パサパサのパンは別に嫌いじゃない。味気のない質素なスープも嫌いじゃないし、ふかした芋は好きだ。貧乏な調査兵団の食事は特に気にしてない。むしろこのままでいい。そんな好きな食事中にも関わらず眉間に皺を寄せてしまうのはエレンと別れたからではない。エレンに言われた言葉がずっと引っかかってるからだ。向けられた愛が好きなだけでその人自身は好きでもなんでもない。 「なんて面してやがる。不味くても我慢して食わねぇとぶっ倒れるぞ。」 「すみません。」 あ?と怖い顔をしてこちらを凝視する兵長なんて気にせずにスープを飲んだ。やっぱり味は好きだ。 「なにか合ったか。」 「いえ、何も!」 「エレンはどうした。」 「えっと……まだ寝てるんじゃないですか?」 兵長が不思議に思うのも無理はない。だって毎朝私が起こしに行ってイチャイチャしてる所を兵長に止められるのが日課だったのに、急に無くなったんだから。 「喧嘩か。」 「いえ、別れました。」 そう言った途端、兵長は固まるしペトラさんはスプーンを落とすしオルオさんは舌を噛むしエルドさんは口をあんぐりと開けているし目を見開いている。兵長以外少し離れた所で食べていたけど全員聞いていたらしい。 「どうして別れたのか聞いてもいい?」 「意見の食い違いです。」 「モモからフったの?」 「いえ、フラれました。」 聞いてきたペトラさんはもちろんの事、全員また驚いていた。そんなに別れたことがおかしいのか。 「あんなに仲良かったのに。」 「お似合いだったのにな。」 「まさかエレンからとはな。」 それぞれの感想に耳を傾けながら、スープを飲み終える。兵長はオルオさんにエレンを起こすよう命令すると、音も立てずに紅茶を飲んだ。 「モモ、来い。」 「どこへ?」 「とにかく来い。」 兵長は紅茶のカップを机に置き、立ち上がって私を見下ろした。残ったパンと芋に視線を向けるが兵長の迫力ある顔が怖いので潔くそのまま後ろをついて行った。沈黙が続き、気まずい空気に耐えられるず恐る恐る声をかける。 「あの、兵長っ……」 するとピタッと止まった兵長は私の方へ振り向き、視線を合わせてきた。何を言われるんだろう、説教かそうだ説教に違いない。怒られるのを覚悟して、蹴られるであろう衝撃に耐える準備をする。 「何も聞かねぇが、泣きたい時は貸してやる。」 そう言って私の顔は兵長の胸へと押し付けられた。抱きしめられたと言った方がいいのかもしれない。怒られると思っていたから驚愕して声が出ない。けれど、鼻から息を吸って兵長の匂いを感じた途端に涙が溢れ出した。平気だと思ってた。でもやっぱりショックだったらしい。エレンに振られたことも、本当はエレンが好きでは無かったことも。 「リヴァイ兵長〜〜〜」 「人の名前を呼びながら泣くな。あと、服の洗濯はしろ。」 「厳しいですね!」 そう言いながらも兵長に救われた。私が泣いている間ずっと頭を撫でてくれて、気持ちがすごく楽になった気がする。今度何かお礼をしなければ、とりあえず涙と鼻水で汚してしまった兵長のシャツを洗わなければならない。 戻る |