ーーーーAM 4:00 目を開くと薄暗い。肌寒くて起きてしまったようで、掛け布団が落ちてしまっていた。 ナミとロビンの寝息だけが聞こえる中、もう一度眠ろうかとも思ったが、なんとなく起きることにした。薄いカーディガンを羽織り、女部屋から出る。春島の海域に入ってはいるが、朝方は肌寒い。 甲板に出ると、少し明るい。日が昇り始めていて、優しく世界を照らしている。幻想的な風景に見惚れてしまう。 ずっとここにいては風邪をひきそうなので、身体を温めたい。白湯でも飲もうとダイニングキッチンに向かった。もちろん、誰もいなかった。鍋でお湯を沸かし、カップに注ぐ。そのままそれを持ってまた甲板に戻った。 「おはよー」 そこには先客がいて、私は目を見開いた。こんなに朝早く、いるはずもない人がそこにいる。少し眠そうな目で、笑いかけてくるのはうちの船長だった。 「おはよう。早いね」 「なんか目覚めた」 「私も」 眠そうだから寝たらいいのに、と思ったけど口には出さない。なぜなら、一緒にいたいから。2人きりになれることなんて滅多とない。彼はよく輪の中心にいるからだ。 「ルフィ寒くないの?」 「んー…そういえば寒ィな」 「気づいてなかった!?」 「上着取ってくる!」 そう言ってルフィは走って男部屋に向かった。 私は嬉しくてにやけてしまう。上着を取りに行くってことは私と起きて居てくれるってことだ。舞い上がってしまうじゃないか。 突然、なぜか緊張してきて、今からルフィと2人きりで話すことを考えると心臓がうるさい。好きな人と一緒にいたいのに、気恥ずかしい。 足音が近づいてくるので、緊張を誤魔化すように白湯を一口飲んだ。 「○○は眠たくねェのか?」 「うん、外が綺麗で眠くなくなった」 「確かに。おれこの時間に起きたの初めてだ」 「私も!こんなに綺麗なんだね」 海の色が、空の淡い色を映していて、本当に綺麗だ。このまま絵に描いて置いておきたいくらい。 「なんかいいな、こういうの」 私も同じことを考えていた。このゆったりした時間を好きな人と過ごせるのは、幸せでしかない。ルフィは違う意味だろうけど。 「ルフィも景色を楽しむとかするんだね」 「すっげェ失敬なこと言ってるぞ○○」 「ごめんごめん!」 「悪ィと思ってない顔…」 呆れた顔を浮かべるルフィは水平線を見つめながら、風に揺れる麦わら帽子を押さえた。その仕草、好きだなぁと改めて感じてる自分が恥ずかしい。じっと見つめてしまい、ルフィがこちらを見る。 「ん?」 私に向かって、少し眉を上げて聞いてくる。優しい目をしていて、その瞳は黒に近いが綺麗だ。 あー。かっこいいなぁ。 そう、思った。 ーーーーー思ったと思っていた。 「かっこいいか?」 口に出してしまっていた事実に気がつき、恥ずかしさで首を大きく縦に振ることしか出来なかった。 無理、消えたい。まさか口走るとは思わなかった。ルフィは何故か声を出して笑っている。 「なんで照れてんだ?」 「照れてなっ………照れてるけど…」 「ししっ、そっかかっこいいか!船長だからな」 表情のことを言ったんだけど、少し勘違いしてくれてよかった。もちろん、船長としてもかっこいいけど。 嬉しそうに笑うルフィに私も釣られて笑ってしまう。ルフィが嬉しいならいいや。 そこからは他愛もない話をし、ルフィが大きな欠伸をしたタイミングで寝ようということになった。「おやすみ」と言い合うだけでこんなにも嬉しい。私は相当ルフィが好きらしい。 ルフィとの会話を思い出し、幸せな気持ちになりながら眠りについた。 ーーーーAM 11:00 春島に着いたらしい。 騒ぎ声で目覚め、辺りを見回すとナミとロビンもいなかった。女部屋に付いている洗面所で身支度を整え、ダイニングキッチンへ向かう。 「○○ちゃんおはよう」 「サンジおはよう。ごめんね、朝ごはん間に合わなくて」 「皆さっき終わったところだよ。軽く食べる?」 「んー…大丈夫。水貰える?」 4時に起きてしまったので、寝坊したがサンジは優しい。基本的に朝食の時間は決まっていて、間に合わなくても何も言われないがサンジの美味しいご飯を逃すデメリットは大きい。 水を一杯飲んで、甲板に向かった。サンジは弁当を作るから後で来るらしい。 「○○ー!寝坊よ!春島に着いたわ」 「おはようナミ!もう上陸するの?」 「桜が満開なんだ!お花見するんだぞ!」 チョッパーが嬉しそうに答えてくれる。だから弁当を作っていたのか。ルフィとウソップは楽しそうに大道芸の練習をしている。ブルックはバイオリンを奏でていた。 春島の方に視線を向けると、海岸の近くに森があり、一面ピンクの世界が広がっていた。暖かい気候に、花のいい香り。 景色を楽しんでいると、ルフィが駆けてきた。 「おー!○○起きたのか!遅かったな!」 「ルフィは何時に起きたの?」 「6時ー!」 「いや、早いな」 5時くらいまで話していたから、あまり寝ていないということだ。ルフィにしては珍しい。 それだけ聞きたかったのか、ルフィはすぐにウソップの元へ戻ってしまった。 「なに?あんた達何かあったの?」 「夜中目覚めちゃって、ルフィとちょっと話してた」 「へー珍しー」 ニヤニヤしているナミとニコニコしているロビンは無視しよう。 「良かったわね、○○」 ロビンは悪気ないのか、わざとなのか、私をからかっているのか、美しい笑顔を向けてきた。私は何も言わず、微笑む。所謂照れ隠しだ。 ーーーーPM14:00 サンジの作る弁当が完成し、一味は全員で島に上陸した。ルフィが一際大きな桜の木を見つけ、その下に決まった。 「すげェなこれ、何千年生きてんだ?」 「空島で見た大樹の方が大きかったかも?」 「そんなに大きかったの?」 「○○は知らねェか!その大樹の下でおれ達は、神と戦ったんだ!」 「はいはい、ウソップの自慢話はいいから。始めちゃいましょう!」 「宴だァーーー!!!!」 ルフィの声と共に、手元の酒を天に掲げる。 そこからは笑って歌って叫んで喚いて、いつも通りの宴が始まった。宴の日は笑いが絶えず、次の日頬の筋肉が痛くなるほどだ。これが嘘ではなく本当だから怖い。 朝食を抜いていたので、すぐにサンジ特製の弁当を広げる。 「私の大好きなエビ!!」 「○○ちゃん専用弁当でーす」 「嬉しい幸せー!」 桜吹雪が舞い、暖かい気候で、のどかで、美味しいお弁当を食べることができて「幸せ」以外の言葉が見つからない。サンジは私の表情を見て嬉しそうにしてくれる。こんな私にもサンジはメロメロしてくれるから、女の扱いがうまいんだと思う。 「まゆげ、おれも」 「あ?誰がお前に用意するか」 「じゃあ○○のを奪うだけだ」 「あー!!!ゾロ!」 「オラ、クソマリモ。てめぇだけは許さねェ!!」 ゾロが私のお弁当の中にあった卵焼きを奪い取った。サンジは怒りで目がすごいことになっている。そのまま2人はいつもの喧嘩を始めてしまった。でも、ゾロは許さん。私はサンジを応援しながら、お弁当を食べた。 半分くらい食べた後、ルフィのところに行きたくなり、私からルフィに近づく。ルフィもサンジのお弁当を私の何十倍の量食べていた。その横でフランキーが爆笑している。 「おう!○○!もうちょっと早く来てたら面白かったのによ!」 「そんなに?」 「いや、面白くねェよ。○○も弁当食ってんのか?」 フランキーは面白いというのに、ルフィは面白くなさそうだ。そして、話を変えてくるルフィ。私も無理に聞こうとは思わない、けど少し気になった。 「フランキーずっと笑ってるよ?」 声を抑え気味に笑っているのが見える。そんなに面白かったのだろうか。 「フランキー!しつこいぞ!」 「悪ィ悪ィ。あー酒が美味ェな!ほら、○○も飲め!」 フランキーが私の空いたコップに酒を注ぎ込む。そして、ルフィのところにも注いでいた。ルフィが飲むのは滅多とない。珍しい光景に目を見開いた。 ルフィはぐっと飲み干し、私の方を見る。私も飲めってことか。ルフィのように飲み干して見せると、ルフィもフランキーも爆笑していた。何が面白いのか分からないが、私も吹き出してしまう。酔うと何でも楽しいのだ。 「いいぞ○○!」 「もっと飲めー!」 飲んで歌ってまた飲んで笑う。 陽気なその宴は夜になっても終わらなかった。 ーーーーPM23:00 完全に飲み過ぎだ。 頭が痛くなり、海岸で1人座り込んでいた。後ろではまだ歌い声や笑い声が聞こえてくる。体力が並外れている人の集まりなので、私には着いていけない。冷えた風が暑い頬を撫でる。気持ちいい。 ゾロとロビンはまだ余裕そうだった。羨ましいなあと思う。ブルックが仲間になってから宴がより楽しいものになった。音楽が加わってから華やかになった。酔っているからか、こうやって色んなことを考えてしまう。 1番考えることはルフィのことだ。酔うと特に考えちゃうから困る。今ここに来てくれたらなぁとか話したいなぁとか乙女すぎて引くほど。 そして、ここで来てくれるからどんどん彼を好きになってしまうんだろうな。 「ルフィ」 「どうした?こんなとこで」 来てほしい時に来てくれるなんてヒーローじゃん、好きになるじゃん。といじけたくなるくらいかっこいいんだ。ルフィは私の隣に腰を下ろし、顔をじーっと見てくる。少し頬が赤いからルフィも酔っているのだろうか。 「酔ってんのか?」 コクリと頷く。酔ってるよかなり。歩く時クラクラしたり、思考がふわふわとしているくらい。 「ししっ、おれもちょっと酔った」 「顔赤いもんね」 「○○は真っ赤だぞ」 「何で来たの?」 「何でって○○が歩いていくのが見えたから」 何で、私が歩いて行くのが見えたら来てくれるの。って聞きたかったけど、聞けなかった。 なぜなら、ルフィが優しい笑顔を向けてきてそれにドキドキして声が出なかったから、とは言えないけど。 「○○、歩くぞ!」 「わ、ちょっと」 ルフィが私の手を掴んで立ち上がらせる。少しふらっとしたが、力強く支えてくれた。だめだめ、ほんとに好きになっちゃう。なってるけど。 手を離してルフィは波打ち際を歩き出す。離しちゃうんだ、と思いながら後ろに続いた。夜の海は真っ暗で、潜ることはできない。月の光を反射し、輝いているのが美しかった。 「おれさ、○○が好きなんだよなァ」 「ん?え?」 「○○が好きなんだよなァって」 「いや、え?ん?」 サラッと言い過ぎて、理解力が追いつかない。 私と同じ好きってこと?いつから?聞きたいことはあるが、ルフィがずっと前を見て歩いているため、分からない。 立ち止まると、ルフィも立ち止まるが振り返らない。 「ルフィ?」 「昨日、眠れなかった。」 「ちょっと待っ」 「夜に話して、ずっと○○の顔が離れねェんだ。」 心臓がうるさい。嬉し過ぎて倒れそうなのに、動けない。足がなぜか震えていた。 「前からあったんだ、○○と話したあと。なんか嬉しくて笑顔が離れないこと。けど朝はずっと離れなかった。寝れなくなって、今日フランキーに話してみた。じゃあ笑われて、それは好きだろって。」 フランキーが爆笑していたのはそれのことか。 ルフィはずっと話している。私の言葉を聞きたくないみたいだ。振り返らないのもそれが理由だろうか。 さっきまで震えていた足が止まり、冷静はなってきた。ルフィが緊張しているのを見たら、落ち着いてくる。 「ルフィ」 「ゾロが○○の弁当から飯奪ってんのも、なんかムカついた。サンジが○○にメロメロになってんのもムカついた。」 「ルフィ!!」 「○○が1人で歩いてくのが見えて抑えられなくなって」 「ルフィ!!!!」 ピタッとルフィの体が硬直するのがわかった。私はゆっくりと近づき、ルフィの前に回り込んだ。 ルフィの顔はさっきよりも真っ赤で、手で口元を押さえている。 「私も好きだよ」 そう言った瞬間に、抱き寄せられた。お酒の香りがするのはどちらからだろうか。 「昨日寝る前にルフィのこと考えて、幸せだった。おやすみって言い合えたのが嬉しかった」 「○○」 「さっきもルフィが来てくれたらなって考えてたの。」 「○○、酔ってんのか?」 「酔ってるよ。でもルフィが好きなのは前から」 抱きしめる手の力が強くなった。苦しいくらいだが、それがまた愛おしい。私もルフィの背に手を回す。 「朝の○○の横顔が離れねェんだ」 「それは私も。」 朝日に照らされたルフィの横顔はかっこよすぎた。それと同じようにルフィも思ってくれたのだろうか。 「○○、好きだ。大好きだ。」 「だめ、泣いちゃう」 「しし、何で泣くんだ?」 「酔ってるから!」 優しく頭を撫でてくれるルフィのせいで、本当に涙が溢れてしまった。好きだな、ほんとうに。 騒がしい声はまだ聞こえているが、私たちの周りは静かだった。波の音だが聞こえてる中、抱きしめあっている。 「○○、歩くか」 「うん、散歩しよ」 今度は、手を繋いで。星空の下、波打ち際を2人で歩く。また幸せが更新されてしまった。これ以上の幸せはないって思い込んでいたけど、幸せはまだまだ更新され続けるんだろうな。 戻る ×
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