幻影 | ナノ


「最善を尽くしたつもりだが……本当にすまない。」

震える医者の声が耳に聞こえ、小さく頷くので精一杯だった。視界が真っ暗なのは顔に包帯を巻いているからではない。目が無くなってしまったからだ。
痛みで覚えていないが、えぐられでもしたのだろうか。想像するだけで吐きそうになる。

なぜ、こうなったのか。



思い出した二週間前からの記憶。思い出すだけで辛くて泣き出しそうになるが、涙など出ない。

「足や腕が折れているが、安静にしていれば治るだろう。」
「あのっ………あの時何があったのか……」
「それは後でハンジ分隊長から説明がある。」

なぜハンジなのか。それはたぶん倒れたあの時に一番に助けに来てくれたのがハンジで、どんな形で私が倒れていたのか知っているからだろう。

真っ暗な世界で聞こえるのは医者の声とベッドが軋む音、それに医務室の前を通る誰かの足音だった。今が昼なのか夜なのかもわからない。

「私が意識を失って何日経ったのでしょう。」
「3日だよ。」
「3日も………」

ガチャリ、という音がして足音が近づいてくる。その音は激しく、私の近くで止まった。

「メイ!!」

ガバッと抱きしめられ、匂いと声でハンジだということがわかった。

「メイ〜〜!!」

ギューッと強く抱きしめられて苦しいけれど、今はこの苦しさが愛おしい。生きていて良かったと改めて思った。

「ハンジ…教えてくれる?」
「あの時、何が起こったのかは生きていた班の子達に聞いたよ。」

真剣な声になり、ゆっくりとハンジの体が離れていく。近くの椅子に座る音がして、私は耳を傾けた。

「協調性の無かった彼……サイラスと衝突したんだよ。巨人に向けて打ったアンカーがメイの左目に刺さったんだよ。そして衝突した。」
「彼は……生きてるの?」
「うん、生きてる。」

左目が疼く。不思議と彼を恨む気持ちは湧いてこなかった。なんて嘘だ。協調性が無いからこうなったんだと責めたい気持ちだが、きっと沢山の人から責められただろう。私が責めてしまったら彼はどうなるかわからない。きっと自分自身を責めて気が狂うだろう。

「もう、壁の外には行けそうにないや。」
「私はあいつを許さないよ。調査兵団に入ったからには協調性が何より大切なはず。それを守らなかった彼が悪い。」
「でも、私も周りをよく見てなかった。班長なのに、巨人に捕まった彼女の事しか頭になかった……。あ!彼女は!?彼女は無事なの?」

ハンジからの返答はない。きっとそういうことだろう。守れなかった、目も失った。何の意味も無かった。

「リヴァイは……」

リヴァイに会いたい。早く、会いたい。

「今はいない。」
「え?」
「エルヴィンと内地に行ってるんだ。いつ戻るかわからない。」
「そう………」

どうして、目が覚めるまで側にいてくれないの。と不満を漏らそうと思ったがハンジが優しく抱きしめてくれたから口を閉じる。

「ハンジのそういうとこ好きだなぁ。」
「ど、どうしたの?珍しいね」
「照れてる?」
「嬉しい!」

表情は見えないけどきっとニヤニヤしているんだろう。腕が治ったら今度は私が強くハンジを抱きしめようと思う。

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