サンジが紅茶をいれる音だけが、夜のダイニングに響く。フミとルフィとチョッパーだけがここにいなかった。

「どうしてもっとはやく………。」
「フミにも考えがあったんだろ。」
「ルフィのやつ、そうとう荒れてるぞ。」
「フミはフミでどこか私たちを避けてるわね。」
「あんな小さい体で、大きな悩みを抱えてたんですね。」

ナミ、ゾロ、ウソップ、ロビン、ブルックが口々に呟くなか、紅茶をいれ終わったのか、サンジはテーブルにカップを並べていた。




11:冷たい嘘をグラスに沈めて




トントンッ、扉をノックする音が聞こえて、ビクッと肩が跳ねる。ルフィだったらどうしよう、そう思ってくまちゃんとうさちゃんをぎゅっと抱きしめた。

「フミちゃん、紅茶飲む?」

入ってきたのはサンジくんで、私はほっと息をついた。ミルクティーのいい香りがして、私は小さく頷いた。一口飲むと、ほのかな甘さが広がって心から温かくなる。本当に美味しい。

「泣いたの?」
「………うん。」

サンジくんは私の近くにあったロビンちゃんの椅子に腰かけた。それロビンちゃんのだよ、って言ったらきっと泣いて喜ぶんだろうな。

「フミちゃんの好きなショートケーキ作ろうか?」
「ううん、ありがとう。今は大丈夫。」

サンジくんは少し悲しい顔をしたけど、みないフリをしてミルクティーをもう一口飲む。

「おれ、フミちゃんのやりたいこと、なんでもするからね。」
「……サンジくん…。」

サンジくんの優しさか、紅茶の温かさか、どっちかわからないけど胸の奥の方から沁み渡っていく気がした。

「やっぱり、ショートケーキお願いしていいかな?」
「喜んで、プリンセス。」

まるで王子様みたいにニコッと笑うから、私もつられて笑った。サンジくんは上機嫌な様子で女部屋から出て行った。優しさに甘えてばかりじゃダメだ。自分から行動しないと、そう思って私はくまちゃんとうさちゃんをもって立ち上がった。ルフィのもとへ向かうために。

あ。その前に。

「………美味しい。」

暖かいミルクティーを飲み干さないとね。











「ここにいた。」

サニーの船首、そこに彼はいた。いつもなにかがあるとそこに座って、広い海を眺めるんだ。私は高いから、あまり好きじゃないんだけど。私の声に気が付いてか、ルフィがこちらを振り返った。

「フミ。」
「……ルフィ、聞いてほしいことがあるの。」

ルフィはすぐに頷いて、私の腕を引っ張った。気付けば、ルフィの腕の中にいて後ろから抱きしめられている。暴れれば海に落ちそうだから、恥ずかしいことは諦めた。

「私の小さいころの夢はね、いっぱいぬいぐるみを作ってお母さんやルフィ、エースやサボに喜んでもらうことだったの。」

でも、みんなが海賊になるって知ってからは私の夢は変わったの。ルフィが海賊王になるって言うもんだから、私はそれを見届けたいって思ったんだよ。それが私のさっきまでの夢だった。

「だけど、それはきっと無理なんだ。」

私の後ろのルフィの表情はわからないけど、黙って聞いてくれてる。

「私の夢は叶わないんだって、気付いたの。」

でも、気付いたあとに新しい夢もできた。



――――――最期まで、笑っていたい。

――――――みんなと笑っていたい。



「それが私の、今の夢。」

心地いい風が流れる。大きな海が揺れる。こんな光景が私は大好き。ルフィの言葉を待っているのに、返事がこないのが不思議で、私は顔を見ようと振り返った。

「………ルフィ?」
「………おれ!!……フミの夢、叶えたい……!!!だからもう、泣かねェから!!」

ぽろぽろと涙を流すルフィ。ずっと一緒にいたかった。本当は、ルフィが海賊王になる姿をみたかった。

「フミ!今は泣いていいんだ!!」

どんどん視界がかすんできて、とうとう涙が溢れだした。そういえば、誰にも弱音は吐かなかったな。ずっと心の中だけで思ってた。死にたくないって。

「ルフィ……私………死にたくないよっ!!!みんなと一緒に……航海…しだがっだ!!!ルフィともっど一緒にいだがっだ!!!」

無我夢中で涙なんか拭かずに叫んでた。気が付けばルフィに正面から抱きしめられていて、改めて言葉にすると止まらないんだってことを自覚した。

「おれは!!!!海賊王になる!!!!!だけど、その横に……フミがいないのは嫌だ!!!!おれはずっと………フミのそばにいてェよ……」

涙は全然止まらなくて、心の中は冷たいのに体は暖かい。ルフィを抱きしめる私の手は力強くて、私の大好きなくまちゃんとうさちゃんは甲板に落ちていた。


これで泣くのは最後だから。お願い、今私たちを離さないで。誰もこないで。

今はルフィと、こうしていたい。このまま離れたくない。

このまま海に落ちて、ふたりでずっと一緒にいられないかな。

なんて考える私の心はまだ冷たいまま。

泣き疲れるまで、私とルフィは抱しめあっていた。


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