幻影 | ナノ

突然、ペトラが押しかけて来たのがお昼過ぎくらいだった。

「メイさん!ペトラです。」
「大丈夫、声でわかるよ。どうしたの?」
「今から暇ですか?」
「それが、後でカウンセラーの方が来るの」

そう伝えるとペトラのガッカリしたような声が聞こえる。一体何の用事だったのか、聞いてみるとペトラは今度ウキウキとした声になった。

「ドレスですよ、ド・レ・ス!」

ドレスと聞いてピンと来ない。この後暇だったらドレスをどうするのか、話が全然読めなかった。

「ウエディングドレスですよ!」

そう言われてやっと気が付いた。壁外調査に行く前にペトラと約束していたのを思い出して、胸が痛くなる。ドレスの事なんて忘れていたし、第一選びに行っても着る日が無い。

「ドレスは必要ないと思う」
「え?どうしてですか……あ!兵長と一緒に見に行くんですか?」
「違うの……リヴァイとはもう…」
「さっきドレスの事伝えたら、あまりメイを困らせるなよって…」
「え?」

どういう意味か全然わからない。ペトラが私とドレスを見に行くと話すと、困らせるなよって返ってきたと言う事は……ドレスの事は否定していないし、結婚という文字が頭にあるという事なのか。

「リヴァイは今どこにいるの?」
「さっき内地に向かいました。」

何てタイミングの悪い。すぐに答えを聞き出したかったのにいないなら話にならない。

「リヴァイは………まだ私の事、想ってくれてる?」
「当たり前じゃないですか!毎日話してますよー」
「え……!?」
「毎食一緒に食べるからって私たちの誘いも断りますし」

私の為に嘘をついているのか。でもそんな声ではないし、嘘をついてもいずれバレることはわかる。本当だとして、私は勘違いをしていたのかもしれない。

「兵長と何かあったんですか?」
「ずっと…避けられてて…」
「!?、え………そうだったんですか!」
「私が入院していた時から……」
「私たちの前ではいつも通り、メイさんの事をよく話していました。」

私たちというのはリヴァイ班のことだろう。どういうことか全然わからず、誰を信じていいのかもわからない。
団長室で会った時は目も合わせてくれなかったのに、班員の前ではいつも通りだなんて。もしかしてペトラ達に結婚破棄がバレて何か言われるのが嫌で隠し続けてる…としか考えられない。
ネガティブな思考は止まることなく、色んな考えを示しては、否定していた。

「1度兵長とゆっくり話してみて下さい。帰ったらすぐに呼びに来ます。」
「ありがとう、ペトラ。」
「ドレスも行きましょうね。じゃあ、私は失礼します」
「うん、またね」

ドレスのことは否定も肯定もせず、ペトラに手を振って扉の閉まる音を聞いた。
私はソファに座って項垂れる。リヴァイとサイラス、2人の顔が頭に浮かんでは消える。悩み事が増え、私の頭は一杯一杯だ。頬を弱く抓っても痛くて、なぜ自分が夢ではない事を確かめているのかさえ意味がわからない。
まず、順番に解決していこう。内地に行ってしまったリヴァイのことは後に回してサイラスの事について考える。告白に、どう返事をすればいいのか。
そうだ、ハンジに相談しよう。持つべきものは友人である。幸いカウンセラーの方が訪れるまで時間があるため、私はゆっくり立ち上がり手探りで歩き始めた。

「メイさん!?」

廊下をノロノロと歩いてハンジの部屋に向かって歩いていると声がした。この声は確か……モブリットだ。

「モブリット、どうして驚いてるの?」
「メイさんの目の前に壁があるからですよ!」

背中がゾッとした。何年も歩き続けた廊下だから目を閉じてでも歩けるはずなのに、無理だったらしい。モブリットがいなければ壁にぶつかり転んでいたかもしれない。

「ありがとう、モブリット」
「お一人でどこに行こうとしていたんですか?」
「ハンジに会いたくて」
「分隊長は今、兵長と内地に行っています」

ハンジも同伴の仕事だったのか。相談相手も意中の相手も内地にいるらしい。私も今すぐ内地に向かいたい気分だ。

「そう。内地に行ってるのね。ありがとう、カウンセリング室に向かうわ」
「手伝わせて下さい。また壁にぶつかりそうになったら怖いです」
「お願いしていい?私も怖い」

モブリットの腕が肩に回ってくる。心優しい部下を持ってハンジもリヴァイも幸せ者だ。
それからモブリットとハンジの話をした。昔の事とか今の事とか内容は全て文句を言いながらもハンジの事が大好きだと伝わってくる内容で始終頬が緩んだままだった。

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