※進撃の巨人最終回後※ リヴァイが珍しく、服を買いに行く私に同行したいらしい。何故か、とは聞かなかった。 今日はちょうど、あの出来事から2年目である。 雲一つない青空。空を見上げると鳥が1羽飛んでいた。日差しが眩しく、帽子を持ってきたらよかったと少し後悔する。 晴れて良かったね、と言うとリヴァイは頷くだけだった。雨の日は車椅子では動き辛く、リヴァイは外に一切出ようとしない。 ゆっくりと街中を歩いていく。お互い話さずにのんびりとした時間が流れていた。 「後で、森の方まで散歩しようよ」 「俺は歩けねぇぞ」 「そんな自虐の冗談は真顔で言わないでよ?特にガビには」 私は真顔で冗談を言うリヴァイも好きだし面白いから良いんだけど。子供たちなら信じてしまって、何とも言えない顔をするのは目に見えている。 リヴァイは小さく笑い、車椅子を押す私の手に手を重ねた。最近、リヴァイはよく笑ってくれる。2年前まではどこか辛そうな顔をずっとしていた。それはリヴァイだけで無く、確か皆そうだった。あの時は、皆の顔色なんて伺えなかったのであまり自信はないが。私自身も、笑えてはいなかっただろう。 そんな事を考えている内に、いつもの服屋さんへ着いた。顔馴染みの店員さんに会釈すると、リヴァイを見て少し驚いている。そうか、ここへリヴァイが来たのは初めてだったか。話だけはしていたし、ここら辺でも私達はちょっとした有名人だったが顔より名前が世に知れ渡っているので当たり前か。 「初めまして。○○さんにはいつもお世話になってます。」 「今日は天気が良かったので一緒に。」 リヴァイが会釈し、店員さんもどこか安心した表情を浮かべた。片目がなく、元々強面の彼はやはり緊張する対象のようだ。 うきうきした気分で服を見ながら、リヴァイにもどれがいい?と聞いてみた。 「白が似合う。」 「ほんと?初めて聞いた」 「ニヤニヤするな」 「だって嬉しい…」 口下手な彼から「白が似合う」なんて言葉が出るなんて想像できただろうか。これを言うと怒られるので言わないが、私はそこから白にしか目がいかなくなった。恋人同士になって数年、結婚して2年だが未だに恋する乙女である。 「○○さん可愛いなぁっ」 「ちょっと!からかわないで!」 一部始終を店員さんに見られていたので、ニヤニヤしているのがバレてしまった。赤くなった顔を隠す為に、試着室を借りた。 鏡で自身の顔を見て驚いた。真っ赤である。 持って入った白いワンピースの袖に腕を通し、火照りが収まった頃に試着室から出た。正面には車椅子に座ったリヴァイ。一切表情は変わらないが、少し眉が上がった気がする。 「どうかな?」 「似合う。」 「今日のリヴァイはすごく素直ね」 「俺はいつも素直だが。」 良く言えば素直なのだろうか。無口だが、思った事は口にしている方である。悪く言えば、真っ直ぐに思った事を言い過ぎだ。 夫婦、という関係になってやっと慣れてきたが、初めましての時は戸惑ったものだ。好きだよりも先に、結婚しろと言ってきた男である。 また火照ってしまった顔は、冷めるのに時間がかかる。赤い顔のまま、私は元の服に着替え、試着した白いワンピースを店員さんに渡した。 「もちろん、お買い上げで?」 「………はい。」 「○○さんとリヴァイさんみたいな夫婦が羨ましい!」 そう言って、彼女はニヤニヤとした表情を浮かべながら服を畳んでいく。リヴァイは相変わらずの無表情だが、どこか上機嫌に見えた。そんな彼を見て、私が上機嫌になる。可愛い服も手に入って、愛しい夫と買い物ができて幸せそのものだ。 「またお待ちしてますー!」 「今日もありがとう」 お気に入りの服屋を後にし、街の外れへ向かう。そこには森があった。この街に住んでからと言うもの、暖かい日は良くここに一人で来る。ここもまた、お気に入りの場所の一つなのでリヴァイに紹介したいとずっと思っていた。 木々の隙間から日光が漏れ、幻想的な世界が目の前に広がっている。息を吸うと、少し冷えていたが木の香りがした。 「ここにいつも来るの」 「そうか」 リヴァイはと言うと、森ではなく空に目線を向けていた。そこには鳥が飛んでいる。 そう言えば、リヴァイが鳥を飼おうと言い出した時は驚いたが、何となく意味はわかるので拒否はしなかった。 「鳥が好きになったの?」 「前は心底嫌いだったが、今は嫌いじゃない」 「私も。鳥たちが羨ましかったなぁ」 自由、の象徴な気がして何度鳥になりたいと思ったことか。今は自由の身になり、羨ましいとは思わなくなったがリヴァイはきっと見るのも嫌だったのだろう。 もしかして、亡くなった同志達と重ねているのだろうか。自由になった彼らを見ているだけでリヴァイの顔は明るい。もし、本当に彼らが鳥に生まれ変わっていたとしたら、私も彼らのところに行きたいな。みんなに会いたい気持ちが強くなった。 「生まれ変わったら、鳥になりたい」 「俺も鳥にならねぇといけなくなるな」 「まさか、私と離れたくないから…とか?」 「当たり前だ。」 空から私へと視線を移しリヴァイは真顔で呟いた。冗談で言ったのに、彼は本気らしい。 「照れるって」 「いつまでも慣れねぇな」 「まだ信じられない時あるよ」 「前に来い」 車椅子を押していて後ろにいたので、リヴァイの正面へと歩く。ドキドキと心臓がうるさいが、彼は平常心に見える。そこがいつも少し悔しい。 頭へと手を伸ばそうとしているので、少し腰を落とす。髪をぐしゃぐしゃと撫でられ、引き寄せられた。リヴァイの胸板が目の前である。 「リヴァイ?人が来たら、」 「いつになっても○○が愛おしくて困る。」 「えっ、リヴァ、」 顔を見たいのにグッと頭を胸に押さえつけられ、動くことすら許されなかった。意地でも顔を見てやろうと思ったが、突然その気は失われた。鼻をすする音が聞こえ、リヴァイが私の頭に顔を埋めているからだ。涙脆い私と違って、彼のこの姿は初めてだ。 まだ2年前の戦いの途中だったら、私はきっと彼のこの姿に落胆したかもしれない。兵士長が泣いたなら、きっと部下達も着いて行かないだろう。ただ今は彼の妻として、私にだけ弱い自分を見せてくれているようで嬉しい気持ちもあった。 リヴァイを強く抱きしめる。思い出したのだろう、全てを。長い長い戦いを。そして今自由を実感して、溢れたのだろう。 「○○……泣きすぎだ」 「だって…リヴァイがぁ」 「俺の代わりに○○が泣いてくれ。」 いつの間にか私が泣いていて、リヴァイはいつもの真顔に戻っていた。だから私が代わりに泣いてやる。みんなの分も、嬉し涙を流してやる。 「俺は○○に何度も救われた」 「リヴァイ、やめてほんと、」 「○○がいたから、今俺がここにいる」 「うぅっ無理、」 嗚咽が出るほど泣いても泣いても、足りないほど溢れて止まらない。私もだよ、と伝えたいのに声が出なかった。私を抱きしめるリヴァイの腕の力が強くなる。 「リヴァ、リヴァイ」 「ん、?」 「あり、がとうっ…」 伝えたいことは沢山あるが、この一言だけをどうしても今伝えたかった。 顔を鷲掴みされ、勢いよく引き寄せたかと思うと唇に強引に噛み付いてきた。力強く、何度も何度も重ねられて息が吸えない。何が何だか分からなくなる。キスをされながらでも涙が止まらないし、ぐちゃぐちゃなのにリヴァイはキスをやめてくれない。 「リヴァ、んっ」 「○○、死ぬな」 死なないよ、もう戦いは終わったよ。そう伝えたいのに、リヴァイが言わせてくれない。大きな手で、頭を押さえつけられていた。背は私とあまり変わらないはずなのに、手は大きい。そして力は誰よりも強かった。 「愛してる、永遠に」 「えい、えん?」 「あぁ。何度生まれ変わってもだ」 「リヴァイ。愛してるよ、ずっと」 キスは止み、また力強く抱きしめられる。感情的なリヴァイは珍しく、そんな姿さえ愛おしい。生きていて良かったと心の底から思う。 リヴァイがずっと俺だけ幸せになっていいのかと悩んでいた事も知っている。私には声に出して言っていなかったが、特別仲間想いの彼だからきっと頭の片隅にはいつもあっただろう。けれど、今日で気づいたみたいだ。彼らの分まで、私たちは幸せになってこの一生を終えなければならない事を。 「あ、見てリヴァイ」 私の視線の先にリヴァイは目線を移す。そこには1羽鳥がいて、私たちを見ていた。その鳥は以前怪我をしていて保護し、リヴァイが飼いたいと言い始めたあの鳥である。私は密かにエレンと名付けていたがリヴァイは何と呼んでいたのだろう。 その鳥は鳴いた後、すぐに飛び立ってしまった。大きな羽を広げて、優雅に。自由に。 「さよなら。ありがとう。」 リヴァイは何も言わなかったが、じっと空を見つめている。鳥の鳴き声が森に響き渡り、風が頬を撫でる。 「寒くなってきたから、帰ろうよ」 リヴァイは頷き、私はゆっくりと車椅子を押して歩き始めた。今夜は彼女が大好きだったふかし芋が食べたい気分だ。 ーーーーーーーーー 遅ればせながら進撃の巨人完結おめでとうございます。 サイトの更新をしない間に終わってしまいました。悲しい気持ちでいっぱいですが、兵長にとっては終わって良かったなと思います。 なんとなく意味深な感じでまとめました。色々な解釈があると思いますので、私なりの最後とします。 そして、進撃の巨人の小説はきっともう書かないと思います。まだ途中の長編がありましたが、これを書いた後に書けないなと思ってしまいました。 どの立場で、と思われるかもしれませんが兵長には忘れて幸せになって欲しい。まず、死ぬのか死なないのかでずっと冷や冷やしておりましたが、とにかく生きてくれて嬉しかったのと、婚約者などの描写がなかったのが本当の本当に心の救いです。夢女子として。 なので、これが私にとっての最終回かなと思いました。 進撃の巨人の小説を楽しみにしていただいてありがとうございました。 2021/10/14 戻る ×
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