「まだ出てこないの?」

「軽食を届けても開けてくれなくて……」

ダイニングキッチンに戻ってきたサンジは出ていく前と同じく、おにぎりを乗せたお盆を持ったままだ。ナミは盛大にため息をつくと女部屋の隣にある○○の部屋に向かった。
こういう光景は月に三回ほど見るものだった。ドシドシと足音を立てて近づくナミは扉の前にいる人物をみて足を止めた。

「○○ー…そろそろ出て来いよ」

扉に背を付け座り込んでいる船長のルフィはしょんぼりとしている。そのルフィに気付かれていないをいいことにナミは盗み聞きすることにした。

「今話してる時間もないから、あっち行っててくれる?」

恋人であるルフィにも厳しい言い方だ。二人が付き合っていることをたまに忘れてしまうくらい一味の前では何もしない。ベッタリと惚れ込んでいる(らしい)ルフィも抱き付いたりキスをしているところをナミは知らなかった。二人でいる時もこうやってドライな関係なのか、と少し心配になる。
二人の見せない顔を見たいがために盗み聞きをしていたが、ナミはガッカリとした気持ちでダイニングキッチンに戻ろうとした。が、すぐにルフィが立ち上がった。

「あと何分待てばいい?」

「あとちょっと」

ルフィは何も言わずまたその場に腰を下ろした。○○を待っているらしい。待たされるなんて大嫌いなはずのルフィが健気に待っている姿にナミは驚いた。ナミの方が仲間になったのが早いというのに、こんなルフィの顔は知らなかった。
少し感動しながらダイニングキッチンに戻ると「どうだった?」という顔でサンジがナミを見る。ルフィがいたことを話すとサンジも少しだけ驚いているようだった。

「ルフィって、○○が好きなのね」

「そりゃ、付き合ってるんだ」

「そうなんだけど…二人が付き合ってることすらみんな忘れてたじゃない?」

「確かに…普段二人でいるところを見た事ないな」

「○○はちゃんと好きなのかしら」

クールであまり普段から話さない○○とルフィが付き合ったと報告された時は一味全員が耳を疑ったものだ。二人が話しているとこすらナミは見たことがなかったからだ。

「ナミさん、紅茶を淹れましょうか」

「うん、お願い。あとでもう一回様子を見てくるわ」

サンジがナミの紅茶を淹れ終えたとき、ロビンとゾロがダイニングキッチンに入って来た。サンジはロビンの分の紅茶を淹れ、ゾロはその姿を見た後音もなくまた出て行ってしまった。二人は犬猿の仲だが戦闘になると息がぴったりだと一味は知っているため普段仲が悪くても気にすることはない。
その後三人の会話が盛り上がり気づけば30分以上時間が経っていた。

「サンジくん、さっき○○に作ったおにぎり渡して来るわね」

「ありがとうナミさん、けどルフィにも作ったから少し重いよ?」

「大丈夫。」

さっきよりも量の多い皿をお盆に乗せナミはまた○○の部屋に向かった。足音をあまり立てず近づくとその光景に驚いた。まだルフィが部屋の前で座って待っている。ナミが紅茶を飲んで会話を楽しんでいた間もずっとそこにいたのだ。

「ル、」

船長の名を呼ぼうとした時、ちょうど扉が開いた。独特な油絵の匂いが鼻を刺激する。真っ白だったはずのつなぎが色んな色で汚れていた。
○○は有名な絵描きでその絵を完成させるために"アトリエ"に閉じこもることがよくあった。食欲や睡眠も忘れ、無我夢中で絵を完成させる。よくチョッパーに怒られているがやめることはなかった。世界中の景色をキャンパスに収めたい、それが○○の夢だった。
汚れてくたびれた○○は扉の前で座っていたルフィに抱き付いた。彼の真っ赤なベストにも絵具が付いてしまっている。

「眠いよ、疲れたよ、お腹空いたー……」

いつもよりも甘えたような○○の声をナミは初めて聞いた。こんな○○は初めてで、そしてそんな彼女を何も言わず優しく抱きしめ返している男前の船長の顔も知らないものだ。
ボサボサの髪をルフィは撫で、「お疲れさま」と囁く。こんなにも甘い雰囲気が二人から出るとは想像もしていなかったナミは危うくお盆を落としそうになった。

「完成したのか?」

「うん、やっと。この前の島でルフィと見たあの景色を忘れる前にどうしても描きたくて」

「あれびっくりしたなァ」

この前の島というのはルフィが勝手に一人で上陸し、○○は確か絵の道具を買って一人で帰って来たはずだ。二人が島を回っていたなんて、誰が想像できただろうか。

「ルフィ」

○○はルフィの名前を呼ぶと、その唇に口を押し付けていた。

「あ」

小さくナミは声を漏らすが二人はキスに夢中で気づいていない。クールな彼女の魅惑的な表情はナミでもドキリとしてしまう。離れようとした○○の頭をルフィは掴み、もう一度重ね合った。廊下で座りながらキスを続ける二人をナミは見ていられず、後ろを振り返る。

ガチャ、

ナミの背中から扉が閉まる音がした。ナミが○○の部屋のほうをみるともう二人の姿はない。二人で部屋に入ったようだ。
無意識に駆け足になりながらダイニングキッチンに戻ったナミをサンジとロビンは驚いた顔で見ていた。

「ナミさん……?」

「顔が真っ赤よ?」

お盆をサンジに無言で渡すと冷蔵庫から水を取り出したナミは一気に飲みほした。二人はちゃんと付き合っているんだと、ナミは初めて知った。

「見たのね?」

「ロビン知ってたの?」

「勿論、最初からこうよあの二人」

「言ってよー……見てるこっちが恥ずかしかったわ」

美人二人の意味深な会話にサンジは入って行けず、意味もわからなかった。火照った顔を冷まそうとナミは一口サイズの氷を食べ、ロビンはその彼女の姿に笑みを浮かべる。

後日、○○の最新の絵がダイニングキッチンに飾られた。この部屋は○○の絵が沢山飾られているがその一枚は一際目立っている。その絵の前に一味が集まり、美しさに感嘆の声をあげた。

「これ、幻想的だなーおれ好きだ」

「おれも好きだなー」

ウソップとチョッパーはもうずっと絵の前で座っている。ナミはその絵をみてまた顔が熱くなった。○○の最新作は、夜空に浮かぶオーロラの絵であった。二人は、昼ではなく夜に島を回っていたのだ。女部屋で一緒に寝ているから、ナミやロビンが寝た後、二人は抜け出してこの景色をみた。今までも抜け出していたのかもしれない。ああやって廊下でキスをしていたのかもしれない。それに気が付いたナミはどうして今まで気が付かなかったのか、不思議でたまらない。
同じダイニングキッチンでも離れた距離にいるこの二人は今どういう気持ちで、ここにいるんだろう。

「○○、これ実際に見たのか?」

ウソップの質問に○○は表情を変えず頷いた。ルフィの前ではあんなに甘い声を出していたのに、それの方が可愛いのに。ナミは残念に思う。

「こんなのいつみたんだよーいいなー」

チョッパーの嘆きには○○はなにも答えない。こうして全て知ったあと二人の様子を見てみれば明らかに怪しいし、たまに目を合わせているところを見ればすぐに気が付くはずなのに。

「やられたわ。」

ナミの盛大なため息にルフィと○○が笑みを浮かべたことを知っているのはロビンだけである。








――――――――



お久しぶりです。
意味深な話になりましたが、少し解説します。

二人はナミが見ていたことを知っています。そしてみんなが付き合っていないと思っているのも知っています。あえて見せつけたのです。
ロビンと三人でいる時は構わずイチャついていますが、一味がそれに気づく日はたぶん来ないでしょう(笑)
夜に抜け出して秘密のデート、設定だけでも妄想が広がります。

ありがとうございました。


2016/06/17






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