実験は無事に成功し、エレンの身体は無傷だった。ハンジは興奮冷めやまないらしく、急いで本部に帰って行った。エレンは汗をかき、ぐったりと項垂れた。実験はハンジとリヴァイとエレンの三人だけで行われたのでどんな内容かは知らないが余程大変なものだったのだろうとモモは顔を引き攣らせた。

「あ、ハンジさんが桃をくれたらしいぞ。」

オルオの言葉にモモがいち早く反応した。桃を食べる量は減らしていたが大好物には変わりなかった。早速桃を剥き始め、甘い匂いが食堂を包んだ。エレンとリヴァイは汗を流しに行っているが他の班員は全員桃を待っている。

「モモの桃の量が多い気がするのは俺だけか……?」
「いや、俺もそう思った……」
「エルドさんもグンタさんも、こういうものは後輩に譲って下さい!」

満面の笑みでそう言われればエルドもグンタも許すしかなかった。十分熟された桃はとろけるように甘かった。

「もう一度、桃を植えてもいいですかね……」

火で燃えてしまった桃の木を懐かしむようにモモは呟いた。桃の量は減らさなければならないが、少しくらいならいいだろう。ここにいる全員頷いた。自分が食べたいから、と心の中で思ったのは誰も言わない。

「わっ、皆さんだけズルいですね!」
「ちゃんとエレンと兵長のもありますよ!」

モモは急いで二人の分を取りに行く。リヴァイも食べたかったのか、何も言わずに椅子に腰を下ろした。

「ペトラ。」
「はい!なんでしょう。」
「明日と明後日、内地に行くぞ」
「え……?内地にですか?」

内地に何か用事でもあっただろうか、とペトラは疑問に思う。何をするのか、聞いてもリヴァイは答えない。ただ、泊りがけということだけわかっていた。モモ達は何事か、と桃を食べる手を止めた。

「仕事ですか?」
「さぁな。」

プライベートとして誘っているのかもしれない、そう考えるとモモは複雑な気持ちだった。
好きだって言ったのはからかっただけなのか、と悩んで大好きな桃にも手をつけない。

「さっさと食わねェと午後の訓練に遅れても知らねぇぞ、お前ら」

リヴァイの言葉に慌てて桃を食べ始めるが、モヤモヤとした気持ちがあるモモはこれが何なのかわかっていなかった。



***




次の日の朝。モモは眠れていなかった。

兵長の事が好きなのかわからない。まず好きという感情がわからない。でも何だか胸の辺りがモヤモヤする。これは何なのか。

そう考えているといつの間にか朝になっていたモモの目の下には隈が出来ている。

「おはようございます、兵長。」
「早いな。」
「兵長こそ。」
「馬鹿言え、ペトラも起きてる。もうそろそろ出る時間だからな。」

こんなに朝早くから出るなんて知らなかったモモは、驚いた。リヴァイは私服で、後から食堂に入ってきたペトラも私服だった。2人が並ぶと、身長差が無いがお似合いに見える。

「結局何をするのか、私にも教えてくれないのよ」

ペトラがモモに耳打ちする。とりあえず私服で来いと言われたペトラにも伝わっていない二日間。

「気になるか。」

リヴァイがモモに問う。

「………気にならないと言ったら嘘になります。」

遠回しな答えにリヴァイは満足したのか、モモの額を軽く叩いた。

「嫉妬するならもっと可愛げのある嫉妬にしろ。」
「なっ!?」

嫉妬じゃないです!と言い返したいところだったが、顔を真っ赤にしたモモは口をパクパクと開閉させるだけだった。言葉が喉で引っかかったからだ。

「エレンに揺らぐなよ」
「ゆ、揺らぎません!」

兵長にも揺らいでません!とは言えなかったモモは笑顔で2人を送り出す。モヤモヤした気持ちは少しだけ晴れていた。

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