モモを抱きしめたその手を閉じたり開いたり、意味のわからない行動をしてリヴァイは改めて書類に向かった。

散々泣き喚いたモモは疲れ果ててしまい、一日の休暇を与えた。甘いと言われるかも知れないが目を真っ赤に染めて頭がガンガンするほど痛い彼女に訓練をさせる鬼はいないだろう。

トントンッとノックの音がしてリヴァイは開いていると扉の向こう側に立つ人物に言った。ゆっくりと入ってきたのはエレンで、先程のモモと同じように説教される気で怯えている。

「単刀直入に聞くが、モモと何があった。」

兵長として上司としてではなく、個人の"リヴァイ"として気になったからエレンを自室に呼んだのである。惚れた女が振られれば好都合だが、あんなに仲の良かった二人が別れるということは何かあったとしか思えない。

「オレ気付いたんです。モモが好きなのはオレ自身じゃないって。今までモモが好きになった奴全員、本当は好きじゃなかったんです。」

どういうことだ、とリヴァイは疑問を口にした。

「人が好きなのではなく、自分に向けられる好意が心地よかったんだとオレが言いました。モモも納得しています。」

エレンは昨夜モモと話した事を一字一句残らずリヴァイに伝えた。それを聞いたリヴァイは納得した部分と納得していない部分があった。

「誰だってそうだろう。自分に好意を向けられれば多少は嬉しいもんだ。」
「兵長も、ですか?」
「だが、モモはそれを恋や愛やと間違えて認識していた。」

エレンの質問を無視したリヴァイはそのまま続ける。

「あいつが俺に惚れたとかいうのも勘違いってことになる。」

俺に惚れさせておいて、とリヴァイはエレンに聞こえないように言った。惚れさせておいてモモは惚れていなかったというのはどうも虚しいものだ。

「オレがモモを変える事はできないと思いました。」

エレンは下を向いてリヴァイには表情がわからない。が、まだエレンがモモを好きだということは雰囲気でわかった。

「モモを変える事が出来るのは誰だかわかりませんが、オレはそいつに譲ります。」
「なぜ変えられないとわかる。」
「2度付き合っても変えられませんでした、オレには無理だったんです。」

もし変えるのが兵長だったとしたらオレは嬉しいです、の言葉をエレンは飲み込んだ。嬉しくなんかない、本当は自分がモモを変えたかった。

「……っ、失礼します。」

エレンは頭を下げ、部屋から出た。地下の自室に戻り堪えていた涙を流した。声を押し殺し、涙を止めようと必死だったが当分止まることはなかった。

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