真っ白な湯気が湿った室内を満たす。湯船に浸かりながら、窓の外を見つめる。満点の星空はとても幻想的だった。少し浸かりすぎたか、と鏡の中の真っ赤な自分を見つめる。また胸が大きくなったのではないか、と視線を胸に向けた。大きいからってなんの得もない。いやらしい目で見られるだけだ。
小さくため息をつき、タオルを巻いて浴室から出ると、そこには真っ赤な血を流して倒れるルフィがいた。

「……この野郎。」

もちろん、鼻から血が出ていて私は思いっきりその腹を蹴った。目が覚めたルフィは何事かと言う顔をして私を見る。

「覗いた?」
「…………い、いや…」
「覗いたね?」
「……覗きました。」

すぐそこに正座をさせ、私はその正面に座った。そして、怒りで取り乱さないように出来るだけ冷静に話をする。

「していいことと、悪いことがあるよね?これはしていいこと?」
「…………悪いこと」

謝りなさいと言うと、ルフィは急に顔を真っ赤にさせた。目を泳がせ、照れたように頬をかいている。

「どうしたの?」
「思い出したら……すげェ熱い。」

私の目の前で、私の裸を思い出したとか普通言うか?と思ったけどルフィは普通じゃない。なんだかこっちが恥ずかしくなってきて、バスタオル一枚だということも今思い出した。

「なまえ、顔赤いな。大丈夫か?」
「ルフィに言われたくない。顔真っ赤だし、鼻血出てる。」
「なァ、一緒に風呂入ろう」
「む、無理に決まってるでしょ!?」

一緒に風呂入ろうだなんて、おかしい台詞だ。顔が燃えるように熱くて、はやくここから立ち去りたかったけどバスタオル一枚だ。このまま出るわけにはいかない。

「はやく出て行って。」
「着替えんのか?」
「そうよ、だからはやく…」
「じゃあおれが手伝ってやる」
「なにを手伝うのよ!いいから出て行って!」

ルフィの背中を押して、無理矢理ドアの近くまで連れて行く。拗ねたような顔をしているがそんなの無駄だ。
するとルフィは急に振り返って、私の腕を掴んで来た。急だったからか、驚いて固まってしまう。

「ルフィ?」

何も言わず、ただ私の目だけを見つめて動かないルフィ。何度名前を呼んでも返事はなく、何か考え事でもしているのだろうか。
数分経っただろう、突然ルフィはニッと笑って私の濡れた髪を撫でて来た。真顔と笑顔のギャップに心臓が跳ねて、これが世間で言うギャップ萌えなのだろうか。

「着替えたらドライヤーしてやるからな、早く来いよ」
「?、」

それを言うために数分間考えていたのか。ルフィの考えている事がまったくわからない。ルフィはそれだけ言うと満足したようにドアから出て行った。私は満足していない、何だか一本取られたみたいだ。近くにあった鏡を見ると顔が赤く、まさかまだのぼせているわけないとわかっていたがルフィに赤くされたと思うと悔しいからそういうことにしておく。

着替えて浴室から出ると、ルフィが胡坐をかいて待っていた。寝ているみたいで、私が出てきたことに気づいていない。しゃがみ込み、ルフィの顔を覗き込むと眠りながら笑っていた。良い夢でも見てるのだろうか。気持ち良さそうに寝ているから起こすのも悪い、私はルフィの隣に座り空でも眺めている事にした。するとそこにチョッパーが通りかかる。

「こんなところで何してんだ?」
「しーっ、寝てるの」
「なまえ、お風呂上がりで体冷やすと風邪引くぞ!」
「ありがとう、チョッパー。すぐに起こすよ」

声の音量を下げ、ルフィを起こさないようにコソコソと話す光景はなんだか面白い。チョッパーは満足したのか、可愛い足音は遠ざかっていった。
寒くなってきたこともあり、ルフィを揺さぶって起こすことにした。5回目くらいでやっと目覚めて、私の顔をじっと見てくる。

「あれ………おれ…何してたっけ」
「私の髪の毛を乾かしてくれるんでしょう?」
「そうだった!わりィ、寝てた」

ルフィは立ち上がり、私の手を握って立たせてくれた。身長差でルフィを見上げる形になり、ある出来事を思い出す。どうやら上目遣いに見えるらしく、興奮すると言われたことがある。だからすぐに顔を下に向け、ルフィを見ないようにした。

「ほんっと……お前は男をわかってねェよなァ。」
「え?何言って…」
「乾かしてやるって言ったのはおれだけどよ、まさかホントに頷くとは思ってなかった」
「どういう意味か全くわからない。」
「濡れた髪で顔赤くすんのやめろ」

そんなこと言われれば尚更顔が赤くなるのは自然なことだと思う。そんな私を見てルフィはため息をつくと、グッと腕を掴んで引き寄せてきた。

「男部屋じゃアレだし、ひと気のねェとこ行くか」
「サ、サラッと何言ってんの!行かないよ!!」

ルフィの鍛えられた腹を押し、なんとか距離をとる。

「自分で乾かすことにした。」
「あ、なまえ!」
「ついて来るな、馬鹿!」
「風邪引くなよ」

ああ、ほんっと。ルフィも女をわかってない。計算なのかそれとも天然なのか、どちらにしろ心臓には悪い。ルフィにもう一度バカ!と叫びほとんど乾いている気がする髪を乾かしに向かった。

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