今までの人生の中で、“不幸”だなと思ったことはあまりなかった。
平凡に、比較的楽しい人生を送っていた。
ワンピースの世界に来たときは、私って不幸なのかなと悩んだ。
だけど、そんなことはなかった。
ルフィという愛おしい彼氏もできて、大切な仲間もできた。
みんなで笑って海賊して、私幸せだな、と思っていた。
けど、違った。
私はすごく不幸な人間だ。
ある日、空から少女が降ってきた。体験したことはあるが、見るのは初めてだった。
「いたたっ」
その少女をルフィは抱きかかえた。ルフィが助けなければ、少女は船へと激突していただろう。そのルフィの優しさに、惚れ惚れする自分がいた。
「お前、大丈夫か?」
「は…、はい!!」
これはいわゆる“トリップ”というもので。私も一度この世界に来るときに体験している。ルフィも、みんなも驚かず、その女の子に笑いかけた。
「お前、名前は?」
「わ、私…エリカって言うの!」
エリカちゃんも日本からきたらしい。ルフィは気に入って、仲間にすると言った。それはいつものことで、誰も気にせずそのままエリカちゃんを招き入れた。この時、悪い予感がしていたのは間違いではなかった。
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「○○ちゃんも、トリップしてきたのォ?」
可愛い上目使いで聞くエリカちゃんは、日本人には見えない。外国人?と思うほど可愛くて、羨ましいと思った。
「うん、そうなの」
「一緒だねェ。」
「うん!」
初めは可愛いエリカちゃんがなんだか妹になったみたいで、嬉しかった。いつごろだろうか、エリカちゃんの目が冷たくなったのわ。
「○○ちゃんってェ、ルフィと付き合ってるんだよねェ」
「う、うん。そうだよ」
「へェー…」
「ど、どうしたの?」
エリカちゃんの丸くてかわいい瞳が、急に鋭くなったように見えた。
「う、う……うわ〜ん!!」
急にエリカちゃんは泣き出し、一味全員が私達のところに集まった。私、なにか言ったかな。
「○○ちゃんが…!いじめてくるゥ〜!!」
私は目を見開いて、驚いた。い、いじめてなんかない。
「もう!○○!ダメじゃない。エリカが可哀相よ」
「え……、」
それからかな、みんなが冷たくなったのわ。ごはんの時も、私がいることを忘れられているみたいで。いつ笑ったのか、笑顔ってどうつくるのか、わからなくなってしまった。
唯一、話してくれたルフィも、あまり話さないようになってしまった。世界の色がなくなったみたいに、辺りは白と黒で。海賊というより、人生が楽しくなくなってしまった。
「○○……、またエリカ泣かせた?」
「な、泣かせて…ないよ…、ナミちゃん…」
「…そう?…泣いてたんだけど。エリカ。」
「私、知らない」
「○○ちゃんにいじめられたって言ってるけど?」
エリカちゃんが憎い。そう思っている自分が許せなくて、私はこの船を降りようかと迷った。だけど、私にはこの船しか居場所がない。
「ごめんね…、」
「謝ったってことは、いじめたのね…?」
「……、」
私は逃げた。流れる涙を見られないように、全力で。
「う…、ルフィ……、みんな……、どうしてェ…?」
流れる涙は、いつか枯れるんじゃないかって心配になるくらい溢れた。
「○○ちゃーん、」
「エ、リカ…ちゃん…」
いつも隠れて泣いている、倉庫に入ってきたのはエリカちゃん。エリカちゃんは私の隣へと腰を下ろした。
「そんなに泣いちゃ、可愛い顔が台無しだよォ?」
「……、」
「あ、そうだ!さっきルフィに告白されちゃった!」
私は顔を下に向けたまま、上げることはできなかった。私の唯一の希望だった、あのルフィも、全部取られてしまう。
「私ずっとルフィのこと好きだったのォ!応援してくれるよね…?○○ちゃん」
私は泣き叫んだ。エリカちゃんは、ニヤリと笑うと、倉庫から出て行った。
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