「またですかこのくだり。」
「定着しつつあんな。」
「してほしくないんだけど。」
ズカズカまた入って来て、好き勝手し始める奴ら。頼みの綱のユウはクリスマスと同様に任務というね…。
「今回も知らなそうなので説明しときますね。はいラビ。」
「ねぇ。」
「何故オレ。」
「ちょっと。」
「裏歴史語り腐ってるんですから覚えてるでしょ。ほら、常識の足りない緋彗のためにさぁ早く。」
「バレンタインくらい知ってますけど。」
「しっかたねェなー…よく聞けよ緋彗。バレンタインってのh「いやだから知ってますけど!」
『うそぉ。』
「うざっ!」
なにその、別に嘘ついてまで見栄張らなくていいんだよ。どうせ馬鹿なのは知ってるんだからアハハ。みたいな顔。あっはっはー清々しいくらいに堂々と笑うなって。
「はっ…腹痛ェ…!!」
「アハハハハ!冗談にも程があるよ緋彗!!」
二人とも笑い死ねばいいのに。
じゃあバレンタインの説明してくれよ。とラビが挑戦的に聞いてくる。なにあの勝ち誇った顔。腹立つなオイ。
「バレンタイン・デーは英語で“Saint Valentine’s Day(聖バレンタインの日)”。
バレンタインっていうのは人名なんだけど、バレンタインこと聖バレンティヌスと呼ばれる人は二人いて、どっちが“聖バレンタイン”なのかは意見が分かれてんの。
1人は296年頃にローマで殉教したローマ北方のフラミニア街道に埋葬された司祭、もう1人はローマで処刑されたウンブリアのテルモという町の司教。
で、聖バレンティヌスに関する断片的な話をつなぎ合わせると次のようになった。
西暦3世紀、ローマ帝国皇帝クラウディウス2世(在位268〜270)は、愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるという理由で、ローマでの兵士の婚姻を禁止した。強い軍隊を作るためにね。
でもインテラムナ…イタリア中部にある町で、現在のテラモのキリスト教司祭であるバレンティヌス、英語読みではバレンタインなんだけど、とにかくその人は可哀相な兵士たちを見兼ねて内緒で結婚をさせてたんだ。
これを咎められてバレンティヌスは逮捕。処刑されることになったんだけど、このときアステリオっていう判事の手で取り調べを受けたのね。
そしてアステリオには目の見えない娘がいたんだ。この娘が取調中のバレンティヌスと密かに心を通じ合わせるようになって、その愛の力で彼女の目が奇跡的に直ってしまった。それを知ったアステリオはバレンティヌスに感謝して、一家そろってキリスト教に改宗してしまったの。
だけどその件が市長に知られると市長はアステリオの一家を逮捕し全員処刑。そしてバレンティヌスは悪の張本人として数々の拷問を受けたあげく最後は処刑された。たしか撲殺だっけっかな。
処刑の日はユノの祭日で、ルペルカリア祭の前日の2月14日があえて選ばれた。
バレンタインはルペルカリア祭に捧げる生贄とされたんだ。だからキリスト教徒にとっても、この日は祭日になって恋人たちの日になった。
たぶん両方のバレンティヌスがもしかしたら混ざったんだろうね。だけどこの逸話には若干つけたしが必要なんだよ。
初期のローマ教会は、当時の祭事から異教の要素を排除しようと努力した跡がみられてる。ルペルカリア祭は排除すべきだけど、ただ禁止しても反発を招くだけなんだよね。だから教会がとった方法はこの祭りに何かキリスト教に由来する理由をつけること。そこで兵士の結婚のために殉教したバレンタイン司教の助けを借りることにしたと考えられるんだ。
こうしてキリスト教以前からあったルペルカリア祭はバレンタイン由来の祭りであると解釈を変更されて、祭りはその後も続いた。
この話のポイントはさ、結婚が禁止されている恋人たちを結婚させてやったことと愛の力で目を治したということ。
どっちも愛と関連してたから恋人たちの守護者とされるみたいだね。
で、バレンタイン・デーが始まったのは中世ヨーロッパ。聖バレンタインは愛の守護神と見做されるようになって14世紀頃からこの日に恋人たちが贈り物やカードを交換するとか、その日の最初に出会った異性を“バレンタインの男性”“バレンタインの女性”と一年くらい呼び合うみたいな風習などが出来てきてきてるんだ。
あとね、バレンティヌスは獄中でも恐れずに看守たちに引き続き神の愛を語ったんだ。
さっき言ったアステリオの目の不自由な娘いたじゃん?その娘がバレンティヌスと親しくなった。そしてバレンティヌスが彼女のために祈ると奇跡的に目が見えるようになった。これがきっかけでバレンティヌスは処刑されるって言ったでしょ?でも死ぬ前に“あなたのバレンティヌスより”って署名した手紙を彼女に残したそうだよ。それがバレンタイン・カードの始まりなんだ。
それがそのうち、若い男性が自分の好きな女性に、愛の気持ちをつづった手紙を2月14日に出すようになって、これが次第に広まって行った。現存する最古のものは1400年代初頭にロンドン塔に幽閉されていたフランスの詩人が奥さんに書いたもので大英博物館に保存されてるんだってさ。
しばらく経つとカードがよく使われるようになって、今じゃあ男女お互いにバレンタイン・カードを出すようになった。バレンティヌスがしたように“From Your Valentine(あなたのバレンタインより)”って書いたり、“Be My Valentine(私のバレンタインになって)”とかって書いたりすることもあるよ。今のアメリカじゃあクリスマス・カードの次に多く交換されているんだとさ。」
「キモッ!」
「Σ(゚△゜)
なんで答えたのにキモいになるのさ!!意味がわからない!」
説明したのにキモい言われる始末。お前ら嫌い。視界に入るなバカ。
「ダイジョブダイジョブ!オレ達はレイナが博識だったこともキモいって思ったけど今のキモいはバレンティヌス司教が撲殺されたことに対してのキモいなんさ。」
「さりげなくけなさなくていいからさりげなく動物と人間の境界線ちゃっかり越えちゃってなくていいから。」
「関係ねェだろ。そんなだったら緋彗は悪魔と人間でアレンは老人とガキだな!」
ケラケラ笑い出すラビ。当然僕らには怒りが込み上げているわけで…
「冥土の土産はそれでいいよな?」
「え?」
「お土産、十分足りてますよね。」
「うそっ!?」
『死ねや。』
「ぎゃあぁぁぁぁああっ!!!!!」
命は儚いということを学習出来た気がした。 ←→ page: