閉じ込められた男女、異常な嵐、扉の奥から聞こえる男性たちの声。

「チッ、お前がグズグズしてるからこんなことになった。」
「本当にすみません。」

吹き荒れる風、異常な豪雨。そんな嵐の日に私は誘拐にあいそうになっていた。桃が木から落ちる前に取っておこうと、旧調査本部から出た瞬間に口を塞がれた。そこで助けにきた兵長によってなんとか無事に終わったかと思ったけど、私が豪快につまずいてしまい、それをまた助けようとした兵長が後ろから殴りかかられて気絶してしまった。

「調査兵団に恨みを持つ連中だな。旧調査本部がわかるってことは、相当調べてきてやがる。厄介だ。」
「兵長、無茶してすみませんでした。」

頭を下げる。相当怒ってるんだろうな。何度蹴られてもいいや、それで機嫌が良くなるなら。蹴られる覚悟を決めてたのに、優しく頭を撫でられてしまった。

「桃への愛情が異常な事はわかった。今はここから出る方法を考えろ。それより、モモよ、無事でよかった。お前一人が誘拐されていたら面倒だった。」

不覚にも、キュンとしてしまった。蹴られることしかなかったのに、無事でよかったと言ってくれた。

「モモがいないことに気づいたエレンがなんとかして探しにくることを待つしかねぇ。」
「足が繋がれてますからね。でもここがわかるでしょうか。」
「あいつらは調査兵団では有名な商人の野郎だ。そいつらのマークも落としてきてやった、気づかねぇバカはいねぇな。」
「兵長さすがです!」
「チッ。」

なぜ褒めてるのに舌打ちをするのかはわからないけれど、いずれ助かるなら待つしかない。兵長と二人、なにを話せばいいんだ、と悩んでる暇はなかった。兵長はよく喋る。

「チッ、汚ぇな。」

鍵のかけられた空き室はベッドが置いてあるだけ。そのベッドに人差し指を摩った兵長は舌打ちをした。

「綺麗好きですね、潔癖性ですか。」
「削ぐぞ。」
「ええっ!?なにか気に触ること言いました!?」

無視ですか、無視するんですか。ベッドには座らずに立ったまま壁に寄りかかる兵長を睨む。ベッドあるなら寝ておこうかな。

「そのベッドに触るなら、二度と俺に近づくな。わかったな。」
「そんなに嫌なんですか。」

ベッドには触れずに、私も壁へ寄りかかることにした。立ったままでは辛いけど、もうすぐ助けに来てくれることを信じよう。

「少し、寒くないですか?」
「夏といっても夜は冷える。それにどうやらここは地下らしい。」
「だから寒いんですね。」

自分の肩を抱いて、その場に座り込んだ。すると兵長がこちらに近づいてくる。顔を上げてその様子を見ていると私の前で立ち止まった。

「風邪を引かれると厄介だ、これでも着てろ。」
「ありがとうございます。」

不器用な、優しさだと思う。兵長が着ていたジャケットは私と同じくらいの大きさだったけど暖かかった。

………あれ?なんだろう。この胸のトキメキは。どうしてこんなにも顔が熱いんだろう。兵長の顔を見れば、心臓が高鳴る。ああ、もしかしてこれは。

「なんだ。」
「いっ、いえ!」

兵長の顔を見つめ過ぎたらしい、睨まれたけど胸の高鳴りが収まらない。私の馬鹿野郎。エレンを裏切りたくないのに。

「へ、兵長は寒くないんですか?」
「ああ、別に寒くはねぇ。それよりなんだその態度は。」
「えっ!?いつもと同じですよ!あはは!」
「気持ち悪い。」

いつもなら言い返しているのに、今はその言葉にショックを受けている。認めたくないけど、きっと私は兵長に………。

バコンッ!!!

大きな音がして扉が開かれた。そこにいたのはエレンで、とても顔色が悪い。

「エレン!」
「モモっ!よかった……」

ぎゅっと抱きしめられて、頭を撫でられてるのに、どうしてだろう全然胸が高鳴らない。

「兵長!ご無事でしたか!!」
「兵長!!」
「モモ!兵長!!」

リヴァイ班のメンバーがゾロゾロと入ってくる。助かってよかった。でも私は最低な女だ。

「エレン。」
「ん?どうした?どっか痛いのか?」
「ううん。違う。」

リヴァイ班のみんなが私たちの会話を聞いてる。それでもいい、今言わなきゃ言えなくなる。唇が震えているのは寒さのせいか、怖がっているからか。

「別れよう?」

驚いた表情を見せたのはこの場にいる全員だった。けどエレンは、どこか納得いったような顔もしていた。

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