幻影 | ナノ

リヴァイに縋り付くように泣いた。その行動はまるで子供のようだ。けど大人になっても子供に戻りたい時くらいある。この歳になってもまだ想い描いた大人に向かって成長しているから。
リヴァイは落ち着くようにと紅茶を淹れてくれた。久々に漂う紅茶の香りにまた泣きそうになる。こんなにも甘い香りだったか。口をつけると、懐かしい。

「リヴァイの気持ちが知りたい、どうして避けてたの?」

「…………気持ちは変わらねえ。変わる予定も特に無い。」

その言葉でやっと緊張が解ける。別れを告げられるかもしれない、とリヴァイに会った瞬間から身構えていた。
リヴァイの紅茶を飲む音が聞こえ、私もカップを手に取る。

「が、結婚はしない」

「えっ………ど、うして…」

カップが震え、飲まずに机へと戻した。リヴァイの言葉が信じられない。聞きたくない。気持ちは変わっていないのは私も同じで、強くなっていく一方だ。なのに、リヴァイは結婚する気はないという。

「カウンセリングの仕事はどうだ」

「リヴァイっ、」

「お前の人気も上がってるらしいな」

「ねぇ、リヴァイ…どうして……」

どうして、好きなのに愛しているのに結婚の約束もしたはずなのに今更しないなんていうの。どうして、話を逸らすの。それは、私の目のせい?それしか考えられない。

「俺は、情けなくて弱い男だ」

「リヴァイが卑しいなら、他の人類はどうなるの」

「俺は、お前の前では人類一、弱いかもしれねえな」

「どういう………」

私の言葉を聞きたくないのか、リヴァイは唇を塞いできた。久しぶりの柔らかい感触、こんなにも淋しいキスをするなんて初めてだ。
いつ、こんなキスをするようになったの。何度も角度を変えてふってくるそのキスは激しく、気持ちがこもってるはずなのに辛い。

「リヴァイっ…んっ……やめ、」

「………悪い」

リヴァイが離れ、包まれていたぬくもりや匂いが消える。そしてカツカツと足音が離れていく。

「まって、まってよ。ちゃんと説明して。あなたはいつも、分かりにくい」

表情でいつもわかっていた感情が、見えなくなった瞬間にわからなくなった。リヴァイが今、何を考えているのか。必死に名前を呼んでも足音は離れていくだけ。

「………好きよ」

最後に私から出た言葉はこれだった。結果、リヴァイが好きで愛おしい。

「ああ、俺も相変わらずお前が好きだ」

そう言った後、扉が開いて閉められた。部屋の外で足音が遠ざかる。
どうして、意味がわからない。想いは、通じ合っているのに。椅子から立ち上がったときに机が揺れ、カップの割れる音がした。その音と同じ音が私の中からも聞こえたような気がした。

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