「ブルック、落ち着く曲お願いできる?」 「そこ変わりパンツ見せていた…」 「はやく。」 サニー号へ戻った私は甲板でヴァイオリンを弾くブルックを見つけ、近寄った。ブルックの曲は本当に素敵だと思うけど、パンツは見せない。 笑ったように見えたブルックはゆっくりと弾き始めた。私は芝生へ座り、その高い骸骨を見上げる。楽しそう(骸骨だからわからない)な顔を見れば不思議と私の心も落ち着いてきた。 ルフィが変態なのはいつもの事で、怒ることじゃない。なぜあんなにもイライラしたのか、それはきっとルフィがまだ好きだからだろう…………か? 「なまえさん、どうしました?」 曲が終わったのに固まっている私をみて、ブルックが座り目線を合わせてきた。骸骨の顔が目の前にあれば怖いが、慣れてしまえば何だか可愛く見えてくる。 「ちょっと考え事。今日もいい曲をありがとう。」 「ヨホホ!なまえさんがいつもわたしの曲を聴きにくる時は悩んでいる時です。思う存分悩めばいいんです。」 「そういえば……そうかも……」 「では、もう一曲。楽しい曲を。」 悩みを聞くことはしないブルックは紳士だ。その立ち振る舞いからも想像できる。次の曲はさっきとは違い、アップテンポなものだった。歌を交え、違う楽器を鳴らしてみたりと、本当に楽しそうだ。こっちまでウキウキワクワクしてくる。 「私も歌っていい?」 「もちろん。」 歌いながら考える。ルフィに謝ろう。変態のルフィも少しは悪いけど、助けてもらったのにあの態度はおかしいだろうと思ったからだ。それに気づいたのもブルックの曲を聴いて冷静になれたからだった。 「ブルック、紅茶淹れてもらって一緒に飲もうよ。」 「なまえさんに誘っていただけるなんて。嬉しい」 「ミルクティーでいい?」 「はい。お願いします」 サンジくーんと呼べばどこでも飛んでくるけど、今日は自分でキッチンへと向かった。扉を開けると珍しくサンジくん1人で、夕食の仕込みをしているようだ。 「ミルクティー二つ頼んでもいい?」 「喜んでー!」 カウンター席に座り、サンジくんが手際良く紅茶を淹れるのを見つめる。綺麗な手だなーとか真剣な顔だなーとか思った事は心の中だけで呟いておく。口にすれば、鼻血を出して倒れる事を何度か経験しているうちにわかった。 「ルフィが後を追って行ったけど、会わなかった?」 「会ったけど……喧嘩しちゃった」 「またどうして…」 「ルフィの変態すぎる行動にちょっとイラついちゃって。でも、言い過ぎちゃったから謝ろうと思ってる」 「なまえちゃんは変態のゴム野郎なんて嫌い?」 「ううん、好きだよ。でも前のルフィに戻ってほしいと思ってる。」 前のルフィっていうのは、いわゆる「冒険だー!肉だー!」って言っていたルフィのことだ。 「ルフィが変態になったのはなまえちゃんが好きだからだ。」 「好きならどうして変態になるの?」 「好きだから、触りたくなるんだ。」 「………意味がわからない。」 「おれも、世の中のレディを触りたい。もちろんなまえちゃんも。」 ミルクティーのカップを差し出したサンジくんは顔だけはかっこいい。もちろん性格はこんなものだ。世の中のレディの為に生きている。 「ミルクティーありがとう。」 「冷めないうちにどうぞ。」 ルフィの変態についてサンジくんの言っている意味はよくわからなかったから、ミルクティーを飲みながらブルックと話そうと甲板に向かう。近づくにつれて聞こえてくる音色。スローテンポだが、今の夕焼けの雰囲気にピッタリな曲だった。 「サンジくんが淹れてくれたよ」 「ヨホッ、ありがとうございます。いい匂いですね」 「ねぇ、男の人は好きな女の人の前だと変態になるの?」 急にどうしたのか、という(恐らくそういう)顔をしているブルック。少し考えてから、ヨホホッと独特の笑い方をした。 「好きだから自分のものにしたいと若い頃は思ってました」 今は年老いてしまいましたが、と付け加えていたが……そういうものだろうか。触れば自分のものになるのだろうか。男っていう生き物は難しい。 「ありがとう。とりあえず仲直りしてみる。」 結局ミルクティーは口をつけていないけど、サンジくんなら許してくれるだろう。ルフィの声が聞こえた途端胸が弾んだのは、喧嘩して珍しく謝るから緊張しているのだろうか。麦わら帽子が見えた瞬間に駆け出した。 戻る ×
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