あれから数日が経ち、明日エレンが審議にかけられることをリヴァイさんから聞かされる。あの作戦の事も。

「リヴァイさんを止めてしまいそうなので、私は本部でエレンの無事を祈っておきます。」
「ほう、俺を止められるのか?」
「止めてみせますよ。あ、リヴァイさん。」
「何だ。」
「抱きしめていいですか?」

何言ってんだコイツ。という目で見られる。恋人にそんな態度をとらなくても、と思うけどリヴァイさんはここ最近寝ていないらしいから相当疲れてるんだ。団長と話したり、色々今後の事で大変らしいのだ。それでも私は、リヴァイさんを抱きしめたかった。

「普通逆だろ、馬鹿が。」

そう言って抱きしめられて、胸が暖かくなった。私も抱きしめ返せば、安心感に包まれる。当たり前だけど、ペトラとは違う匂いがした。私が好きな、石鹸の匂い。

「また蜂蜜食ったか。」
「はい、リヴァイさんは石鹸の匂いがします。」

ぎゅうっと強く抱きしめても何も言われないからまた力を込めた。リヴァイさんがいてくれるなら、憲兵団に何を言われてもいい。

「あ、書類残ってました。」
「次からは終わらせてから来い。」
「どうしても、会いたくなって……」
「何かあったか。」
「いえ、何もありません。」

リヴァイさんに微笑んで、部屋から出た。石鹸の匂いがしなくなって、少し寂しいけど仕方ない。急いで自室に戻って、書類を終わらせないといけない。廊下を歩いているとハンジ分隊長がいた。

「デブ!」
「分隊長、どうしたんですかその書類の山!」
「今まで溜めてた分をエルヴィンに渡されてね。デブはリヴァイの部屋にでもいたの?」
「はい。」
「襲われなかった?私の可愛いデブを汚されたら黙ってられないからね。」
「襲われてないですよ。」

分隊長は豪快に笑うと、私に書類を手伝ってほしいと頼んできた。明日の審議でエレンを牢屋から審議所まで案内する役を頼まれたらしく、書類をしている暇が無いそうだ。

「今度のお茶会、分隊長が新しくできたケーキ屋さんに連れて行って下さるなら手伝います。」
「いいよ、あそこでしょ?本部の近くの。」
「そうです!イチゴタルトが自慢だそうなんですよ。」

楽しみだねーなんて会話をして、分隊長の書類を半分ほど受け取り自室に戻った。今日は徹夜になりそうだ。書類をしながらも、エレンの事を考える。憲兵団に連れて行かれれば何をされるかわからない。お願いだから、調査兵団に入って欲しい。あんな虫ケラ共に渡してたまるか。エレンからもらった蜂蜜で紅茶を淹れようと席を立った。







次の日エレンの審議が始まった。私はといえば昨日分隊長から預かった書類と睨めっこしている。エレンの事が気になって全然集中できていなかった。審議が終わるまでこの状態が続くだろうから、息抜きの為に自室を出て食堂に向かう。芋の匂いがした瞬間に後悔した。ああ、また体重が増えたんだったと。

「デブさん!こんにちは!」
「こんにちは。」
「お隣よろしいですか。」
「うん、いいよ。」

最近話すようになった、私に似ている男の子。つまり少しだけ一般人より脂肪が多いということだ。でも昔の私よりは太っているわけではない。リヴァイ班に入るのが夢らしく、よく相談にも乗っていた。そんな彼は隣に座ると、パンに噛り付いた。それにしても美味しそうに食べる。

「また悪口言われちゃいました。」

本当に私に似ていると思う。悪口を言われて傷ついて、私はリヴァイさんに相談していた。そして救われた。打って変わって彼の相談相手は私なんだ。私がリヴァイさんの様に彼を救えるだろうか。

「悪口を言おうが言われようが巨人を倒すのには関係ない。お前は兵士だろう。」
「え?」
「また言われたら慰めてやるから、訓練に励め。」
「はっ、はいっ!!」
「と、私が落ち込んでた時にリヴァイさんに言われて助けられたの。」

結局リヴァイさんの言葉を借りてしまったけど、目の前の彼は嬉しそうに笑ってくれた。彼の事を救えただろうか。パンをすごい勢いで口に入れてるからきっと吹っ切れたと思う。

「デブ!例の新兵の審議終わったって!!」
「ペトラ!今すぐ行く!」
「あのっ、デブさん!」

席を立った私の腕を掴んだ彼は微笑んだ。

「ありがとうございました。今度、美味しいご飯の店紹介させて下さい。」

急いでいた私は大きく頷いて食堂から出た。馬に跨り、審議所に向かう。隣で馬を走らせるペトラが眉を寄せているのが見えて、声をかけた。

「いいの?兵長という彼氏がいながら、デートの約束して。」
「デッ、デート!?」
「違うの?」
「ち、違うでしょ!」

危うくオルオみたいに舌を噛むところだった。それから審議所までは黙っていたけど、変な罪悪感が私を支配していた。


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