まだ、足りないよ。
「夜宴。
実技は捨てるつもりだから、いいとして授業ノートは見せてくれ」
学校でも、積極的に話し掛けてくれるようにはなったけど未だに名字呼び。
「藤にはチャレンジ力ってものが欠片も無いのね……呆れるわ」
それに感化されて、私も未だにみんなの前では名前で呼べない。
「諦めも肝心だろ。
つーか、音楽なんて授業はあったって意味が無いと俺は思う。
歌が歌えたとこで世界のためになるか?
世界平和は本当に成されるか?
ほら、必要ねーだろ」
「藤みたいに直ぐ諦める人間はどちらにしろ世界を平和になんて出来っこないでしょ」
「何言ってんだか、俺がわざわざ世界を平和にする理由なんて無いだろ」
「そうね、藤みたいな只のイケメンに世界だって救われたくないわよね」
「本当にお前って可愛くない女だな」
誰のせいよ。
麓介が私への接し方を改めれば、可愛くなるんじゃないの…多分。
「とにかく、ノート」
「いつでも頼ればなんとかなるっていう根性を好きな人に植え付けても相手のためにならないって本好が言ってたのよね」
「本好の助言は忘れろ」
「藤、アンタね」
私が叱り飛ばそうとした瞬間、麓介の手が私の唇へと伸びてきて、奴は人差し指で私の唇を押してきた。
「な。
いいだろ?
レイナ」
……伊達に天然のイケメンをやってきてるだけのことはあるな…。
ムっカつく…。
カッコイイじゃないの…。
私は麓介のその無意識な男前言動にイラッとしつつも音楽のノートを自分の机の上へ叩きつけた。
「持ってけ、泥棒」
私の言動に麓介は口元に笑みを浮かべつつ、その音楽のノートをゆっくり手に取った。
「流石。
話せば分かると信じてた」
「ムカつくからもう喋らないでくれる。
っていうか、話してないじゃないのよ、最終的には」
腕を組みながら、麓介を睨み付けてやると、麓介は私の耳元に唇を寄せてきた。
「テストが終わったら礼をたっぷりしてやるから可愛い顔して怒んなよ、レイナ」
ああ、そうか。
あなたには足りない言葉が沢山ある。
でも、其処が魅力だと思ってしまった。
それが私の敗因ね。
足りない言葉
でも、たまには。
愛してるの一つも欲しいんだけどね。
END.
短いですが、愛は込めたつもりです。
麓介くんがさりげなくイケメンちっくな行動をしてくれるかは分かりませんが、やってくれたら最高ですね。
20100907 Up