「被験体の巨人二体が殺されたって!!」 朝、大声を出して入ってきたペトラの言葉に驚いてデブは一気に目が覚めた。トロスト区内で生け捕りにしたハンジ曰く『ソニー』と『ビーン』が殺された。デブとペトラが慌てて駆けつけると、ハンジが涙を流しながら巨人の名前を叫んでいた。 「兵士がやったのかな?」 巨人を削げるのは兵士くらいだとデブは思ったから小声で呟いた。その声を拾ったペトラは小さく頷いた。 「犯人はまだ捕まってないらしいよ。夜明け前に二体同時にやられて、見張りが気づいた時には立体起動が遥か遠くにあったとか。」 巨人がいたはずの場所を兵士達がぐるりと囲い込んでいる。ざわざわと煩い人達の中で、デブの肩をある人物が掴んだ。 「デブ。」 「団長!」 「デブには何が見える?敵は何だと思う?」 「団長、どうしましたか?ハンジ分隊長大丈夫でしょうか。」 「すまない、変なことを聞いたな。旧本部に行ってから会えていないな、事が片付けば食事でもしよう。」 約束ですよ、とデブが微笑めばエルヴィンも微笑んだ。親子のように仲が良くてもエルヴィンはデブに言わなかった。敵がなんなのか、何を考えているのか。壁の外でも守ってやりたくなるくらいエルヴィンはデブのことを娘のように扱っていた。それでも団長たるものデブだけを守るためにはいかない。ということで一線を引いている。それが団長としての義務であり、デブもその事をわかっていた。 「デブ、許してほしい。」 「………?」 「君に隠し事をすることを。」 エルヴィンはデブだけに謝った。娘に隠し事をする事は胸が痛むこれが精一杯の罪滅ぼしだった。デブは小さく首を横に振り、気にしませんとだけ答えた。それを確認したエルヴィンはデブから離れエレンの元へ向かう。 「デブ、旧本部に戻るらしいよ。」 「うん。」 「立体起動装置の検査があるらしいけど。」 「検査?」 「犯人探しよ。」 いつシャフトを変えたのか、その日がきちんと登録されているものと合っているのかを検査する。リヴァイ班や兵士の中で異常はなかった。いったい誰が巨人を殺したのかはわかっていない。 「結局わからないままだったね。」 「それよりも今は新兵勧誘式の方が心配だよ。調査兵団に入ってくれる人がいるかどうか。」 検査から数日が経った今日、新兵勧誘式が行われる。グンタ、エルド、エレンは式に向かったがデブとペトラは馬の手入れをしていた。壁外調査において、この馬が無ければ命取りになる。しっかりと手入れを行わなければならない。 「確かミカサとアルミンは調査兵団に入りたいって言ってたなぁ。」 「主席の子?」 「ミカサはそうだよ。アルミンはすごく頭が良いから団長と気が合いそう。」 皆よりも何倍も先の事を考えるエルヴィンと気が合う新兵がいるなんて、とペトラは驚愕した。ミカサも逸材だと言うし、エレンは巨人になるし、と104期は個性的な子が多いなとデブは考えていた。 「仲が良いのね、104期の子達と」 「1度会ってるから、皆いい子達ばかりだよ。」 立体起動の講師としてデブが104期訓練兵達を訪れた時、彼らはとてもいい子だった。それぞれの個性があり、太くて悪口しか言われないデブにとても優しくしてくれた。その事がデブは心の底から嬉しかったのだ。 「エレンもきっと不安なんだ。急に私が巨人になってもエレンの様に強くなれない。」 デブの言葉にペトラは何も返さなかった。ペトラはエレンが怖いのかもしれない、恐れているのかもしれない。それでも、ただデブはエレンが怖くないし恐れもしない。守りたいだけだった。
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