幻影 | ナノ

班員も無事に決まり、書類をまとめる作業に入る。その子のどこを評価し、班員に迎えようと思ったのか様々な項目を埋めていく。全員分となると量が多く、肩も凝るし体中痛くなる。少しソファで横になろうと立ち上がり振り返ると、そこに人が立っていて思わず叫んだ。

「わあっ!!!……もう!!」
「ノックしても気づかねぇからだ」

リヴァイが私を見下ろし、自分は悪くないという顔をするけど扉を蹴破った跡が見えて、もう笑うしかない。

「扉………直してよ?」
「疲労で倒れたのかと心配してわざわざ蹴ってやった俺が直すのか」
「馬鹿、冗談は笑いながら言うものなんだからね」

真顔で冗談を言ってしまうリヴァイに後輩の兵士達が困っているのをよく見かける。長年付き添っている私やハンジ、団長でさえ冗談か本気か悩むのに後輩達にわかるわけがない。

リヴァイは何も言わずに入り口の方に歩き、ただの板と化した元扉を壁に立てかけた。

「まさか……それで直したなんて言ったり……」
「放っておいたら邪魔だろ。それに扉がねぇと大切なお前の着替えも丸見えになるからな」

これは冗談だと私でもわかるが、本気にしてしまうのが惚れた弱みというものだろう。

「照れてねぇでさっさと渡して来い。食堂で待ってる」

そう言い残してリヴァイは食堂に行ってしまった。

どれだけ忙しくても二人で毎食一緒に食べるようにしている。約束もしていないが、暗黙のルールとはこの事だ。

待たせない為にも急いで団長室に向かい、何かの書類にサインをする団長に班員の書類を手渡した。

「いい兵士は見つかったのか?」
「はい。ミケ班から一人ハンジ班から二人お借りしました。」
「本当にメイには甘いな。特にリヴァイとハンジは。」
「昔からです。そして団長も、私に優しくしてくれてます。」

団長は昔から本当に私に優しく接してくれる。仕事柄公の前では厳しい団長だけど、こうやって団長室で会う時は私のお気に入りのお菓子を出してくれたり、リヴァイの話をしてくれたりと優しい一面が見える。

「リヴァイには負けるが、メイの事を大切に思っているからかもしれない。それより、もう夕飯の時間だ。リヴァイが待っているだろう」
「あ、そうでした!団長もご一緒にいかがですか?」
「遠慮しておこう。リヴァイに怒られるからね。」
「ふふっ、では失礼します」

こちらに微笑む団長に一礼し、部屋から出る。そろそろ怒られる頃だろうと、足早に食堂に向かえば入り口で壁に寄りかかるリヴァイを見つけた。

「入ってても良かったのに」
「この広さだ、座ればメイが見つけられねぇだろ。」
「リヴァイの背が低いから?」
「お前もでけぇ口叩くようになったな」
「そりゃもうすぐ奥さんになるんですから」

と会話しながら食堂に入り、料理を受け取る。今日はパンとシチューらしい。どこも満席で座る場所に困っていると、聞き慣れた声がした。

「メイー!リヴァイー!ここおいでよ!!」

バシバシと机を叩き大声で私たちを呼ぶのは言わずもがな、巨人を愛する変態だ。生憎そこしか空いておらず、嫌々二人で向かい合わせで座り私の隣にハンジが座った。

ハンジが大声を出したせいで視線が集まったが、もういつもの事なので気にしない。

「どう?皆からお祝いの言葉貰えた?」
「クソメガネの言うことが信じられねぇんだろ。チラチラと見やがるだけだ」
「えー……私ってそんなに信用されてない?」

何も言えずに黙ってパンを頬張る。

「なんで黙るの!?」

ハンジが喚きながらシチューを食べるが、色んなところに飛んで潔癖症に近いリヴァイは今にも怒り出しそうだ。

そんな時、誰かがリヴァイの隣に立った。

「お隣いいですか?」
「馬鹿、兵長の隣は俺だ!」
「あんたは黙ってて」

ペトラとオルオだった。会話を聞くだけでも仲が良いのがわかるが本人達によればそうでもないらしい。オルオは好きだと思うけど。

「早く座れ。冷めると不味くなる。」
「じゃあ俺が」
「あっ!……もう。」

ペトラは憧れのリヴァイの隣を取られて拗ねているが、オルオはきっとリヴァイに嫉妬しているのだろう。ペトラを自分の隣に座らせ、満足気な顔だ。

「それより、兵長とメイさんが結婚するって噂が立っているんですが……本当ですか?」
「ああ。」
「ほらやっぱり結婚なんて………ええっ!?」

驚いているのはオルオだけでペトラは予感がしていたのだろう、嬉しそうだ。

「おめでとうございます!壁外調査までにされるんですか?」
「いや、終わった後だ」
「じゃあ絶対に生き残ってメイさんのドレス選びに付き合います!」
「ありがとう、死ぬわけにはいかないね」

やっぱりメイさんにはあれが似合うだろうな〜とか私より楽しそうなペトラに微笑む。

「やっぱり私って信用されてないんだ………」

なんてショックを受けるハンジには誰も何も言えなかった。

戻る
×
- ナノ -