ルフィは基本的に仲間に嫉妬することはない。 ルフィの恋人である○○が島で他の男と話すだけで騒ぎ立てることが多い。けど、○○が仲間である男たちと話していても、笑い合っていても、何か言っている様子もなかった。 「信頼」をしているからと言うことは、見ているだけで分かる。 麦わらの一味で唯一の恋人関係である二人。私は彼らを観察するのが好きだ。趣味に等しい。 ルフィが嫉妬しているところを見るとニヤけるし、からかい甲斐がある。よくそれで怒られるがルフィは本気で怒ってこない。私にも「信頼」を寄せてくれている証拠だろう。 ただ、一度だけ。彼が仲間に対して嫉妬心を露わにしたことがあった。その時は面白……大変だったので聞いてほしい。 あの時は確か、島の海域に入っていなかったので船首の方のデッキでパラソルの下、気候に気を配っていた。海域に入るまでは、航海士として外にいることが多い。 ○○もその時横で、同じくパラソルの下、デッキチェアに腰掛けていた。 「今日は平和だねー」 「でもいつ気候が変わるか分からないわよ」 「ナミがいたら安心!」 ○○もまた、私を「信頼」してくれているのが分かるその言葉が私は嬉しかった。 そろそろ、彼らが来るだろう。そんな予測を私はしていた。 「ナミすぅわーん!○○ちゅわーん!」 「○○ー!」 昨日サンジくんにおねだりしたトロピカルジュースと○○に会いにきたルフィがやって来た。毎日この時間あたりに彼らはこの行動をするので、さすがに予想できるものだ。 ルフィの両手にはジュースのグラス。そしてサンジくんの右手にお盆。その上にトロピカルジュースが2つ乗っている。ルフィが2つ飲むのはいつものことなので、両手に2つ持っていても違和感はない。 ーーーそれが、この事故を生んでしまったのかもしれないが。 ルフィとサンジくんは、我先にと私たちの方へ向かって来ていた。その光景を特に何も思わず、○○と見つめていた時、それは起きた。 ルフィの勢いが強く、サンジくんのお盆を持つ腕に当たってしまったのだ。ルフィの力が強いのも分かるし、サンジくんの早く届けたいという思いも分かる。 その勢いのまま、サンジくんの足がデッキにたまたま飛び出ていたネジに引っかかり、バランスが崩れる。 もし、足がネジに引っかかってなければサンジくんが転ぶことはなかっただろう。 もし、ルフィがグラスを二つ持っていなければ、サンジくんか○○を支えることができただろう。 もしもの話が通用するわけもなく、サンジくんが転んだ先に○○がいてーーーーーそして。 「「あ。」」 ルフィと私の声が重なった。 さらに、○○とサンジくんの唇も……重なっていた。 その時、居心地悪い空気が一瞬で流れる。たぶん10秒くらいだろうが、5分くらいに感じられる「気まずい」空気。 サンジくんも○○も目を見開き、驚いているが体勢が悪くすぐに起き上がることもできない。結局サンジくんが持っていたお盆は落ちてしまい、ガシャァンッという音が響いてやっと、全員動くことができた。 「わ、悪い……」 サンジくんもいつもであれば、ノリでメロメロになるところを、顔を赤くさせて素直に謝罪の言葉が口走っていた。その反応が、余計にルフィに現実を突きつける結果となった。 「大丈夫かい、○○ちゃん」 「う、うん。ごめん」 二人は目を合わさず、恐る恐るルフィの表情を窺うべく目を向けた。私も無意識にルフィの方へと目をやる。 肝心のルフィの顔が麦わら帽子の影で見えず、気まずさが増す。これはさすがの私でも「面白い展開」だとはこの時は思えなかった。 きっと、ルフィの中で仲間であるサンジくんに嫉妬してしまっている自分が腹立たしく感じられたのだろう。拳を強く握りしめているのが見え、サンジくんの息を呑む音が聞こえた。 「ルフィ、おれの不注意だ。すまん。」 サンジくんが綺麗に頭を下げる。ルフィはその言葉で顔をあげるが、その表情は真顔で何を考えているのか、いつもはわかりやすいはずなのに誰も分からない。 「悪ィ、○○借りる。」 ルフィはそう言って、デッキチェアに座ったままの○○の手首を掴んだ引き寄せた。そして、無言のまま二人は歩いていく。 ○○も何故か涙目だし、ルフィの真顔が1番怖い。 サンジくんはすぐにその場にしゃがみ込んだ。 「はぁーーーー。やっちまった」 「事故だからこそ、ルフィも何も言えないわね」 「いつもみてェに怒鳴ったりしてくれれば、おれもスッキリすんのに。はぁーーーー。」 真顔だった、と言う事実がかなりサンジくんを追い詰めているようだ。罪悪感しか残らないだろうから。 「サンジくん。トロピカルジュース、飲みたいわ」 「ナミさん…ありがとう。喜んで。」 サンジくんは弱々しく笑い、落ちたグラスの破片を拾い始める。こんなサンジくんの姿はかなり珍しい。ゾロが見たら喜ぶだろうな。いや、あのゾロでもさすがにサンジくんを励ますだろうか。 ルフィと○○の様子を見に行きたい衝動をグッと堪え、手元にあった新聞に視線を移した。 その後、サンジくんが新しいジュースを淹れて持って来てくれた。直後、風向きが変わったのが感じられ、ジュースを一口飲む前に、みんなを招集しなければならなかった。 「サイクロンが来るわ!帆を張って!チョッパー取舵よ!」 日常茶飯事、とはこのことで皆慣れた動きで私の指示通りに動いてくれる。船は無事左に向き、サイクロンが発生するであろう場所から遠ざかる。 船首のところから振り返ると、甲板が見える。そこにはルフィと○○もいて、明らかにルフィの気分が下がっている。良くも悪くも、ルフィは分かりやすいことが多い。 どうするべきだろう。○○への溺愛っぷりは一味全員が理解しているし、口出しはできないがそれにしても落ち込みすぎだと思う。 タイミングよく、○○が船首のほうに戻って来た。少し疲れたような顔をしているのがわかる。 「ナミ……どうしよう」 「どうし………ええ!!!」 ○○の顔が真っ赤に染まっていく。 ついつい大声をあげてしまうほど、驚いた光景が広がっていた。 ○○の首元に見える、無数の赤いあざ。所謂、キスマークというもので、たまーに○○に付けられているのを見るがまさかここまでとは。 「あんたも……大変ね」 「そう言いながらニヤけてるよ!!」 「だって…そんなに……ふはっ」 もう我慢できず吹き出してしまった。肌色の部分の方が少ないんじゃないかと思うくらい赤く染まっている。独占欲を押し付けるかのように、無我夢中でつけたのが見てとれる。 「サイクロンがなかったら私…」 「私のおかげね。ルフィは?」 「サンジに謝りに行ったよ。」 「サンジくんにまで嫉妬するなんて、愛されてるー!」 「もう!からかわないでよ!大変だったんだから!」 これどうしよう、と首元を抑えて焦っている○○は本当に可愛い。そういう仕草も全てルフィが溺愛するのも理解できる。仲間とは言え、信頼しているとは言え、キスしてしまったら嫉妬してしまうだろう。 ○○には秘密だが、もうすぐ冬島の海域に入りそうなので、マフラーで首元は隠せるだろう。けれど、この○○が可愛いから言ってあげない。 すると、ドタドタと足音が聞こえる。ルフィで間違いないだろう。○○の身体が固まるのが見えた。 「ナミ!さっきは悪かった。カッとなってた」 「面白かったからいいわ。それより、やり過ぎじゃない?」 うんうん、と○○が首を縦に振る。が、ルフィは疑問の表情だ。何をやり過ぎたのか分かっていないのだろう。 「あー…思い出してきた。やべェ、イラつく」 「え!?」 「ルフィ、ほどほどにしてあげなさいよ」 「けど、○○だって全然離れようとしねェし、顔赤くするし。可愛いし。あームカつく」 「そ、それは!仕方ないじゃん、突然だったし!」 生理現象だと言ってもルフィは聞く耳を持たないだろうし、口を挟むのはやめた。 ○○の弁明は虚しく、機嫌が悪くなっていくルフィには通じない。 「ナミ、悪い……」 「あーはいはい。早くどっか行ってきて!」 「え、ちょっと!ナミ!!」 ○○の助けを求めるような目には答えられそうにない。そのまま、ルフィは○○を連れて歩いていく。度々こちらを振り返る○○に私は小さく手を振って、声に出して笑った。 それからルフィは仲間にも少し嫉妬心を見せるようになった。ルフィの嫉妬が増え、今でもサンジくんは○○に謝り続けているらしい。 戻る ×
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