「おはようございます」

「おう。」

「リヴァイさん!おはようございます!」

「ああ、名前か。」

明らかな態度の差にオレは舌打ちをしてやる。すると名前はそれを無視してリヴァイさんにべったりだった。こいつすげぇわかりやすいな。
このカフェのバイトを始めて1年。オレは高校2年になる。初めて後輩が出来て、初めて教育係になるっていうから気合い入ってたのにこんな奴だとは夢にも思っていなかった。

「リヴァイさんのレモンティーが飲みたいです」

こいつ、リヴァイさんに厚かましい。オレの尊敬して止まないリヴァイさんに紅茶を淹れさせるなんて、そんな。

「待ってろ。」

淹れてくれるんすね。

「エレン、お前も飲むか?」

「オレもいいんですか?」

「ついでだ」

「じゃあピーチティーを。」

リヴァイさんは頷いてキッチンに行ってしまった。必然的に目の前のこいつと二人きりになる。

「ピーチティー好きなんですね」

リヴァイさんがどっか行った瞬間に不機嫌になる。こいつ絶対リヴァイさんが好きだ。まぁ、オレには関係ねぇけど。

「昔から好きなんだよ」

「お兄ちゃんもそうなんですよ」

「お前兄貴いんのか」

「はい、馬面の。」

馬面と言われて、今年同じクラスになった馬面を思い出す。ミカサのことが好きみたいで、何かとオレに喧嘩売ってくる。別にミカサと付き合ってねぇし、好きでもねぇのに何だあいつ。
でも馬面って結構多いのな。

「お前は馬面にならねぇで良かったな」

「ほんとですよ、馬面なら死んでます」

「それは兄貴に謝れよ……」

こんな妹も嫌だと思うけど。

「今、心の中で悪口言ってましたね?」

「………何でわかんの…」

「ほんとに言ってたんですね…」

「まぁ、けど飽きねぇだろうな」

「?、何の話かサッパリ」

「名前といて飽きることはねぇな、って…………」

あ。オレ今自爆した。

目の前の名前はニヤニヤ笑ってるし。

「それはプロポーズか?」

「……ハァッ?何言ってんだよ!?」

「ってこの前リヴァイさんに言われたの。」

「え、プロポーズしたのか……」

「してないよ!なんか、勘違いされただけです!」

「ふーん……」

あー言った方がいいのか?リヴァイさんには婚約者がいるって。でも別にこいつの勝手だし……今傷ついた顔見たくないし。

「おい、出来たぞ」

「いい匂い〜!ありがとうございます!」

「リヴァイさん、オレの分までありがとうございます」

まぁ、こんなに完璧で男前な人に婚約者がいない訳ないのはきっと名前もわかってるだろ。
俺は目の前に出された熱いピーチティーを喉に通した。

「あ、そろそろ着替えないと!」

来たままの格好だった名前は慌てて紅茶を飲み干して女子更衣室に入っていった。リヴァイさんが淹れてくれた貴重な紅茶はもっと味わって飲めって後で言ってやろう。

「エレン。」

「はい!」

「躾には痛みだが、教育には褒めるのが一番だ。特に名前みたいな奴には。」

褒めて伸ばせってことだろう。リヴァイさんに言われれば従うしかねぇけど、納得いかない部分もある。

「褒めると調子乗りません?」

「小さい頃から見てる俺が言うんだ、間違いない」

その言葉にムッと来てしまった。それは、リヴァイさんが名前ばかりに構うのが嫌なのか、それとも名前を昔から知ってるリヴァイさんにムカついたのか。オレにもわからない。

「リヴァイさん、あいつにはあなたに恋人がいること言ってあるんですか?」

「特に聞かれる事もねぇから言ってない」

「あまり夢を見させるのもどうかと…」

「意味がわからねぇ、何が言いたい?」

「だからあいつは…………」

ここで名前の気持ちをオレが伝えるのもおかしい。

「いえ、すみません。忘れて下さい。」

「忘れて下さいと言われて忘れられるほど馬鹿じゃねぇ。」

「…すみません」

「おい、エレン」

その時、タイミング良く名前が出てきた。初めて名前に救われた。

「エレンさん行きましょう。今日はやる気満々です」

「いつもやる気出せよ……」

リヴァイさんの目線は気になるが、オレは名前を連れて店内に急いだ。なんで尊敬するリヴァイさんにあんなこと言っちまったのか、わからない。

「………褒めて伸ばす、か」

褒めればきっと目の前のこいつはニヤニヤするんだろな、と思いつつもその顔が見たいと思ってしまった。
最近のオレ、おかしいかも。



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