目の前には女の子にナンパしている彼氏がいる。見慣れすぎて大きなため息を漏らすだけ。付き合った当時は嫉妬したりしたけれど、今は少しだけだ。

「サンジ。」

名前を呼べば、女の子に向けていた笑みではなく、私だけに見せてくれる笑みを向けられた。こういう時だけ、嬉しくなるんだ。私は特別なんだって。

「浴衣似合ってるね。」
「ありがとう、良さそうな女の子見つかった?」
「今見つけた。」

やっぱり彼氏が彼女がいるのにナンパをするのは面白くない。だから嫌味を言うんだけど、するりと躱された。赤面した私の手を握ったサンジはゆっくりと歩き出す。

「もう嫉妬してくれないの?」
「…………してほしかった?」
「嫉妬してくれたら男は誰でも嬉しいよ。」

嫉妬する女の気持ちにもなってほしいものだ、と思いながらも言えない。サンジ相手に嫉妬していたらキリがないからだ。私が諦めないと身が持たない。

「あ、私たこ焼き食べたい。」
「話そらされた……じゃあ買ってくる。」
「うん、ありがとう。」

たこ焼きの出店に向かったサンジの背中を見つめながら、また帰りに女の子の一人や二人ついて来るんだろうなと思う。それでデートなんて台無しになって、また喧嘩するんだ。こんなの嫌だ。私もナンパして、嫉妬してくれないかな。そう思って近くの男の子に声をかけてみた。

「あの………」
「なに?どうしたの?」

ナンパってどうするんだろう、今になってわからなくなった。ナンパのやり方なんて学校で習ってないよ。目の前の男の子は首を傾げている。

「君、ひとり?」
「はい。」
「じゃあおれと回らない?一緒に来るはずだった友達に断られたんだ」

ひとりなんて嘘をついて、出会ったばかりの彼と歩きだそうとした時に腕を掴まれた。片手にたこ焼きを持って、珍しく女の子を連れていないサンジは怒っている。

「なにしてんの、人の彼女に。」
「はっ、この子ひとりで来たって……」
「ごめんなさい、私が嘘をつきました!」
「なんだよ、くそっ。」

去っていた名前も知らない彼にもう一度心の中で謝って、強い力で私の腕を掴むサンジと目線を合わす。

「どういうこと?」
「………サンジがいつもナンパして、嫉妬して辛いから。私もナンパすればサンジが嫉妬してくれるかな……って」
「お願いだから、やめて。」
「サンジも……やめて……ナンパなんてやめて私だけにして」

気づけば涙が流れていて今まで溜めてきた分、全然止まらなかった。サンジは私の涙を拭ったあと、ゆっくりと優しく抱きしめてきた。たこ焼きは近くのベンチに置かれている。

「ごめん、どこかなまえに甘えてた。」

もうナンパはしないと、嘘っぽい誓いでもこの時の私は嬉しかった。大胆にも私からキスをして、サンジを見つめる女の子達に見せつける。サンジは渡さない、だから狙わないで。私が嫉妬して嬉しいのかサンジはずっと笑っていた。

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