あ、そうか。これは涙か。

私の頬を伝う涙は静かに地面へと落ちた。母を殺したというのが、ホーディと知ったのは今だった。しらほしがホーディをおもって、黙っていたからだ。真っ黒な感情が渦を巻き、私を支配する。今すぐにでもこいつを殺したい。私にそんな実力があったなら、の話だ。

そして、父までもホーディに殺されようとしていた。助けたいのに縛られていて、なにもできない。ただ、私は名前を呼ぶしかなかった。

すぅっ、と息を吸う。

「ルフィ〜〜〜〜〜〜!!!」

あなたなら、きっと助けてくれる、そう信じて出せる限りの声を出した。しらほしを、父を兄たちを魚人島のみんなを、救って。

私が声をあげた瞬間、横を見えないスピードで通って行ったルフィの匂いがした。そしてホーディが倒れている。やっぱり、出てきてくれた。

縛られた腕と足がもどかしくて、今すぐルフィのところに行ってお礼を言って抱きつきたい気分なのに。でも、もう安心だ、ルフィがいるから。

「えみちゃーん!今すぐ鎖外してあげるねぇー!!」
「サンジ。」
「あ?」
「おれがやる。」

私の後ろに回り込んだルフィは、その少し硬い手で私の鎖を外し始めた。ガチャガチャという音だけが響いていた。

「ねぇ、ルフィ。」
「ん?」
「助けてくれて、ありがとう。」

照れたように笑う声が聞こえてきて、私も自然と笑みが零れた。

「無事でよかった。」
「ルフィのおかげだね。」

すると、後ろからぎゅっと抱きしめられた。鎖が取れたから突き飛ばすことだってできるけど、不思議と嫌じゃない。むしろ、心地よかった。

「こらァ、クソゴムなにやってんだ。」
「………なにやってんだろな。」
「はぁ?」

ルフィが離れて、首を傾げている。心臓がうるさくて、耳を塞ぎたくなった。どうしてこんなに、ドキドキと高鳴ってるんだろう。

「後は任せろ。」

誰かに、心臓を鷲掴みにされたようだった。胸が大きく弾んだようで、今もうるさく鳴り続けている。これがなんなのか、よくわからないけれど、とてつもなく苦しい。それでいて、どこか暖かかった。

ルフィには何度もお礼を言いたい。海賊だというのに、こんな今日知り合ったばかりの私たちのために、知り合ってもいない魚人島の人たちのために、戦ってくれている。ルフィの背中は普通の男の人に比べれば少し小さいし、たくましいとは言えないけれど、私にはとても大きくみえた。

「お姉様………」
「大丈夫だよ、しらほし。」

その大きな手が、不安になって私の腕に触れた。いつもなら泣いているはずのしらほしは、我慢しながらも強い目をしている。成長、というものを間近で見て、素直にすごいなと思った。

「戦いが始まっても、私の側を離れないでね。」

私になにかできる訳じゃない、だけど離れているより側にいる方が守りやすい。しらほしは大きく頷いて、無理矢理笑った。もし私に力があったなら、戦いたい。私の手で、魚人島民を守り抜きたかった。そう後悔しても、意味はない。




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