幻影 | ナノ

生憎の曇り空でなんだか気分もどんよりとした日。内地は賑やかで特に町の中心であるここは人が入り乱れていた。エルヴィンはある店で用事があるらしく、私とリヴァイは二時間ほど暇をもらってしまう。町にいてもする事がないため、適当に歩いていることにした。リヴァイはすぐにどこかへ行ってしまったけど気にしない。
色鮮やかな宝石店、香ばしい匂いが漂うパン屋、町の中央で流れる綺麗な音色。五感を全て楽しませてくれるような素敵な町だが、それが今は憎たらしい。巨人など忘れてしまいそうになる。
少し歩いてみるとメイに似合いそうな服を見つけた。仕事柄兵服が多い彼女だが公休の時は必ずオシャレな私服を着用する。私みたいに一年中兵服でいるようなダラシない子じゃない。
そこで見覚えがある黒髪を見つけた。私を置いて町の探索に出かけたリヴァイだ。私が見つけた服をじっと無表情で見つめている。その光景に私はニヤリと笑ってしまった。あんなに無表情でも頭の中ではしっかりメイの事を考えて胸焦がれているんだろう。

「リヴァイ!」
「クソメガネ………そんな顔で近付くな」

ニヤニヤしているのが気に食わないらしい、そんなリヴァイを気にせず私は彼の手をとった。人より巨人を倒している分、傷つき硬くなっているその手は冷たい。リヴァイに後ろから蹴られるが気にせず私は歩く。

「どこに行く気だ」
「いいから!」

内地にいる調査兵に化け物でも見る目を向けてくる人達を掻き分けて辿り着いたのは私とは無縁の場所。

「綺麗でしょう」

リヴァイは店外に飾られてあるマネキンを見つめて動かない。純白のそのドレスは女性の憧れであるウエディングドレスだった。ちょうどさっき見つけてメイの事を考えていた。リヴァイも今はメイの事しか頭にないだろう。

「俺は………」
「リヴァイにはリヴァイの考えがあると思う。でもメイには伝えなきゃいけないよ」
「わかってる。」

わかってないよ、リヴァイ。あんたはいつもメイに伝えるのを忘れて、勝手に伝わってると思ってる。
リヴァイはウエディングドレスを見つめたまま、エルヴィンと出会うまで動かなかった。私もその隣で、醜いくらい真っ白なそれを眺めた。

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