立ち寄った飲食店はデブが行き慣れた場所だった。店長とも知り合いで、一言二言交わした後、席につく。 「リヴァイさんに教えてもらったの。料理は最高よ。」 「何があっても、腹は減るもんですね。」 エレンも腹が減ったようで、ぎゅるぎゅると腹の虫が鳴っていた。デブのお勧めと言うことで、二人はオムライスを注文。料理はすぐに出てきた。 「訓練後のオムライスは最高ね。」 「はい。デブさん、ありがとうございます。」 「お礼なんていいの。これからも仲良くしてね。親睦会でもする?」 「そんな時間ねぇぞ、って兵長に言われそうです。」 「今のリヴァイさんの真似そっくり!オルオより似てる!」 「嬉しいような、そうでないような……」 「エレンは正直だね」 会話は途切れる事なく続く。プレッシャーを忘れられるくらい楽しい時をすごすエレンに忍び寄る影が。 「デブさん、こんにちは。こいつは?」 エレンの後ろに立ち、デブを見つめるのは後輩でぽっちゃりの男。ペトラいわく、デートに誘ってきた男だった。 「こんにちは。この子はエレンよ。」 「巨人のっ……」 巨人になれる少年ということで調査兵団では知らぬ人はいない。ぽっちゃりの男(今後ぽちゃ男と表記)はエレンを見た後すぐにデブに視線を戻す。 「この前相談に乗ってもらったお礼に美味しい店紹介しますって言ったの覚えてますか?」 「うん、覚えてるよ。でもお礼なんていいよ。」 ぽちゃ男は近くにあった椅子を持って来て、デブの隣に座る。エレンは何だこいつと言うような目でぽちゃ男を睨んだ。 「そんなわけにはいきません!」 「だってあれリヴァイさんの言葉だし……」 「けど、いつも相談に乗ってもらってるので、お礼させて下さい。」 ただデブさんとデートしたいだけだろ、とエレンは心の中で毒付いた。デブは渋々頷く。 「デブさん、そろそろ戻らないと兵長が嫉妬しますよ。」 エレンはぽちゃ男を睨みながら言った。デブの事が好きなエレンはリヴァイとくっついたから渋々諦めようとしてるものの、デブに近づく奴は許せなかった。 「嫉妬って………兵長はデブさんが好きなのか?」 リヴァイもデブも自分達が恋人同士であることを他人に言ったりはしない。聞かれれば言う、その程度だった。だから知らない人の方が多く、エレンは自慢気に頷いた。 「それにデブさんも……」 「ちょっと、やめてよエレン!」 他人の口から言われるのは恥ずかしいと、デブはエレンを止める。 「もしかしてお二人は……交際して……」 誰が答えなくてもデブの赤くなっていく顔を見れば、交際しているんだなと気がつく。ぽちゃ男は立ち上がり、顔を真っ赤にさせた。怒っているのだ。 「あれだけ思わせ振りな態度とっておいて、交際してるなんて………元デブのくせに幸せそうにしやがって!!」 「………え?」 「デブはデブなんだよ!いくら痩せたからってまた太る!!太れば振られるぞ!デブな女なんて誰もいらねぇんだよ!!!」 好きな女にもう男がいたからってこう怒るのもおかしいと、エレンは席を立つ。そして呆然とぽちゃ男を見つめるデブに目線を向けた後、ぽちゃ男を力いっぱい殴った。店内で悲鳴が上がる。 「デブさんの努力も知らないで何言ってんだ、兵長はデブさんが痩せる前から好きなんだよ!お前がそんな事言えるような二人じゃねぇ!!」 「エレン!やめて!」 「ひっ!!!巨人っ!!」 殴られたぽちゃ男はエレンが巨人になるのではないかと、恐怖で腰が抜けていた。けれどエレンはまだ怒ったままだ、デブの声にも耳を傾けずもう一度ぽちゃ男を殴った。 「キャーッ!」 「だ、誰か憲兵に連絡しろ!!」 「俺の店の中で暴れるな!」 店内がどんどん騒がしくなる。デブはエレンに抱きついて、無理矢理止めさせた。 「エレン、やめなさい!」 「でも、こいつが………」 「私を庇ってくれるのは嬉しいけど、他人に迷惑はかけちゃ駄目。ここは店の中だよ!?」 エレンはハッと我に返って、辺りを見回す。怯えた客達を見て、やっと自分のしたことが間違いだったと気づく。 「憲兵が来る前に帰るよ。どうせこの騒ぎだから後でバレる。先に団長に報告しましょう。大袈裟にされる前に。」 デブは怯えたぽちゃ男を立たせ、机にお金を置いてエレンと共に店から出た。 「すみません、デブさん……オレ……」 「私には謝らなくていい。ありがとう、守ってくれて。」 デブが優しくエレンの頭を撫でれば安心したように笑った。その後旧本部に帰りリヴァイに報告し、3人で本部に行きエルヴィンにも報告し、ぽちゃ男に頭を下げた。店にも頭を下げ、憲兵の方はエルヴィンが何とかしてくれるようだ。 「やり過ぎだが、デブを庇ってくれた事は感謝する。」 リヴァイのその言葉に嬉しそうに笑うエレンをデブは見つめる。素直で真っ直ぐなエレンが可愛いデブはまた優しく頭を撫でた。
戻る |