すぅっと私の頬を撫でる潮風が心地よい。サニーの船首の上はいつもルフィ様がいる場所。けれど今は私が立つ。誰かに押されればきっと私は海に落ちるだろう。でも死ぬことはない。私はロボットだから。

「レミ……?」

ルフィ様の声がして、振り返る。来るのは数分前からわかっていた。

『どうしましたか?』
「泣いてる気がした。」
『泣いていません。』

私にもわからなかった。これが涙なのか、今降り出した雨なのか。

「レミ、中に入るぞ。腹減った。」
『い、やです。』

どうしてだろう、ご主人様の命令は絶対のはずが、私はルフィ様に掴まれた手を払ってしまった。

「レミ……?」
『私は…………』

頬を伝う透明の水滴が冷たい。雨がどんどん強くなって、海を荒らしていく。

「レミ!!」

ルフィ様が、私を強く抱きしめた。

「どこにも行くな。」
『行きませんよ。』
「今、行こうとしてた。」

なんの根拠があるかは知らないけれど、ルフィ様の力は強くなっていく。私はどうしたいんだろう。でも、この胸の痛みはなんだろうか。

『ルフィ様。』
「ん?」
『どうしましょう。』
「どうした?」

今まで私はルフィ様を抱きしめ返すことはしなかった。けれど、したくなった。ルフィ様の背中に手を回し、強く力を込める。

「やっぱり、感情が生まれてるのか?」
『なぜ、それを知ってるのですか?』
「ベルナが言ってた。」
『その通りです。ですが、私にもよくわかりません。』

ルフィ様は少しの間黙って、またゆっくりと口を開いた。

「嬉しいんだ。」
『なぜですか?』
「レミはずっと、ロボットのままだと思ってた。」
『私はずっとロボットですよ?』
「今は、心を持ったロボットだ。」
『………わかりません。』
「だから、泣いてたんだろ?」

ルフィ様は私を離して、じっと顔を見つめてきた。雨で濡れて、ルフィ様の髪はペタリと肌に張り付いていた。

『ルフィ様、これが涙?』
「そうだ。」
『これが………』

自分の頬を撫でるけど、やっぱり雨だ。でも、瞳がかすんでいる。こんなこと、今までありえなかった。

「やっと、始められる。」
『始める?』
「レミ、好きだ。」

鉄や珍しい素材でできた私の心臓が大きく跳ねた。鼓動がはやくなり、異常な反応が起こる。これは、なに。

「おれのこと、今までなんとも思ってなかっただろ?けど、やっとレミにおれが映った。」

目の前でニカッと笑うルフィ様に、抱きしめてほしくなった抱きしめたくなった。これがなにか、どうすればいいのか、わからなくなった。

「よろしくな、レミ。」
『?、はい。』

これがやっぱり恋なのか、あとでウソップ様に聞こう。それより今は、この時間を大切にしたい。



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