06
ついさっきまで、安原さんと機材をセッティングしていた筈じゃ、と首を傾げながら麻衣は辺りを見回した。すると、クスクスと抑えられない笑いを零し、屋上から反対側の校舎を眺める男女の学生が、麻衣の視界に映る。今の時刻は、夜だ。安原以外の学生は、既に帰宅している筈である。にも関わらず、生徒が居ることに首を傾げながら、麻衣は二人に近寄った。
麻衣が近寄っても、二人は楽しそうにクスクスと笑い続けるばかりで、全く麻衣を見ない。ついには、隣に並んでも、二人は一向に笑い続けるばかりだ。

「(そんな笑うようなモンかなー…)」

何が楽しいのか、何が面白いのかも分からず、麻衣は伺うように二人をちらりと見て、また反対側の校舎を見た。そして、同時に視界を過ぎった揺らめく発光体に、背筋を凍らせた。
そこにあったのは、所謂、人魂だった。それも、一つや二つではなく、数え切れないほど、無数にある人魂なのだ。
暫く、呆然とその光景に圧倒させられていた麻衣だったが、直ぐに我に返ると、震える声で二人の学生に声を掛けた。

「……ね、ねえ……?あれが何だか、分かってるの……?」

麻衣が声を掛けると、今まで響いていた小さな笑い声が、ピタリと止まった。そして、代わりと言わんばかりに、酷く冷たい声音が、その場に静かに響いた。

「わかってるわ」
「だから、楽しいんじゃないか」
「楽しいって……っ」

楽しいなんて、今の状況にそぐわない処か、不謹慎過ぎる言葉を吐いた二人に、麻衣は声を荒げて、二人を見た。そして、最後まで言い終わらぬ内に、麻衣は言葉を失った。
二人が、暗く光のない瞳で、麻衣をジッと見詰めていたのだ。その重圧をも感じさせる瞳に、麻衣は気圧されてしまう。
不意に、二人の口元がにいっと不気味に、そしていびつに歪んだ。

「ふふっ。すごく、楽しいわよ」
「これ以上、愉快な気分なんてないくらいだよ」
「(―――この子達…、誰…)、あ」

ふと、脳裏に安原が、自殺した生徒がいる、と言っていた事を思い出した。同時に、確信にも近い仮定が、麻衣の胸の内を占めた。
それを噛み締めながら、麻衣は強張る体を奮い立たせて、口を開いた。

「あなた、もしかして」

ニンマリと歪んだ笑みを浮かべる二人に、麻衣は何処か既視感を覚えたのだった。


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