どうして私なんだろう。どうして私が死ぬんだろう。誰か代わって。生きて、夢を叶えたい。みんなと一緒にいたい。笑いたい。泣きたい。話したい。愛してるって、伝えたい。

「フミ。」
「カメ………さぁ…ん」

カメさんが泣いている私を強く抱きしめてくれた。

ぬいぐるみはあと少しで縫い終わる。そしてもう少しで私の心臓も終わりを遂げる。そんなのわかっていたことだけど、怖い。死ぬのがすごく怖い。死んだあとはどうなってしまうんだろう。

「フミ……すまない。」
「カメさんは悪くない……」

カメさんのしわくちゃな手が私の涙を優しく拭った。それでも涙は止まらない。

「もっとわしに医者としての力があれば、フミを救うことができるのに。フミを笑わせることができたのに…わしは力不足じゃ。」

だから泣かないでおくれ、そうカメさんは囁いた。泣いていても笑っていてもどうせ終わる命なら、笑っていた方がいいに決まってる。

「カメさん!私、ショートケーキが食べたいな。」
「よし、すぐに用意しよう。他に欲しいものはないか?」
「じゃあミルクティーも飲みたい。」

こんな我儘も笑顔で聞いてくれるカメさんにお礼を言ってぬいぐるみを抱きしめた。私が心を込めて作ったぬいぐるみ達がルフィたちをどんな形でもいいから守ってくれますように。

もう泣かないと決めた。もう後悔しないと決めた。今を生きようと、誓った。だから誰かに変わってほしいなんて思わない。誰かの人生を壊すくらいなら、私でよかったんだ。

「ミルクティーはミルク多めだったかの?」
「うん!ありがとう!」

甘い匂いが鼻をかすめて、笑顔が漏れる。残りの命、楽しく生きよう。壁に貼り付けてあるルフィの手配書。その中の彼は満面の笑みを見せている。

「ルフィ、生きてね。」
「フミ、これは今日の新聞じゃよ。」

ミルクティーを飲みながら新聞を眺める。ルフィ達が消えた事がニュースになっていたり、亡くなったエースのニュースだったり。私が死ぬはずだった一年前、その時にエースが死んだ。けれど私は生きてる、そしてこうやってぬいぐるみを縫ってる。カメさんは奇跡だと嬉しそうに言った。あと一年、あと一年生きればみんなの元へ帰れる。

「この男が死んだ時の夜は大変だった。」
「本当にご迷惑おかけしました。」

エースが亡くなったと新聞に書かれたその日の夜、私は死にかけた。呼吸困難に陥り、色んなチューブが体に巡った。本当にショックで。泣きたいのに実感が湧かなくて。意識不明の私の夢の中にエースが現れた時は驚いたものだ。「お前はまだやるべき事が残ってるだろ」って。そして、また逢おう。って。それを聞いた直後、私は目を覚ました。頬は濡れていて悲しみが心を支配した。

「でも私はちゃんとやるべき事があるから。」
「そうじゃな。」
「私、カメさんと出会えてよかった。」
「照れくさいのぉ。」
「ありがとう。」
「わしもフミに出会えてよかった。フミと話すのが毎日楽しいわい。」

あとどれくらいカメさんとこうやって話すことができるのか、考えたのは一瞬で頭を振って忘れる。考えたって楽しくない、それよりももっとカメさんとの日々を楽しめばいいじゃないか。大好きだよ、カメさん。





残りわずか
(エース、もうすぐ会えるから)
(また勝手に行かないで)
(絶対に待ってて、すぐだから)






2014/06/25


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