高校に入学して2週間。
私はアルバイトをすることになった。早すぎると思われるかもしれない、私もそう思った。
可愛がってもらっているおじさんが経営しているカフェで、1人辞めてしまったらしく私に声を掛けてきた。
おじさんというのはお父さんの親友で、本名はエルヴィン・スミス。
「おじさん、お久しぶりです」
久しぶりといっても3ヶ月前に家に遊びに来ていた以来だ。
今日は説明会ということで何回か来たことがあるカフェに訪れた。
店の裏口から入り、休憩スペースにおじさんと向かい合わせで座る。
「あー!名前!?いつぶり?大きくなったねー!」
「ハンジさん!お久しぶりです」
「ハンジ、仕事はどうした?」
「う、ごめんエルヴィン。ちょっと疲れちゃって」
「まだ来て10分しか経っていないぞ」
「ごめんごめーん」
見ての通りゆるーいバイト先なのだ。おじさんは乾いた笑みを見せて、私に椅子へ座るように言った。
「確か名前はピーチティーが好きだったね?」
「おじさん、それは私のお兄ちゃんですよ。私はレモンです」
「そうか、そうだったね、ジャン君は元気かな?」
「あいかわず馬です、馬」
私は本当にお父さんとお兄ちゃんに、似なくて良かったなと思っている。馬面に生まれていたらこの世で生きていけない。
「ハハッ、これ飲みなさい」
「ありがとうございます」
前に出されたのは暖かいレモンティー。
「いい香り〜」
「もちろん、紅茶にうるさいリヴァイが淹れているからね」
「リヴァイさんの紅茶、久しぶりだな〜」
今日は社員全員が出勤しているみたいで、あとでハンジさんとリヴァイさんに挨拶にいこうと思う。
ここのカフェは2階もあって、そこら辺のカフェよりは大きな店だった。
「更衣室の場所は知っているね?そこに制服も入れておいた。ここに何度も来たことがあるから説明はいらないだろう」
「はい」
小さな頃から何度も訪れ、沢山優しくしてもらった。今度は私が恩返しをする番。
「君の教育係がそろそろ来る頃なんだが……」
「その人に接客を教えて貰えばいいですか?」
「ああ。名前より1年早く入ってきた子で仕事も早い」
「名前は……」
その時、ガチャリと裏口が開いた。
「おはようございます」
私と同じくらいか、一つ上か、それぐらいの歳の男の子が入ってきた。
「おはようエレン、早速だがこの子が新人の名前だよ」
「オレが教えるって言ってた…」
「そう。親友の娘でね、よくこの店にも来てたんだ」
「名前です、よろしくお願いします」
「ふーん、中学生かと思った」
エレンっていう人の言葉にその場が凍りついた。なんなのこの人、失礼にも程がある。
「…エレン、君のいけないところだ」
話によればエレンの暴言でこの前も新人が辞めてしまったらしい。
「オレは思ったことを言っただけですよ。着替えてきます」
私には謝罪もせずに、男の方の更衣室へ入ってしまった。
許せない。2週間前まで中学生だったけど、許せない。
「リヴァイさんに教えてもらいたい…」
「ほぉ、俺が手取り足取り教えてやろうか」
「!、リヴァイさん!」
エレンと入れ違いに更衣室から出てきたリヴァイさんは私服で、仕事は終わりらしい。
ドカッと私の横に座った。
「お久しぶりです!」
「でかくなりやがって」
そう言いながらもリヴァイさんは私の頭を優しく撫でてくれた。
あー好き。リヴァイさん。
ベタかもしれないが、実は初恋の相手だったりする。歳の差があるから、すぐに諦めたけどやっぱりかっこいい大人の男だ。
「リヴァイさんの淹れたレモンティーは本当に美味しいです」
「褒めたって何もやらねぇぞ」
「とか言いつつ、財布出すのやめて下さい!」
いつも会う度にお小遣いをくれるが、私は受け取ったことがない。子供扱いされているみたいで嫌だ。女としてではなく、子供としてみられているみたい。
「俺はそろそろ帰る。」
「お疲れ様です」
リヴァイさんは振り返って私をみたあと、裏口から出て行った。
「嬉しそうだな、リヴァイ」
「そうなんですか?」
「昔から君を見てるからね。親にでもなった気分なんだろう。」
私はそれが気に食わないんだけど。
ガチャリ、音がした方を見るとエレンが着替えて出てきた。そして私を見てすぐに目をそらし、店内へと向かっていく。
「本気で教育係変えてもらえませんか」
「リヴァイは忙しいから、ここはどうか目を瞑ってくれないか」
リヴァイさんに苦労はかけたくないし、我慢するしかない。私は小さく頷くしかなかった。