竜宮城の出入り口からシャボンから海へと飛び出した。尾ひれの傷は不思議と痛むことはなく、癒えてきている気がした。やっぱり私たちは海とともに生きなければならない。地上に出ることも大切だけど、私は海が好きだからここでもいい。母の意見も大切だし、海も大切。

「ハァ……ハァ……」

息を荒らしながら泳ぎ続けるしらほしの手から出れば、少し驚いた顔をして私をみた。

「お姉さま!お傷は………」
「痛むけど、大丈夫。さァ行こう、島より遠くへ。」
「はいっ!」

後ろを振り返ればもうそこには巨大なノアが。中からまたアイツの声が聞こえて鳥肌が立つ。やめろ、やめろ。

「自由はどうだ!?10年間お前を守り続けた硬殻塔の壁はもうないぞ!」

またナイフを構えるデッケンの姿がみえて、私はしらほしの前に飛び出した。しらほしの何倍も小さい普通の人間サイズの私だけど絶対に守って見せる。私の大好きなたった一人の妹を。

「えみが流血の末死んでもしらねェぞ!しらほし!最後にもう一度だけチャンスをやろうかしらほし!YESならば今からでも命を助けよう!おれと結婚しろォ〜〜〜!!!」

ナイフが私のほうへ飛んでくる。しらほしは私を見つめて少しだけ迷うような表情を浮かべてから私は叫んだ、迷うなと。

「どうかお許し下さいませ!デッケン様ぁ!タイプじゃないん……!!!」

目をぐっと強く閉じた。数秒後私の体に数十本ものナイフが突き刺さるだろう。痛いのは嫌いだけど仕方ない。けれどナイフが私に刺さることはなかった。ゆっくりと目を開けるとそこには兄たちがいた。

「えみよく守ってくたな!」

そう笑ってくれた、よかった。本当に。

「お前との結婚なんかおいら達が認めるか!」
「我らの妹に指一本触れさせんぞ!デッケン!」

兄の名前を嬉しそうに呼ぶしらほしの大きな指を握って泳ぎだす。はやく、はやく逃げないと。

「えみ!しらほしをよろしく頼む!」
「うん、わかった!」

しらほしは寂しいのか泣きそうな顔をしているから、少し強めに手を握りしめた。今は泣いている暇はない。いつもなら慰めてあげられるのに、今はなにもできない。ごめんねしらほし。

兄たちの命令通りに上へと逃げる。この時気が付けばよかったのに焦りでなにも考えられなかった私たちはとにかく急いで上に逃げた。太陽が照り出す地上のほうへと。

「デッケンがやられた!」

そう兄たちの声が聞こえて下の方を振り返るとそこには兄たちのやられた姿があった。もうそこまでホーディが近づいてきている。

「しらほし!全速力で逃げなさい!!!」
「お姉さま!?」
「はやく!!!!」

目の前に迫ってくるホーディの顔は恐ろしい。弱くてなにもできない私だけど、少しくらい時間稼ぎはできる。なんてったって人魚族の遊泳速度は世界一なんだから。そのちょっとの時間稼ぎが大きく運命を変えるんだ。

「できそこないのえみ姫様か。」
「魚人島を、絶対守る!!」

両手を大きく広げる。ホーディの体に捕まって少しでも1秒でもしらほしから遠ざける。

「なんの能力もない、兄たちのように強くもないお前に未来はない!!」

正論だった。体が小さく、兄たちのようにしらほしを守れる力も持っていないし海王類とも話せない。一番姫に向いていないのかもしれない、だけど私はそれでも守りたい。この島を、しらほしを、母の意志を。

「お姉さま!!!!」

しらほしの叫び声が聞こえて私はまた目をグッと閉じた。今度こそ私は死ぬんだ、そう確信した。




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