超大型巨人が現れた日から五年が経った。デブ達調査兵団は今日も巨人を恐れず壁外へと進出する。いや、恐れずというのは無理があるのかもしれない。特に人より肉が多いデブは美味しそうに見えて狙われるかもしれない。そんなデブの横に並ぶハンジは開門を今か今かと待ち望んでいた。デブはといえばいつも同じように不安を抱えてため息をついた。そんなデブに元気を出してもらおうとハンジは話題を変える。

「体重何キロ戻っちゃったの?」
「分隊長、聞いてくださいよ。五キロ戻りました。リヴァイさんに飽きられたらどうしましょう。」
「うーん、飽きられる事はないと思うけど。それに私はポッチャリな方が好きだよ。」
「お世辞はいりません。」

かつてデブと言われていたデブは何とかリヴァイに告白するケジメをつけようとダイエットを始めた。そして見事ペトラのようなモデル体型を手に入れ、リヴァイに告白し見事付き合う事になった二人はハンジから見れば順調に見えた。デブ的には一刻も早くまた痩せなければならないと思っている。デブが何度目かのため息をついた時、隣に来た人物は呆れたように言った。

「痩せてても太っててもどっちでもいいが、集中しろ。特にクソメガネ。」

ホント、リヴァイはデブに甘いんだから、と思ったものの言葉にすれば眼鏡を割られるに違いないとハンジは黙っておいた。リヴァイがフォローしたつもりでもデブにはあまり効果がない。

「リヴァイさんが甘やかすから私、太るんですよー。」
「じゃあ何も食うな。」
「そんなー!!」

冗談だと真顔で言われるのにも慣れてしまったデブは笑った。最初の頃は冗談なのか真剣なのかわからず困惑したものだ。そんな甘い雰囲気の二人にハンジはニヤリと笑う。

「ホント、仲良いね。」
「チッ、デブもう少し前に行くぞ。こいつがいねェとこに。」
「冷たいなぁ、リヴァイ。」

リヴァイさんとハンジ分隊長も随分と仲がいいと思うけど。喧嘩するほど仲が良いって言うし。

「開門するぞ!この先は巨人の領域だ!5年前に奪われた街を奪還するぞ!」」

馬の頭を優しく撫でる。今日もよろしく頼むよ、重い私を乗せてくれてありがとう。この馬がいなければすぐに巨人に食べられてしまう。そして団長の合図で私達は壁外へと足を踏み入れた。







「兵長!増援を集めてきました!」
「リヴァイさん!巨人がすぐそこまで!」
「ペトラ!お前は下の兵士を介抱しろ!残りの全員は右を支援しろ!俺は左を片付ける。」
「え…!?」

建物の屋根からみて右に一体、左に二体巨人がいた。普通は人数が多い私たちが左に行くはずだけど、リヴァイさんは違う。あの人は誰よりも何人よりも強いから。

「兵長行っちゃったよ!デブ!!」
「いいの、信じようよ。」
「わかった。私は下の兵士を介抱してくる!」
「私は右ね!」

ペトラと私がつれてきた増援の二人と共に右の一体へと向かう。立体起動が得意なせいか、二人より速く巨人の元についてうなじを削いでしまった。ペトラの元へ向かうともう二体を倒したらしいリヴァイさんがいた。

「兵…長……」
「………何だ?」
「オ…オレは……人類の役に…立てた…でしょうか…このまま…何の役にも…立てずに…死ぬのでしょうか…」

血を流す兵士のベットリと赤いその液体がついた手をリヴァイさんはギュッと握った。潔癖症のはずなのに彼は、その兵士を安心させるために自分を犠牲に出来るような優しい人なんだ。

「お前は十分に活躍した。そして、これからもだ。お前の残した意思が俺に力を与える。約束しよう俺は必ず!巨人を絶滅させる!」

リヴァイさんの言葉が終わった頃、彼はもう死んでいた。安心したように眠っているから、きっと最後まで聞くことができただろう。

「デブ、血がついている。」

私がいることに気がついていたらしいリヴァイさんは後ろを振り返って私と目線を合わせ、白いハンカチを差し出してくれた。

「大丈夫ですよ!リヴァイさんに貰ったスカーフがありますから!」

腰につけていたリヴァイさんの真っ白なスカーフを手に取る。私が泣いた時にくれたこのスカーフは宝物だ。絶対にどこかに巻いておけと言われて初めは不思議に思っていたけど、分隊長が言うには独占欲らしい。

「ニヤニヤすんな、気持ち悪い。」
「へへっ、だって嬉しいですもん!」

緩みまくりの頬を抑えずにいれば、リヴァイさんに頭を叩かれてしまった。そんな私たちのところへ団長がやってきて撤退の命令を下した。さっき亡くなった彼が犬死ではないかとリヴァイさんは怒ったが、巨人達が壁の方へ向かっている以上、何も言えない。

「また、超大型巨人でしょうか。」

私の問いに誰も答えてはくれなかった。否定してしまいたいけれど、誰もが超大型巨人が壁を壊したのだと思っているはず。

「デブ、突っ立てる場合じゃねぇぞ。」
「あ、すみません。」

エレンやアルミン、ミカサ達は無事だろうか。彼らの姿を思い出していると、いつの間にか兵長は馬に乗っていた。

「お前もはやく乗れ。」
「はい。」

自分の愛馬に跨り、首の辺りを撫でる。巨人がここに来る前にはやく撤退しなければならない。兵長の隣に並び、馬を走らせる。今壁の中で何が起こっているのか想像できているのはきっと団長くらいだろう。


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