サニー号の夕方はやけに静かだ。ブルックが奏でるヴァイオリンの音色が流れ、潮風がふき、景色はオレンジ色に染まる。そんな一時が私は大好きだ。

ゾロのダンベルを振る音も聞こえない。ナミの怒鳴り声も響かない。サンジもメロメロ状態にならない。フランキーとウソップがなにかを作る音も聞こえない。ルフィが騒ぐ音すら聞こえない。

ただ、ロビンとチョッパーと私で甲板に続く階段へと腰掛けてのんびりと夕食を待つだけだ。

「チョッパー、○○。カモメよ。」
「巣に帰るのかな。」
「きっとそうよ。」

ロビンが優しく微笑む。その笑顔がすごく綺麗だ。チョッパーはじっと楽しそうにカモメの群れを見つめていた。

「いい匂いね。」
「もうすぐメシかな?」
「私、ルフィ呼んでくるね。」

ロビンが笑って頷くのをみて、船首に向かって歩く。夕方、ルフィが静かなのは海を見つめてるから。

「ルーフィ。」
「お、○○。メシか?」
「いい匂いがするから、たぶんもうすぐ。」

私が来たら、ご飯。という方程式がルフィの中でできているみたい。海を見つめていた視線が私に向けられた。

「ルフィはホント海が好きだね。」

サニーの上には怖くて乗れないけど、近くでオレンジ色の海を見つめた。気持ちが楽になるっていうか、癒されるというか。そんなにストレスがたまってるわけじゃないんだけど。

「○○、来いよ」
「や、やだよ。怖いし!ここで十分。」
「そんなとこじゃ、よく見えねェだろ!」

ルフィのゴムの腕が伸びてきて、私の手首を掴んで、ぐっと引き寄せられた。悲鳴をあげる間もなく、ルフィの胸に飛び込んでいた。

「ルフィっ」
「わりィ!そんな怒るなよ。見ろ!」

グイッと顔を海へと向けられる。そこには今までにみたことないような景色が広がっていた。ルフィがここを気に入る意味がわかった気がした。本当に、綺麗。

「す、ごい。こんなに綺麗なんだ。」

景色に見入っていると、ぎゅっと後ろから抱きしめられて、心臓が高鳴った。

「好きなやつと見るのって、いつもと違うな。」
「?、」
「なんか、いつもより綺麗だ。」

私の耳元で呟かれたその言葉は、私の心臓をはやくさせた。ルフィと見るから、こんなに綺麗なのかな。

「海も肉も冒険も仲間も、みんな好きだけど………○○が好きだ。」

きゅんっと胸が高鳴って、カァッと顔に熱が集まった。○○も、じゃなくて。○○が、なんだ。そう思うと嬉しくて、勝手に口が開いてた。

「私も。ルフィが好き。大好き。」

ルフィと向かい合わせになって、黒い瞳を見つめて言えば、恥ずかしくなかった。それより、幸せだった。

「あと、○○の唇が好きだ。」
「キス、したいってこと?」
「○○がしたいかなって思っただけだ。」

キスしたいわけじゃない。むしろしたいんだけど、そんな恥ずかしいこといえるはずがない。

「したくねェのか。」
「……………っ、………」
「素直じゃねェなー。○○も。」
「ル、ルフィのバーカ!!」

そう言った瞬間、塞がれた私の唇。もちろんルフィの唇にだ。あまりにも急すぎて、私はぱちぱちと瞬きをした。

「したいって、顔に書いてあった。」
「したかったのはルフィでしょ!」
「へー。○○はしたくなかったのか。」

したかったよ!!!と叫ぼうかと思ったけど、やめた。私はそんなに簡単な女じゃないんだってことを、ルフィに知らしめないと。

「じゃあ、もうしないほうがいいな。」
「えっ、」
「だって○○、イヤなんだろ?」
「…………いやじゃ、ない!」

そう言ってキスしてやろうかと思ったけど、気づいたらもうキスされていた。ルフィとキスするのは初めてじゃないけど、いつも恥ずかしくて幸せで嬉しくて、初めてキスしたときと同じくらい感動する。

「そんなにキスしたかったか?」
「どうして?」
「嬉しそうな顔してる。」
「だって………嬉しいもん!」

ルフィに勢いよく抱きついて、海に落ちそうになるのはいつものこと。静かな夕方はもうすぐ終わり、楽しい騒がしい夜が始まる。




夕方

(えっ、敵襲?)(腹減ってんのにー。)(やっぱりすぐに騒がしくなっちゃうね。)(○○!はやく倒してメシだ!)(はーい)


執筆20130817






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