あの日から数日経った私は限界を迎えている。兵長に桃を取り上げられ、周りの人に美味しそうな果実を食べられれば泣きたくなるだろう。溢れてくる涙は止まらなくて、ペトラさんに抱き付いた。 「桃を………私に桃を下さい……」 「あげたいけど、兵長に止められてるの。」 「そんなぁ………」 天使のようなペトラさんならきっと兵長に黙って一つくらいくれると思ったのに。兵長との信頼関係は強いようだ。あー、兵長の事が嫌いになりそうだ。 「泣かなくてもいいだろ?」 「じゃあ目の前で食べないでよ、バカエレン!!」 「訓練だろ?人類の為の。」 目の前で悠長に桃を食べるエレンを殴りたくなった。ここにいたらきっと私はみんなを傷つけてしまう。そう思って食堂から出て自室に戻った。中には兵長がいて、なぜか桃を食べている。 「どうして私の部屋に……というかそれ……」 「今日採れたばかりだそうだ。」 「うっ………もうやだ……」 その場にへたり込み、桃の甘い香りだけを堪能しながら泣いた。こんなことなら、桃なんて好きになるんじゃなかった。辛いだけだ。 「モモ。」 「何ですか。」 顔を上げずに答えれば、軽く蹴られた。痛いし、桃が目の前にあるし。なぜだか桃をフォークに刺して私の目の前に差し出してくる。何の拷問だよ。 「食え。」 「え………」 「さっさとしろ。」 怒られるのも怖いから、私はそのまま目の前の桃にかぶりついた。甘くて、口の中でとろける。もう、最高だ。数日ぶりの桃は私の体に染み渡っていく。 「兵長、ありがとうございます!」 「三日に一回だ。必ず食べる時は俺に報告しろ。もし隠れて食ってたら、どうなるかわかってるよな。」 「はいっ!わかりました!!兵長大好きです!!」 そのまま兵長に抱き付くと、油断していたのかバランスを崩していた。それでもしっかり抱き留めてくれて、地面に顔面を強打することはなかった。 「ありがとうございます。」 「急に抱きついてくるな。」 「すみません……」 「言ったら抱きしめてやる。」 ぐっと力を込めて抱きしめられる。え、あれ、どうしよう熱い。鼓動も速いし、兵長に抱きしめられている体が熱くて仕方が無い。 「あの………」 「何だ。」 「いえ、何でもないです。」 兵長は私の事好きなんですか?なんて聞けないし。でも抱きしめられてるのは事実だ。わけがわからない。でも今は嬉しいからいいや。理由なんて考えるのはやめよう。 戻る |