「…て、食べ終わってるじゃないですか。」


「薬、口移しで」


莫迦かこの人は。
そう思った。

だから「自分で飲んで下さい」と言って薬を渡した。


「コレ苦いんでさァ…千緒の口移しなら幾分甘くなるかなァって思ったんですけどねィ」

そう言いながら、包みを開けると白い粉が見えた。
一瞬、嫌な顔をしたが沖田さんはそれを舌の裏側に流し入れた。
そして手だけを差し出した。

あ、水か。

私は水を沖田さんの手に持たせると私の手首ごと掴んで引いた。
私の体はフワリと布団に倒れ込み、所謂組み敷かれたわけだ。


「うわぁ」


「ひひッ良いツラ…欲しくなる」


「何…が…?」

耳元で、吐息が言った。


「好きな奴からの口移しで薬を呑むと回復するらしいでさァ、協力、しますよねィ」


沖田さんは、水を口に含めると、私の唇に自分の唇を重ねた。

「…ぁ」

少し口を開けると、途端に口の中に苦味の水が広がった。
口の端から唾液とも水ともつかない液体が流れて伝う。それがくすぐったかったけど気にする余裕は無かった。
唇が離れると、顎を少し上にあげられた。
そしたら、私はそれをゴクン、と飲み込んでしまった。

聞けば労咳は移るという。


「名前、俺と死んで下せィ」


苦しそうな沖田さんの声と腕が私を包んだ。
私は、彼の袖を握り返す事すら出来ずにいた。


「うそつき」