"決心"というものをしてから何日過ぎただろう。黒板の右上に書いてある日付を見てため息をついた。日付の下を見る限り今日の日直はゾロらしいが、休み時間中に黒板の字を消していなかったから怒られている。そんな先生のガミガミとした声をBGMに今日提出の課題に取り組んでいた。次の時間にノートを提出するからみんな必死にカリカリとシャーペンを動かしている。このままずっとゾロが怒られていれば課題は終わるのに今日に限って短めで済んでいた。 「お前らー今更しても遅いから直せよー取り上げるぞ?」 ニヤリと笑う赤髪のシャンクス先生は気さくで面白いがこういうところは許してくれないらしい。みんな渋々ノートを机に直した。そんな中、直さない生徒はやっぱりいる。 「おい、ルフィ。」 やっぱりお前か、とシャンクス先生は苦笑いを浮かべながらルフィの頭を叩いた。シャンクス先生はPTAとかモンスターペアレントなんて言葉は頭にないらしい。今時叩かれたくらいで親に言いつける子供もどうかと思うけど。 ルフィは課題から目を離し、シャンクスを見つめるとニカッと笑った。 「今日提出なんだ」 「だから…どうした?」 「今日出さねぇとやべェんだよォ」 「んなことおれは知らねェ。おれが授業するからにはキッチリ聞け」 「えー…頼むよシャンクス〜」 「誰かこいつを黙らせてくれ……」 シャンクス生徒の呆れた様子をみてルフィは大笑いし、それにつられて教室中が笑い声に包まれる。私も少し笑ってしまった。 「○○…こいつが課題してたら注意してやってくれ」 突然私の名前が出てきて、ビクッと肩が揺れた。 目の前にいるシャンクス先生は座っている私と目を合わせて微笑んだ。放棄ということですね。 隣の席のルフィはお構いなしに課題の処理を再開させてしまうし、シャンクス先生は授業を始めるし、私はどうしたらいいんだろう。 一番後ろの席で、みんなを見渡せるからわかるけど隠れて課題をしている人がほとんどだ。すると前の方の席に座っているナミがこちらを向いてウインクなんてするもんだから、サンジは大慌てだ。私だけそのウインクの意味がわかったから、恥ずかしくなる。 とりあえず、課題に勤しむルフィに声をかけてみることにする。 「………ルフィ」 「…んー?」 課題に視線を向けたまま関心のない返事が返ってきた。 「課題………」 「わりィ!あとちょっとなんだ」 私だってまだ終わってないのに…という言葉は飲み込んで、ダメだよと返す。 「真面目だなァ、○○」 返す言葉が見つからず、ガックリと項垂れる。"真面目"か……好きで真面目やってるわけじゃないけど、先生に注意しろって言われたからしてるだけで…私の意志じゃ……… 「わかってるって!」 何も言っていないはずなのに、ルフィは笑って言った。何をわかっているんだろう。とか言いつつルフィの課題は終わりを迎えようとしていた。 もう私は知らない、そういう意味を込めてルフィを睨みつけてシャンクス先生が書く汚い字をノートに写す。 私の苦手な歴史の授業、さらにシャンクス先生は書くスピードが速いから追いつけない。しかもルフィに構っている時間分書き写さなければならない。慌ててシャーペンを動かした。 「シャンクスー髪切ったか?」 「ルフィ黙れ、課題は終わったのか?」 「ああ。バッチリ答え写した!」 「こいつ、おれが先生だってことわかってるのか……」 「で、なんで髪切ったんだよ?」 「かっこいいだろ?」 「ふつー」 「ルフィっお前っ」 また教室が笑い声に包まれる。私はそれどころじゃなく、黒板の文字を写してやっと追いつくことができた。もうすぐ消されるところだったからホッと息をつく。 「シャンクス授業は?」 「お前が止めたんだろ!」 「そうだったっけ?」 「ルフィあとで呼び出しだ」 「えー………」 まさか、だとは思うけどルフィは私のために授業を止めてくれたんじゃないかな。とか自惚れたことを考えてみる。見てわかるようにルフィは人気者で誰にでも優しいけど適当なところが多いから、これもきっと適当なんだろう。まずルフィは私に関心すらないと思う。 いつの間にか授業も終わり、隣をみるとルフィは机に突っ伏して眠っていた。ノート写したのかな、写してないよね絶対。 「○○ー食堂ついてきてくれない?」 「うん!食堂で食べる?」 「人多いから嫌よ」 「じゃあ中庭!」 そう言って微笑むとナミがジュースを奢ってくれると言うので喜んだ。教室から出る前に寝ているルフィの頭にさっきの歴史のノートを置いてナミを追いかけた。 弁当を食べ終えて教室に戻ると、ルフィの姿がない。いつものメンバーで屋上にでも行ったんだろう。歴史のノートは私の机の上に置いてあった。いらなかったってことか…… 「あんた、"決心"はどうしたの?」 「……決心したつもりなんだけど…」 「全然してないじゃない。決心したって言った日から1週間も経つわよ?」 ナミの仰る通りで返す言葉が見つからず、奢ってもらった残り少ないオレンジジュースを飲み干した。 「頑張りないよ」 次が移動教室のナミは私の肩をポンッと叩くと教室を出て行った。んー…頑張らなきゃとは思うんだけど。机の上にある歴史のノートを出して数学のノートを取り出した。 5時間目も6時間目も移動教室の人が多いからHRはなく、そのまま解散となる。隣の席のルフィも私とは違う教科だから教室にはいなかった。帰りの用意をして、黒板の日付をみる。先生が明日の日付に書き換えていた。どんどん日にちが過ぎて行って、私の決心もどこかへいってしまいそうだ。目を伏せて歩き出すと、誰かに腕を掴まれる。咄嗟のことに驚いて、声が出なかった。顔を上げると、息を荒げるルフィがいる。 「…ルフィ?」 「はあっ…はっ…歴史のノート…」 「…ああ、使わなかったんでしょう?」 「いや、写した。ありがとな」 「そのためにわざわざ?」 なんか私の言い方が可愛くなくて、言ってから後悔する。もっと、違う言葉があるでしょう。 「ノートの中……」 「え、字汚かった?」 「違ェよ、中見たか?」 「ううん、見てない」 「……やっぱり…」 「何か書いたの?」 コクリと頷くルフィを見て、鞄の中にある歴史のノートを取り出した。 「見てもいい?」 「いや、見るな。直接言う」 「えっ、なんで?」 黒板の字を書き換えていた先生もいないし、教室には誰もいない。だけど誰か来るかもしれない。忘れ物を取りにきた生徒が大勢やってくるかもしれない。そんな可能性はルフィの頭の中にはないらしく、私はすっぽりとルフィの胸の中に収まっていた。 「えっと……あれ?抱きしめられてる?」 「○○はおれに抱きしめられてる」 「えっと……なぜ?」 「好きだから」 「………えっと…なぜ?」 「○○………生きてるか?」 ルフィの胸の中は暖かく、鼓動がうるさく響いている。どっちの鼓動かはわからないけど、生きているのは確かだ。いや、そんなことより私はいまの状況を理解できないでいる。だって、ルフィは私に関心なんてなかったはず。 「好きなんだよ、○○が」 「ど、どうして…私?」 ルフィはモテるし、他に女の子は沢山いる。 「真面目に注意してきたところとノート貸してくれるところ、たまに授業中あくびするとこ、おれをチラチラみてくるとこ、」 「まっ、てまって!え、好きなところそこ?」 「んー全部」 「ぜ、全部………」 さっき落ちてしまった歴史のノートが開いていて、そこには小さく"好きだ"と書かれていた。 「昼休み起こされてよ、頭の上にあるノート見て○○に言いたくなって書いたけど、やっぱり直接言おうと思って走ってきた」 ルフィの胸から顔を上げて、慌ててカバンをひっくり返す。 「おい!?何してんだ?」 「みて、これ」 パサパサと落ちたのは小さく折りたたまれたノートの切れ端や、便箋。 「私が、ルフィに渡そうと思ってたもの。渡せなくて、毎日カバンに押し込んで帰ってた。ずっと前から、決心してたのに」 ルフィは落ちた中の一枚を拾い上げて、中を読んだ。そして、目を大きく開く。そこには私の想いが沢山詰まっていた。 「なーんだ…○○もか」 て言うルフィは全部の手紙を拾い上げて嬉しそうに笑った。 「今、おれ、すげェ嬉しい。」 頬を赤く染めながら手紙を読んでいて、こっちが恥ずかしくなってきた。今までの手紙を言われるより直接言った方がマシだ、とルフィの名前を呼んで目を合わせる。 「ん?」 「好き」 今まで言えなかったたった二文字の言葉がルフィに届いて、そして同じ言葉が返ってきて…知らない間に涙が流れていた。その涙をみてオロオロとするルフィに笑いかけ、その体に抱きつく。落ちている歴史のノートと、抱きついた拍子に落としてしまった手紙なんて今はどうでもよかった。ただただ強く抱きしめ合う。 「もしかして、今日の歴史の授業……私のために止めてくれた?」 ノートをみて思い出し、顔だけ上げて聞くとルフィは顔を真っ赤に染めた。 「バ、バレて……!」 あの時、自惚れても良かったんだ。ルフィは写すのについていけない私のためにシャンクス先生に声をかけてくれた。 「ルフィっ、ありがとう」 お礼を言うと照れたような笑い声が聞こえる。私は力一杯ルフィを抱きしめ、その存在を感じた。夢じゃなく、これは現実なんだ。ルフィも同じことを思っているのか、強くけれど優しく抱きしめてくれた。 「おい、お前ら………」 突然、声が聞こえて私たち2人は慌てて距離をとるがもう遅い。ニヤニヤとしたシャンクス先生が私たちを見ていた。ルフィの顔が赤いから、私もだろう。少し不機嫌になったルフィは唇を尖らせた。 「ふーん、へー、そういうことか」 「っ、なんだよシャンクス」 「おれがキューピッドか?」 キューピッド……そう言われればそんな気も………二人は何も言えずに固まってしまい、沈黙は肯定ととられる。 「おれには頭上がらねェな、ルフィ」 ルフィは悔しがるだけで何も言わない。シャンクス先生は勝ち誇った顔で笑う。何も反論しない限り、ルフィもシャンクス先生には感謝しているんだろう。 「早速で悪いが、ルフィこれを運んでくれ」 シャンクス先生は手に持っていたノートの山をルフィに手渡すと、スタスタと歩いていく。ルフィは文句を言いながらもシャンクス先生についていった。こんなにもシャンクス先生に素直なルフィは初めて見る。微笑ましく思いながら、ルフィの後を追った。 2015/12/05 スクールラブってやつですね 戻る ×
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