「ひとつ ふたつは

あかごも 踏むや

みつ よつは

鬼も 泣く泣く」


幼い澄んだ声。女性達に紛れた小さく細い影。一人の小さな少女が大人に負けず劣らず一生懸命たたらを踏んでいる。
その横で休憩中の女が嬉しそうに言った。


「今日、アシタカ様がきてくださるんだって!」


今日のたたら場はその話で持ちきりだ。休憩中の女性達はこぞってその話題について話し込んでいる。

アシタカは、このたたらでの英雄だ。
死にかけたたたらの住人を此処まで届け、ここの頭であるエボシを救い、シシガミの森を鎮めたのだ。おまけに、優しく顔もいい。女が騒がない筈がない。


しかし少女はその事に興味があまり無いようで、精一杯めかし込む年上の女性達の輪には入らず、足を動かしていた。滴る汗がくすぐったいのか時折着物の袖を額に寄せている。


「優愛もアシタカ様に会いたいでしょ?」


「いえ、私は…」


話し掛けられ、たたらを踏みながら眉間に皺を寄せて苦笑いした。


「なんでよ?優愛は若いし綺麗だし、年だって一番近いじゃないの!」


「そんなこと、ないです。それに、」


拾われ者の溝みたいな私があって良い方でもないから…


優愛は交代の時間だと声を掛けられ、たたら場からでていった

















「♪♪〜♪〜♪♪〜♪〜♪〜♪♪〜」


三味線の音と澄んだ声が部屋に響く。


障子戸を少しだけ開けた薄暗い部屋には、たたら場を取り仕切るエボシと、先ほどまでたたらを踏んでいた少女、優愛がいた。優愛は細長い指を三味線に滑らせ、柔らかい声で歌っていた


「そなたの歌声はいつ聴いてもいいな」


エボシがスルリと頭を撫でる。優愛は猫のように目を細めて喜んでいた。


「もう一曲、聴かせてくれないか。」


エボシに言われ、優愛は再び三味線を持った。










♪〜♪♪〜♪〜♪

「歌声…?」


アシタカはたたら場からの帰り道、足を止めた。

微かに音が聞こえてくる。耳を澄ますと、息を呑むような美しい歌声が聞こえてきた



「♪〜♪〜♪♪」


綺麗で、柔らかく、少し憂いのある歌声は、どこから聞こえてくるのかわからなかった。
アシタカはぐるりと辺りを見回して探していると、歌声が止んでしまった。


「誰だったのだろう。」


アシタカは名残惜しく思いながらもその場を去った









「ひとつ ふたつは

赤子も 踏むや

みつ よつは

鬼も 泣く泣く」


澄んだ歌声は今日は上機嫌のようだった。
いつもより、より、優しく、美しく、柔らかい声は、その場を彩る花の様にたたら場に広がっていく。


「優愛、休憩だよ。」


「はーい」


返事にまで音符がつきそうな優愛はたたらから降り、大屋根から出て行く。

優愛は人気の少ない小道を散歩して涼んでいた。



キィィイン


バシッ


突然弓の音がした。そう言えばこの垣根の向こう側は弓の練習場だったな、と優愛は思い、垣根の隙間から少しだけ中を除く。


(あ、あの人…)


弓を撃っていたのはアシタカだった。凛々しく勇ましい姿に優愛は固まる。


ガサッ


「!」


見とれていた優愛は思わず音を出してしまい、慌ててその場を離れた


「あの娘は…?」


「あぁ、売られたところをエボシ様が引き取った子だよ。随分と可哀想な思いをしてきたらしくてね。あんまり人に懐かないんだ。」


「そうか…」


アシタカは遠くなっていく背中を見つめた。








"明日も行く"


そう約束したアシタカは、今夜も大屋根に来ていた。しかし、頭からあの歌声が離れないようだった


(今日も歌っているのだろうか)


アシタカは、歌声がどうしても気になっていた。
立ち止まって少し悩み、やっぱりあの場所へもう一度いこうと、踵を返した時、


「♪♪〜♪♪〜♪」


あの歌声が聞こえてきた。
美しい声に再び聴き惚れるが、今度は慎重に歌声の元を探す。すると、



「大屋根…?」



アシタカは走り出した





ルビーの思い


2人がであうまで、後少し









誕生石(じゃないけど)→ルビー

石言葉→情熱、仁愛、威厳、勇気、自由、信頼、運命、友情、率直