幻影 | ナノ

「ハンジさん、そろそろ機嫌を直して下さい。」
「嫌だ。メイが謝るまで。」
「メイさんがここまで来るには足が治ってからですよ。」
「だって、メイが私を怒るから。」
「子供ですか。」
「悪くない私を怒って、あいつを庇うから。」

膝を折り曲げて抱え込むように拗ねるハンジさんはメイさんが大好きでたまらないんだと思う。拗ねている時は好きな巨人のことを忘れるほどだった。

「ニファ、メイの様子見てきてよ。」
「いいですけど…ハンジさんの事なんて忘れていても知りませんよ?」
「もう、今は傷ついてるからやめてよ。」
「わかりました。様子を見て来るので戻ったらちゃんと仕事して下さいね。」

片付けなければならない書類が山ほどあるというのに、一切手をつけていないハンジさんにモブリットさんは頭を抱えている。
弱い力でヒラヒラと手を振ったハンジさんに追い出され、メイさんが眠る医務室へと足を運んだ。
メイさんの事は本当に驚いたし、仲良くしてもらっていたからショックで泣いたのはつい先日の事だ。まだ意識が戻らない時に一度お見舞いに行ったが、姿を見たらまた泣いてしまってハンジさんに抱きしめてもらい、泣き止んだのを覚えている。

医務室に入ると訓練で怪我をした兵士らが訪れていた。訓練後の医務室は忙しく、医者たちがバタバタとしている。そしてベッドが並んである隣の部屋へ行くと、そこにはメイさんと男の人がいた。

「サイラス、誰が入ってきた?」
「ハンジ分隊長のとこの、女の子だ。名前は?」

こいつがサイラス。メイさんに怪我を負わせた張本人が何故ここに。

「ニファです。メイさん、ハンジさんのことまだ怒ってます?」

サイラスの反対側のメイさんが横になるベッドの近くにある椅子に座った。

「私が謝りに行かないとね。ハンジさんは拗ねると何もしないでしょう?」
「流石メイさん、ハンジさんの事をよくお分かりで。今その状態です。」
「足が治れば会いに行けるのに。」
「私が無理矢理連れてきますよ。任せてください!」

ドンッと胸を張って笑いかけるけど、メイさんとは目が合わない。1度目が合えば吸い込まれるような、綺麗な瞳だったのに。

「あと、リヴァイなんだけど…」
「兵長がどうかしましたか?」
「最近、どうしてるかなって…」
「昨日食堂で見かけましたが、特に何も変わった様子は…」
「……そう。」

悲しそうな声を出して、メイさんは布団を手繰り寄せた。てっきり兵長は毎日お見舞いに来ていると思っていたのに、どうやら違うらしい。もしかして、目の前にいるサイラスのせいなの……。

「……私、行かなきゃ。」
「ニファ……?」
「また来ます。失礼しました。」

メイさんは心細いはずなのに、ハンジさんも兵長も何をやってるの。どれだけ2人が偉くても私は言わなければならない事がある。
部屋から出る扉に手をかけて、振り返る。

「サイラスさん、私はニファです。今後ともよろしくお願いします。」

サイラスさんは少し驚いた顔をしたあと、ぺこりと頭を下げた。
満足した私はすぐに部屋から出て走り出した。

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