 「「で?」」 「お前らが質問したんだろ!」 あまり興味がなさそうなエースとルフィにサボは怒鳴る。フミは何と声をかければいいのか分からなかった。 「本当は親は2人共いるし、孤児でも無ければゴミ山で生まれたわけでもねェ。今日おれを呼び止めたのはおれの父親だ。お前らにはうそをついてた、ゴメンな。」 謝ったなら、とルフィとフミは素直に頷いた。けれどエースは納得いかない顔をしていた。親がいないエースと違って、サボは幸せに暮らせるのではないのか。 「コトによっちゃおれはショックだ。貴族の家に生まれて、何でわざわざゴミ山に。」 「あいつらが好きなのは"地位"と"財産"を守っていく"誰か"で、おれじゃない。王族の女と結婚できなきゃおれはクズ。その為に毎日勉強と習い事。おれの出来の悪さに両親は毎日ケンカ。あの家におれはジャマなんだ。」 フミはダダンが買ってきた白のふんわりとしたワンピースの裾を握る。両親をあいつらと呼ばなくてはいけないほどサボは苦しんでいたことを痛感した。 「お前らには悪いけど、おれは親がいても"一人"だった。貴族の奴らはゴミ山を蔑むけど、あの息が詰まりそうな"高町"で何十年先まで決められた人生を送るよりいい………」 そうだったのか、とエースが呟く横でフミは俯いた。両親共に生きていて、愛情をたっぷり注がれてフミは生きてきた。2人の気持ちを分かることが出来ない。同情しか生まれない気がした。 「エース、ルフィ!おれ達は必ず海へ出よう!この国を飛び出して、自由になろう!広い世界を見て、おれはそれを伝える本を書きたい!航海の勉強なら何の苦でもないんだ!もっと強くなって海賊になろう!!」 サボの言葉にエースは嬉しそうに笑う。そんな彼とは対照的にフミの瞳からは涙があふれていた。この頃のフミは本当に泣き虫だった。 「私も海へ……出る…ヒック…」 「なんで泣いてんだ………ってフミも!?」 「親が心配するだろ……」 「海へ出たい……置いてかないで〜〜!!」 置いて行かれた気がして、涙が出たのだ。サボもフミが海に出るつもりだと知らなかったため、名前を呼ばなかった。 「ひひ!泣き止めフミ!海へ出よう!おれは海賊になって勝って勝って勝ちまくって、最高の"名声"を手に入れる!それだけがおれの生きた証になる!」 ポンポンと優しくフミの頭を撫でたエースは海に向かって叫んだ。 「世界中の奴らがおれの存在を認めなくても、どれほど嫌われても、"大海賊"になって見返してやんのさ!おれは誰からも逃げねェ!誰にも敗けねェ!恐怖でも何でもいい!おれの名を世界に知らしめてやるんだ!」 フミはとても素敵だと心の底から思った。 エースの言葉を聞いたルフィは笑って、自分の夢を海に向かって叫んだ。その夢にエースとサボは衝撃を受ける。エースは呆れ、サボは笑った。 「お前は何を言い出すかと思えば…」 「あははは!面白ェなルフィは!おれ、お前の将来が楽しみだ!」 「フミは?」 エースの質問に、うーんとフミは悩む。ルフィについていくことしか考えていなかったからだ。悩んだ末、フミも崖の端に立ち、海に向かう。水平線の向こうには、一体何が待っているのだろう。 「4人が幸せになること!それが私の夢!」 フミが振り返れば真っ赤な顔になっていた。エース、サボ、ルフィは照れ臭くなり同時に頭をかいた。 「フミらしい優しい夢だな」 サボの言葉にエースとルフィは大きく頷く。フミはまだ恥ずかしそうな様子だ。 「あ、そういえば3人共船長になりてェってマズくねェか?」 「思わぬ落とし穴だ。サボ、お前はてっきりウチの航海士かと…」 「お前らおれの船に乗れよー」 フミは自分の夢のために、良いアイデアが浮かんだ。4人がもし離れても絆で結ばれる方法。言い合いをする3人を置いてダダンの家へ帰り、酒を盗んだ。あと盃も。 「あー!フミ!どこ行ってたんだよ!」 「これとって来た!」 「「「酒?」」」 「盃を交わすと兄弟になれるんだよ」 その言葉で3人の瞳は輝いた。「兄弟」という響きが嬉しかった。 「けど、三つしかねェじゃん。」 三つしかない盃。もちろんルフィエースサボの分だった。 「だってルフィと結婚するから!2人はお兄ちゃん!」 ルフィの顔は真っ赤になり、2人は小さくため息をつきながら、「お兄ちゃん」と呼ばれるのは悪くないと感じた。 「じゃあ注いでいくね」 三つの赤い盃に酒を注いでいく。今日から三人は兄弟という固い絆で結ばれる。もし、バラバラになったとしても大丈夫だとフミは自信があった。 「どこで何をやろうと、この絆は切れねェ!!これでおれ達は今日から兄弟だ!」 「「おう!!」」 ガシャァン!と三つの盃が合わさる音がする。四人でいられることを信じて、フミは優しく微笑んだ。 戻る |