火事から数週間経った。相変わらず私は好きな人を追いかけ続けている。その人の背中を見つけては、飛びついていた。

「エレーン!!」
「うわっ!!」

急に抱きつかれて驚いたのか、大きな声を出したエレンは私を引き剥がした。顔を真っ赤にして、嬉しいくせに。

「急に抱き着くなよな。」
「ははっ、ごめんね!」

反省してないだろ、と軽く頭を叩かれた。もう私はエレンだけよ!エレンだけなのよ!

「お前ら、訓練中だ。」
「すみません!兵長!」
「す、みません、兵長。」

兵長とは、少し気まずい。あんなに好きだと言っておいてエレンを好きになってしまったし、抱き締めてくれたりもしたから。こんなこと初めてだ。今までは好きになった人でも普通に話せたのに。兵長と一瞬目が合ったけどすぐにそらしてしまった。

「さっさと訓練に戻れ。」

敬礼をし、大きく返事をして格闘術の訓練に戻る。兵長は怒ってないのだろうか。嫌われてしまったかもしれない。兵長には嫌われたくない、深い意味は無いけどふとそう思ったんだ。

「モモ。」
「はい!」
「気にするな。」

ぽんっと優しく頭を叩かれる。私の考えていることがわかったのか、それとも今怒ったことに気にするなと言ったのか。どちらでも嬉しかった。妙に気合いの入った私はその後訓練をいつも以上に頑張った。

その日の夜中に目が覚めてしまった私は食堂に来ていた。水を一杯飲んだらまた寝ようと、コップを取り出していると後ろで物音がした。もしかして幽霊?なんて乙女な事は思わず、誰かが起きてきたのだろうとゆっくりと振り返った。

「兵長。こんばんは。」

こんばんは、は可笑しかったかもしれない。でも話しかける言葉がなかったからこれでいい。兵長は私の隣に並び、コップを取り出した。

「眠れないのか。」
「いえ、目が覚めてしまって。」
「そうか。」
「兵長は眠れないんですか?」
「いや、書類を片付けてるところだ。」

こんな夜遅くまで書類をやっているなんて思わなかったから驚いた。なんでも、エレンの事で沢山報告しなければならないらしい。監視役になってしまったのだから仕方ないけど。

「なにか、手伝いましょうか!?」
「明日も朝早くから訓練だろ。手伝わせて怪我でもされたら厄介だ。」

それもそうかと、水を飲みながらの頷いた。

「モモ。」
「はい、何でしょうか。」
「お前はエレンに惚れているのか。」
「えっ!あ、はい!そうです。」

急な質問に驚いて噛んでしまったけど、勢いよく頷いた。まさか兵長に聞かれるとは思ってもみなかった。謝った方がいいのかもしれない。

「すみませんでした。兵長の事好きだとか言って、一途になれって言われてたのに。」
「許されると思ってるのか?」
「え?」
「お前の事を好きになってしまった俺はどうすればいい。」

えっと、夜中のテンションとは怖いものだ。こんなに真顔なのに兵長は冗談を言ってくる。全然笑えないけど、無理矢理笑ってみせた。

「冗談じゃねぇ。本気だ、馬鹿野郎。」
「ほっ、ほん、本気ですか!?」
「落ち着け。」

どうしてそんなに冷静なのか、私が聞きたいくらいだった。兵長が私の事を好き?でも私はエレンが好きで。でも、なんだろうこの気持ち。わからない。

「モモがエレンに惚れていようが、引くつもりはない。」
「それってつまり………」
「言わせるな。」

兵長は私を惚れさせると、そういうことなんだろうか。水を飲み終えた兵長はスタスタと食堂から出て行ってしまった。私はというと、数分間その場から動けずにいた。

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