観光スポットでも有名な深海にある魚人島。その島を収めているのは私の父であり、王のネプチューン。その娘である私は当然姫だということだ。家族構成は兄が三人、妹が一人。母は私が幼い頃に亡くなった。毎日海の森にあるお墓へと通っている。

お墓に手を合わせ、母の好きだったハマグリを置いたあと、私は自宅もとい竜宮城へと帰っていく。お墓参りのあとは、決まって愛する妹に会いに行くのが日課だ。最高速度で泳ぎ、城の門を開けた。人魚に生まれてきてよかったと思えるのは、泳ぎが速いということ。他は特になにも思わない。

「えみ様、ただいま麦わらの一味の船長がこの城のどこかに隠れています!危険ですので、お部屋に!」
「麦わらの一味?」
「海賊、麦わらの一味ですよ!」
「なにかしたの?」
「マダム・シャーリーの占いで、危険人物と…………」

占いだけで人を評価するのはどうかと思うけど、仕方が無い、そう思えるほどマーメイドカフェの店主、マダム・シャーリーの占いは百発百中なのだ。

「しらほしは!?」

一番に心配をしなければならないのが、妹のしらほし。ヤンデレのストーカーが、しらほしを狙って武器を投げてくるため、あの子は10年間、部屋に閉じ込められている。仕方が無いこととわかっていても、外の空気さえまともに吸えないしらほしのことをはやく助けたいと思わない日はない。

そんなしらほしの部屋に、もしそんな危険かもしれない人物が入っていたのだとしたら、想像するだけで鳥肌がたつ。

「しらほし姫様は………」
「自分で見に行く。」
「危険です!」
「妹が危険になるほうが嫌!」

水で満たされた廊下を、全力で泳ぎしらほしの部屋にたどり着く。硬く閉ざされたその扉をゆっくりと開ける。

王、ネプチューンと同様、しらほしは体が大きい。私は母に似て、小さいのだが、大きいところがまた可愛い。だから、部屋に入ったらすぐに目がつく、はずだ。いつもなら。なのに私の視界に入ってきたのは、麦わら帽子。

「誰!?」

麦わら帽子の彼は、私に背を向けたままなにも反応しない。反応したのはしらほしだ、その瞳からは大粒の涙が今にも溢れ出しそうになっていた。

「私の妹になにをしたの!」
「なにって、おれは別になにもしてねェよ。」
「ルフィ様が、お怒りに!」

泣き虫のしらほしは、毎日泣いては部屋を海のように水浸しにしていた。せっかく買ってきた本も、濡れて読めなくなるのは日常茶飯事。そんな彼女を泣かせるのは容易いが、他人に泣かされるのは許せない。

「あなたもしかして、麦わらの一味の……船長?」
「おう、ルフィだ。」

麦わら帽子が目に入った瞬間から、予感はしていたけど、やっぱりか。こいつが危険人物。

「しらほしから離れて。」
「おれは、メシを食ってるだけだ!お前誰だよ!」
「お前に名乗る必要はない!しらほし!この男から離れて!」
「お姉様?どうなさいました?」

殺気を出している私を不安そうにみつめるしらほしを横目に、麦わらのルフィを見る。彼はしらほしに用意された大きな料理を本能のままに胃に流し込んでいる。それにしてもよく食べるな。

「こいつは、危険人物なのよ!」
「知っています。けれど、ルフィ様はメガロを助けて下さいました。」
「メガロ、を。」

メガロというのは、しらほしが寂しくならないように、と、父が用意した鮫のペットのことだ。メガロを助けてくれたならば、一応感謝はしないといけない。

「ありがとう。メガロを助けてくれて。」
「偶然だったんだけどな。それより、お前弱虫の姉ちゃんなのか?」
「そうよ。ルフィ、私はえみ。」

よろしくな!そう言ってニカッと笑った彼の顔をみれば、悪い人物だとは思えなくなって、私も笑い返した。




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