「ゾロー、引き上げてくれない?」 今にも雨が降りそうな曇り空の下、フォアマストにかかるロープを登って、展望台もといゾロのジムへと入ろうとするが筋力がない私にはとても登れない高さに入口がある。 ゾロに向かってヒラヒラと手を振れば、わざとらしいため息が聞こえた。トレーニングの邪魔だとか言いたそうな顔をしている。 「梯子使え、馬鹿。」 とか言いながらひょいっと私の脇の下を掴んで引き上げてくれた。ゾロの鍛えられた腕なら私でも余裕で持ち上げられるらしい。 私を地面に下ろすと、すぐにダンベルを掴み上下に降り始めた。ここまで鍛えなくてもゾロは十分強いはずなのに、まあ何を言っても聞く耳すら持たないだろうけど。 「何しに来た?」 「ルフィに追いかけられてて、私があんまり来ないような場所に来てみた。」 先日の風呂の一件からルフィと顔を合わせることが出来ないでいた。羞恥心からだと思うが、一緒に旅をする仲間同士これからこのままと言うわけにもいかない。 「お前も大変だな」 「心配してくれてる?」 私の質問には答えず、今度は腕立て伏せを始めてしまった。ここでゾロのトレーニング姿を見るだけっていうのもつまらない。下に降りようと梯子に手をかけた瞬間にポツポツと降り出した雨。少し経てばザーザーという音に変わる。 「降りるか?」 「降りません。」 大人しく雨が止むまでゾロの腕立て伏せを見ることにした。見るといっても目線を向けているだけで考えていることはゾロじゃない。 ルフィはこの雨の中私を探しているのか、それとも探すのを諦めてアクアリウムバーで寛いでいたりするのかだとか考えれば考えるほど今すぐここから出て甲板に降りたいと思った。 「まさか降りようとか思ってるのか?」 いつの間にか腕立て伏せを終わらせていたゾロは私の隣に腰を下ろすと、考えている事を言い当ててきた。 「うん、濡れても大丈夫」 「風が強ェから、ロープ揺れるぞ。」 もしロープが揺れて落ちてしまえば骨折じゃ済まないかもしれない。でも、ここでじっとしているのは嫌だった。 立ち上がり、扉を開けようとすればガチャガチャとしか音がならない。何度も何度もガチャガチャするけど、扉は開かない。 「やり過ぎだ!諦めろ、待つしかねェ。」 「ゾロ!斬ってよ!」 「斬ったらフランキーに何されるかわかってんのか」 フランキーは船を傷つける行為だけはたとえ仲間でも許さない。先日男部屋のベッドを破壊してしまったルフィは3日間皆の前に姿を表さなかった。フランキーにどこで何をされていたのかは絶対に口を割ってくれなかった。 ゾロの提案で、閉じ込められている事を気付いてもらいフランキーに扉を直してもらう事にした。フランキーは怒らせたら怖い人(ロボット)だ。 ゾロの隣に戻り、腰を下ろして窓の外を眺める。勢いを増す雨は本当に止むのかと心配になるほど。 「風もどんどん強くなってきたね。」 窓がガタガタと揺れるほど強い風。特に会話もなく雨風の音がずっと展望台内に響いていた。 「ゾロ?今日は口数が少ないね。」 いつもならもっと会話をするのに、今日はどうしたのだろう。隣のゾロは下を向いたまま動かない。もしかして寝てるのかと思い、顔を覗き込むと目はパッチリと開いていた。 「我慢の限界だ。」 「我慢?」 私が聞き返せばゾロは何も答えず、肩を掴んで来た。流されるままに押し倒され、まだ状況が飲み込めていない。 まさか、ゾロまで欲情しているというのか。 「なんで……ゾロはいつも…普通に接してくれたのに。」 ゾロだけは、と信じていた私が馬鹿だったのかもしれない。男はみんな同じだった。ゾロの瞳はまるで野生の虎のようだった。鋭く、野生的で周りが見えていない。 ゾロは私の両腕を左手で掴み、使えないようにした。正直言って恐いがまだゾロを信じている自分がいる。空いた右手でシャツのボタンを一つずつ外していく。信じても、無駄かもしれない。 「ゾロ、やめて。」 「冷静だな?」 「ゾロこそ冷静になって、こんな事しないで。」 シャツのボタンを全て外し終えたゾロは私の胸に手を伸ばした。下着は付けているが、触れられた瞬間に吐き気がした。 ルフィとは違う。ルフィに触れられても吐き気はしないし気持ち悪くもない。ゾロだからか、違う、ルフィじゃないからだ。 「ルフィっ!……ゾロを止めて!」 私の声なんか聞こえないほど、ゾロはその行為に没頭していた。下着をずらし、直に触れようとする。 「ルフィっ!」 雨や風の音で聞こえないかもしれない、でも呼ばずにはいられなかった。きっと来てくれる、そう信じて名前を呼び続ければ、扉が壊される音がする。 やっぱり来てくれた、フランキーに怒られてもいい覚悟で扉を壊してまで助けに来てくれた。 「ゾロ!!何してんだよ!」 ルフィはゾロの右手を掴み、顔面を殴った。あまりに衝撃的で小さく悲鳴が漏れた。 「あ……ああ……」 やっと正気に戻ったのか、ゾロの目は少しばかり泳いでいた。 「なまえ、これ着て下に行ってろ」 「でも……」 「はやく!!」 ルフィの赤いベストを借りて私は急いで梯子とロープを使って甲板に下りた。 あんなにも怒り狂ったルフィを見るのは初めてだった。 雨に打たれてルフィを待ち続けると、ヒョイッと空から降ってきた。ゴムだから痛くないとわかっていても、着地の瞬間ドシッと音がして思わず目を閉じた。 「なまえ、風邪ひくだろ!?」 「ルフィっ……」 ルフィの拳は赤くなっていて、ゾロを殴ったことは一目瞭然だった。 「すっげェ痛い。」 自分の左胸を掴み、ゾロを殴った痛みを思い出していた。仲間を殴るというのは精神的にも大きなダメージがあると思う。 「ゾロはなまえに土下座したって許されねェなって言ってた。けど、許してくれねェか?ゾロも反省してるし……」 「わかってるよ、そんなに怒ってない。」 「ハァァ、良かった。けど、簡単に触らせるなよ。」 「ルフィは私の彼氏か!!」 「彼氏じゃねェのか?」 「違うよ!!」 でも、もう自分の気持ちには気がついた。ルフィじゃないと吐き気がしたし、触られたくない。これじゃ変態みたいだけど、ルフィよりは普通に近いと思う。 その後は私は風邪をこじらせる事になるんだけど、ゾロが何度も謝りに来てくれたからもう良しとしましょうか。 戻る ×
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