「お前、誰だよ。なんでこの船にいるんだ。」 そんな冷たい瞳と、声は、私の精神を崩壊させるだけの威力があった。チョッパーによると、ルフィは壮絶な戦闘後、記憶喪失になった。といっても、海賊なことや仲間のことは覚えている。私だけを忘れてしまった。 「私だよ、ルフィ。」 いつもみたいに好きだって言って抱きしめてよ、キスしてよ。そんなに、冷たい瞳で私を見ないで。 「こんな奴おれは知らねェ。」 「なんで○○だけ忘れてるの、チョッパー!」 「ナ、ナミ!いてぇよ!」 私とルフィを一番応援してくれていたナミは、チョッパーの肩を勢いよく揺らしながら聞いた。 「ごめん、おれにもわからない。」 私は、もう、必要ないのかな。 「この船から降りろ。」 「ちょっと!ルフィ!○○はあんた死ぬほど愛してた女の子よ!?」 「おい、ルフィ!!」 横からなにを言われようと、ルフィは私から視線を逸らさなかった。仲間を守る、顔。それは私が惚れた顔で、不覚にもかっこいいと思ってしまう自分がいる。 「わ、たし。降ります。」 「○○!待って!」 「なにもずっとこのままな訳じゃねェ!明日にでも記憶が戻るかもしれねェし!」 「船長に、降りろと言われれば逆らうことは出来ないよ。」 もう、どうでもよくなって、私は荷物をまとめて小船で海に出た。涙腺なんてとうの昔に崩壊していて、このまま死んでもよかった。そう思ってたら意識が遠のいて行って、私は目を瞑った。 「おい、お前。」 「あなた、 誰。」 目の前にはいつものルフィじゃなく、見知らぬ男性がいた。うーん、どこかで見たことあるような。 「四日間眠り続けていた。しかも毎日うなされている。なにがあった。」 「もう、いいんです。さようなら。」 「おい………まぁいい。まだ治療中だ。寝てろ。」 「あなたは誰、医者ですか?」 「ロー。」 それだけ言うと、ローは立ち去っていった。私は、助かったのだろうか。ルフィのいない世界で、暮らしていけるのかな。想像しただけでつらかった。 それから数日間、私はこの部屋から出してもらえなかった。ローは海賊らしいが、その仲間たちにも会わしてくれない。ローと話しながら、私はどんどん病んでいった。 「私なんて、必要ない。」 「またそれか。」 「船長に捨てられた。」 「記憶喪失、で。だろ。」 「私との思い出が、全部消えた。」 楽しかった思い出も、嬉しかった思い出も、悲しい思い出も、全部。ふりだしに戻ってしまったんだ。 「○○。」 ローに抱きしめられていることに気づいたが、どうでもいい。これが、ルフィだったらな、と考える。 「おれを見ろ。」 顔を手で掴まれ、ローと目が合う。こういう顔してたんだなぁ。 「おれは、麦わら屋じゃねェ。」 「や、めて。」 「重ねて見るな。おれは、おれだ。」 「わかってる、けど。」 「おれは、お前に惚れてる。だから、おれを見ろ。」 驚きはあった。強引に何度もキスをされても、私はまだルフィを想っていた。 「おれが忘れさせてやる。」 その言葉が、一番印象的だったのを覚えている。 あれから、2年の月日が流れた。私の心は2年かけて治っていき、ちゃんとローと向き合うこともできた。心から好きだと言えるし、ルフィを忘れることもできたはずだ。 最初の数ヶ月は医務室から出してくれなかった。それは、クルーたちが私に惚れるかもしれないと思ったかららしい。そうとう独占欲が強いのか、最近でもたまにしか会わせてくれない。でも、それでもいい。私を愛してくれるなら。 「○○。」 「う、寒っ。ここどこ?」 「本当はあいつらに預けたかったが、おれのそばにいるのが安全だ。」 ちゅっと触れるだけのキスをしたあと、私は島に上陸した。極寒の地。なんていう島だろう。 「パンクハザード。あと少しだ、だからここで待ってろ。」 ローはなにかをしようとしているんだろう、私はここでおとなしく待つしかない。 「ロー、必ず戻ってきてね。」 「おれを誰だと思ってる。」 ぎゅうっと強く抱きしめ合って、ローを見送った。辺りを見回すと、どこかの部屋らしい。この部屋は暖かいし、本もあって退屈はしなさそう。 数時間がたった。外から騒がしい声が聞こえてきて、不安になる。ロー、お願いだから無事でいてね。 「この部屋か!!」 「まて、麦わら!そこじゃねェ!」 ドンッと扉が破壊され、誰かが入ってきた。麦わら、そうか。ルフィか。 「っ、…………」 言葉が出てこない。私はローが好きなはずなのに、久しぶりにこの姿をみて、抱きしめたくなっている。私なんて覚えていないのに。 「ケムリン、先行っててくれ。」 あれは確かスモーカー中将。頷くと、煙となってこの場から去って行った。 「お前…………」 「やめて!近寄らないでよ!!!」 もし、このまま近づいてしまえば、私はきっとローを裏切ってしまう。死ぬほど私たちは愛し合っていたの だから。 「○○か………?」 「っ!?」 まさかルフィの口から名前を呼ばれるとは思っていなくて、気がつけば私の瞳からは涙が溢れていた。 「○○っ、会いたかった。ずっと。」 「や、めてよ。もう、遅いの。」 「許してくれなんて言わねェ。けど、おれは今も……○○が……」 「やめてってば!!!!」 暖かいぬくもりに包まれ、身体が硬直した。懐かしい、香り。大好きだった、ルフィが今目の前にいる。 「1年前、やっと思い出した。全部。けど、そこに○○はいなかったんだ。」 この二年間で、ルフィは成長した。背も伸びてるし、声も少し低い。胸に傷もあるし、服装のセンスも変わった。私がいない間に、彼は大人へと近づいていっていた。ルフィが、遠く感じる。 「戻ってこいっ!○○!!」 ぎゅうっと強く抱きしめられ、少し苦しいがルフィの思いは、流れるように伝わってくる。 「わ、たし………」 私はどうしたいんだろう。ルフィのところに戻るのか、ローのところに留まるか。こうやって悩んでいること自体が最低なんだ。それは、わかってる。 「○○。」 「っ、ロー。」 抱きしめられている私だけしかみえないけど、扉のところにローがいた。険しい表情を浮かべ、でも乾いた笑みを浮かべていた。 「麦わら屋。」 「なんだ、トラ男。今は邪魔すんなよ。」 「それは聞けねェな。そいつはおれの女だ。」 ルフィは私を離して、ローを睨む。私が決められないのが悪いんだ。勝手になにかのヒロインみたいに、浮かれてたから悪い。 「お前が、記憶喪失になるから悪い。」 私の心を悟ったのか、ローは優しい瞳で私を見つめてから、ルフィに言った。 「だから、なんだ。もう全部思い出した。」 「麦わら屋、お前がよくても○○はこの二年間、つらい思いをしてきたんだってことわかってんのか。」 いつも言わないとうなくさいセリフも今日のローは言ってしまう。これは私のためか、自分のためか。たぶん両者ともだろう。 「わ、たしは。」 その後の私が呟いたセリフを聞いて、二人は目を見開いていた。そんなに驚くことだろうか、でも私は最初からこのつもりだった。 どっちも選べないの (どちらかを選ぼうとするから悪い) (どちらも選ばなきゃいい) (そういうことでしょ?だから私は) (今日、海賊をやめる) 寧々様リクエスト 本当に遅れてすみません!! こんなに時間がかかってしまって!! 20131130 戻る ×
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